組んだ膝の上に、ジェイ・ゼルがハルシャを呼ぶ。
ここにおいで、と。
広げた腕が、ハルシャを受け止めるように差し伸ばされる。
ハルシャは、腕を支えにして身を起こし、ジェイ・ゼルの側に体を寄せた。
「私の上に、乗ってごらん」
寄せたハルシャの顔に、ジェイ・ゼルが呟く。
こくんとハルシャはうなずいて、立ち上がった。
「私に背中を預けて――そう、ハルシャは前を向いたままで……」
手と言葉で誘導され、ハルシャは背中をジェイ・ゼルに向けて中腰の姿勢になった。
ジェイ・ゼルの手が、自身の昂ぶりをハルシャの後孔にあてがう。
「支えていてあげるから、ゆっくりと、腰を下ろしておいで、ハルシャ」
耳元で、言葉が呟かれる。
ハルシャは、以前教えられた通り、深く呼吸を繰り返し吐きながら身を沈めた。
ジェイ・ゼルの手が動きを助けてくれている。
一度彼を飲み込んでいた後孔は、するりと再び中にジェイ・ゼルを迎え入れた。
抜かれて寒さを覚えていた場所が再びジェイ・ゼルの熱で満たされ、ハルシャは深く息を吐いた。
「ああ――っ」
歓喜に身を震わせながら、ゆっくりと体重を乗せてジェイ・ゼルを沈める。
満たされていく。
ジェイ・ゼルに、自分の内側が。
支えるようにして、ジェイ・ゼルの手がハルシャのウエストを包んでいる。
あと少しで全て飲み込む、ということろで、不意にジェイ・ゼルの手がハルシャの身を下に押し付け、それと同時に彼の腰が強く突き上げられた。
がんっと、思わぬ強い力で入り込んだジェイ・ゼルの昂ぶりに、ハルシャは叫んでいた。
そこから、ジェイ・ゼルはハルシャの身を浮かせると同時に、下から突き、激しくハルシャを翻弄した。
身を反らし、ジェイ・ゼルに背中を預けてハルシャは嬌声を上げ続けた。
深く、確かな質量が、ハルシャの身を貫く。
「ジェイ・ゼル!」
ハルシャは、彼の名を呼んだ。
少し動きが緩やかになり、その代わりに、空いたジェイ・ゼルの両手が座るハルシャの胸元に這ってきた。
下から突きあげられながら、胸が刺激を受け、ハルシャは、叫びを抑えられなかった。
嵐のただ中に、巻き込まれたような、荒々しい刺激だった。
それまでの穏やかさなど、幻であったかのように。
急速に、ハルシャの中に熱が溜まり、昂ぶりが痛いほどだった。
「あああぁぁっ!」
悲鳴しか、出なかった。
ハルシャは、ジェイ・ゼルの組んだ膝に手の平で触れて、懸命に動きに耐える。
中の熱が耐えがたいほどになった時――
不意に、ジェイ・ゼルは全ての動きを止めた。
彼が動きを止めたのだと、すぐにハルシャは解らなかった。
汗ばむ肩に、ジェイ・ゼルが唇で触れている。
そのことを感じた時、ふと、自分はただ、ジェイ・ゼルの膝の上に座っているのだと気付いたのだ。
優しく、ジェイ・ゼルが肩に口づけを落としている。
荒い息を吐き、ハルシャはジェイ・ゼルの胸に、背中を預けて、しばらく茫然と虚空を見つめていた。
自分の心臓の音だけが、バクバクと聞こえる。
まるで、その鼓動が収まるのを待つように、ジェイ・ゼルはハルシャを刺し貫いたまま動かなかった。
唇が、ハルシャの首筋に触れる。
ハルシャは首をひねって、ジェイ・ゼルを見た。
灰色の瞳が、自分を見返している。
静かに微笑むと、ジェイ・ゼルがハルシャの頬を捕えて、そっと唇を触れ合わせた。
顔をひねるハルシャに配慮するように、彼はすぐに唇を離した。
ちゅっと、肩に口づけすると、指先で、再び乳首を穏やかに撫で始めた。
びくっと、ハルシャの内側が痙攣する。
ハルシャが落ち着いたことを確かめると、再びジェイ・ゼルは動き出した。
そうやって――
達しそうな極限まで高められながら、いざ絶頂を迎えそうになるとジェイ・ゼルはぴたりと動きを止める。
意図的な動きが長く続けられる。
動きを止める中、愛撫は続けられるが決定的な刺激は与えられない。
いつもなら真っ直ぐに放り込んでくれるめくるめく頂点が、目の前でちらつきながらも、、ハルシャに降りてくることがない。
それが――
ハルシャを、追い込んでいった。
達したい。
それしか考えられなくなるほど、ハルシャは幾度も、幾度も、絶頂の手前で、身を冷ますようにジェイ・ゼルの手で動きを止められていた。
止めた動きの続きを求めるように、ハルシャが自分で動こうとすると、ジェイ・ゼルがやんわりと制止し、ハルシャが正気を保てないような刺激が、胸や局所に与えられる。
全身から、汗が噴き出して、ハルシャは意識が朦朧とし始めた。
「ジェイ・ゼル……」
彼の膝の上で、突き上げられながら、熱に浮かされた者のように、ハルシャは虚空に呟き続けた。
「達したい……ジェイ・ゼル……お願いだ……」
局所に自分で触れて、絶頂を迎えようとしたハルシャの手が、そっとジェイ・ゼルに捕らわれた。彼は腕を後ろで一つにして握り込み、勝手にハルシャが触れられないように柔らかい力でいましめる。
揺さぶられ、体中に愛撫を与えられながらも、ハルシャは行為の果てにあるはずの絶頂にたどり着かせてもらえなかった。
息が、苦しかった。はっはっはと、浅い呼吸しか出来きず、意識が薄れそうになる。絶えず突き上げられながら、喉が枯れるほど叫び続ける。
ハルシャの変化を如実に把握しているジェイ・ゼルは、彼が達しそうになると、動きを止める。
どのぐらい自分がそうしているのか、ハルシャにはもう、時間の感覚がなくなっていた。嵐のように、荒れ狂う中で翻弄され続ける。
ハルシャは、一切の羞恥を捨てて懇願を呟いていた。
達したい。
絶頂を与えてくれ、と。
その言葉が、優しくジェイ・ゼルの唇で遮られる。
哀願を飲み込みながら、ジェイ・ゼルの腰が動き続ける。
深くえぐるように、ハルシャの中を穿つ。
ハルシャは、涙がにじみそうになってきた。
肉体が限界を迎えると、自然と涙が流れ落ちてくるものなのかもしれない。
「ジェイ・ゼル」
虚ろな眼差しで、ハルシャはうわ言のように呟き続けた。
「た……たっし……たい。おねがい……だ」
「達したいんだね、ハルシャ」
動きを止めていたジェイ・ゼルが、ハルシャの頬を撫でながら柔らかく問いかけた。
わずかに、ハルシャは首を揺らした。
自分が何をしているのか、もう、よく解らなくなってきている。
「わかったよ、ハルシャ」
優しく髪に、手が滑る。
「一緒に達そう」
言葉がゆっくりと、ハルシャに沁み込んでいく。
「ハルシャ」
髪を撫でながら、ジェイ・ゼルが言う。
「そのまま前に身を倒して、腕を突いて――腰を上げてくれないか?」
こくんとうなずくと、ジェイ・ゼルから与えられるものが欲しくて、ハルシャは彼の手の動きに促されるままに、身を倒して腕で体を支えた。
普段なら忌避する四つ這いの姿勢をとっていることに、ハルシャおぼろげながら気付く。
だが、頂点をむかえたいあまり震える身には、羞恥などもうどこかに飛んでいた。
「ジェイ・ゼル――」
せがむような言葉に、
「ハルシャ。私ももう、限界だ」
と、ジェイ・ゼルが声を震わせながら言う。
「手荒くしてしまう――すまない」
呟きと共に、深く激しく、ジェイ・ゼルの昂ぶりが後ろから押し込まれた。
「ああああっ!」
背中を反らしながら、ハルシャは叫んでいた。
身の肉と肉が激しく打ち付けられる音が響く。
自分があれほど嫌った姿勢であることも、背中をジェイ・ゼルに預ける恐怖も、全てが消え去っていく。
熱く打ち付けられるジェイ・ゼルの、太さと動きにせり上げられる。
絶頂感しか、意識できなくなる。
一切の容赦を捨てて、ジェイ・ゼルが想いを滴らせるように、強く腰を打ち付ける。
「ハルシャ」
名前を呼びながら、ジェイ・ゼルが中に深く強く這入ってくる。
「――ハルシャ……」
引き、打ち寄せ、再び引き。
動きに翻弄されながら、ハルシャの中に、それまでせき止められた快楽の熱量が、凄まじい勢いで押し寄せてきた。
総毛立ち、身ががくがくと震え出す。
ハルシャは、叫びが止めらなかった。
下腹部に熱いものがあふれて、不意に――
辺りが、真っ黒になった。
瞬間。
身の中に爆発が起こったかのような絶頂が、ハルシャの意識を遠くにさらっていった。
叫んでいたと思う。
だが、定かではなかった。
腕で身を支えられなくなり、がくりと上半身が崩れた。
瞼の奥に、宇宙が見えた。
深い、星々を秘めた広大な宇宙が――
内側で動くジェイ・ゼルの熱を、辛うじてハルシャは感じた。
心と身体が、バラバラになってしまったようだった。
ハルシャが達した時、いつもジェイ・ゼルは動かずに居てくれた。
だが――
今は、深く身を打ち込み続けていた。
ジェイ・ゼル。
思った途端、二度目の絶頂が、何の前触れもなく身の内に起こった。
ハルシャは、崩れていた身を跳ね上げて叫んだ。
内側が、細かく痙攣し続ける。
ジェイ・ゼルを飲み込んだ壁が、彼を取り込もうとするように蠕動する。
「ああんんあぁっ!」
ジェイ・ゼルの名を呼びたかった。
だが、言葉にならずに、喘ぎにしかならない。
ハルシャの崩れる腰を引き寄せるように、ジェイ・ゼルが強く自分自身を押し入れる。
ああ。
これが、本当の彼なのだ。
ハルシャは、薄れそうになる意識の中で、彼の動きを感じ続ける。
一切のためらいのない、身を貪るような動き――
彼が、自分自身をさらしてくれている。
心のままに、ハルシャを求めてくれている。
彼は――激しい嵐そのもののようだった。
ジェイ・ゼル。
息をすることすら出来ずに、ハルシャは揺さぶられる身を感じる。
三度目の絶頂が、深く、意識を暗転させるほど激しく訪れた。
快楽の嵐に身が虚脱する。
「ジェイ・ゼル……」
意識が落ちる前に、何とか、ハルシャは彼の名を口に出来た。
瞬間、奥深くに彼の熱いものがほとばしるのを感じた。
「――ハルシャ」
ジェイ・ゼルが、魂から絞り出すように、自分の名を呼んでいることを感じながら、快楽の波にさらわれるままに、ハルシャは闇の中に意識を落とし込んだ。
身の内が震えていることと、彼の精を飲み込んでいることだけが、ハルシャが最後に憶えていることだった。
ふと。
今、彼の目は緑になっているだろうか、と。
朦朧とする意識の中で、ハルシャは問いを内に呟いていた。