ほしのくさり

第72話  隠された真実-01 







 いつの間にか眠っていたらしい。
 ハルシャはゆっくりと瞼を押し上げた。

 ぼんやりとした視界の中に、ジェイ・ゼルの静かな寝顔があった。
 ジェイ・ゼルが向き合った状態で、守るように腕の中に抱きしめてくれている。
 その優しい空間に囚われて、自分は情事の後の微睡《まどろみ》に入ってしまったようだ。
 気怠い疲れが身を覆っていた。
 動きの激しさを物語るように、太ももの筋肉が張っている。
 だが、不思議な充足感が身の内にあった。

 今、何時だろう。

 ハルシャは、まだはっきりとしない頭の隅に考える。
 夕食は要らないといってあったが、あまり遅くなると、サーシャが心配する。
 もしかしたら、夜明けが近いのかもしれない。
 随分自分は、ぐっすりと眠ってしまったようだ。
 
 ハルシャは、これまでほとんどお目にかかったことがない、ジェイ・ゼルの寝顔に、視線を戻した。
 散々寝顔を見られているが、彼が眠っている姿を目にするのは初めてだった。
 すごく、貴重な体験かもしれない。
 時間を気にするのを止めて、ハルシャは、ジェイ・ゼルを見つめる。
 眠る彼は、穏やかな顔になっていた。
 ひどくくたびれて焦燥したような様子が、拭うように消えている。
 長い睫毛の縁どる彼の顔を、飽きることなくハルシャは眺めていた。

 あの後――抱きしめ合った状態で、再びハルシャは達した。
 ジェイ・ゼルはハルシャを揺り上げながら、一度そこでだけで達してから、ひどく敏感になっている乳首に唇を這わし続けた。
 今までとは質の違う快楽を身に与えられて、ハルシャはジェイ・ゼルの首に腕を回し、声を放ちながら絶頂を迎えた。
 ハルシャが衝撃から立ち直るまでの間、ジェイ・ゼルは動かなかった。
 固く抱き締めたまま、余韻に痙攣するハルシャの耳に、

 ハルシャ――私のハルシャ

 と、低く、呟く。
 それだけで、再び達しそうになってしまう。
 見つめる瞳は、透明な緑のままだった。

 まだ昂ぶりを解き放っていなかったジェイ・ゼルは、絶頂の余韻に弛緩するハルシャの身をベッドに横たえ、静かに膝を抱えあげると緩やかに動き続けた。
 浅い息を繰り返すハルシャを見つめながら、決して乱暴でない動きで身を進める。
交わる時間を愛おしむように、激しさを消した柔らかな動きで、ジェイ・ゼルがハルシャの中を擦りあげる。

 ハルシャ

 低い声で、名が呼ばれる。

 私のハルシャ

 所有をむき出しにするように、彼が重い言葉で呟く。
 その度に、ハルシャの敏感になった中が、うねるように痙攣する。

 少し前に身を倒すと、彼は出し入れを繰り返しながら、ハルシャの赤く尖る胸の頂を指先で刺激し始めた。
 全身がジェイ・ゼルの愛撫に反応し、ハルシャは声を上げ続けた。
 わざと時間を引き延ばしたような、長く静かな抽挿の果てにジェイ・ゼルが熱いほとばしりを中に放った時、ハルシャも同時に射精することなく頂点をむかえていた。
 がくがくと震える体を、ジェイ・ゼルが抱き上げる。再び膝の上に乗せて胸に引き寄せるように腕に包んだ。
 わずかの刺激でも身体が快楽として拾ってしまうまでに、ハルシャは追い詰められていた。
 それを理解してくれているのか、ジェイ・ゼルは動かず、ただ、静かに腕に抱きしめてくれていた。
 快楽の波が去り、虚脱する身を、ハルシャはジェイ・ゼルの揺るぎない体に預けた。
 そのまま、意識を失うように、彼の膝の上で眠ってしまったような気がする。
 やたらと眠気を覚えるハルシャの背中と髪が、彼の大きな手に包まれるように撫でられたのを快く感じていた。
 そこまでしか、記憶がない。

 安堵しながら、自分は温もりの中に眠っていた。
 目覚めた身が、きれいに拭われているのをハルシャは感じ取る。
 腹部に飛び散った白濁した液のこびりついた感がない。後孔も、ぬめりが拭われている。
 ジェイ・ゼルがしてくれたのだろうか。

 私のハルシャ――

 かつて、ギランジュに対して言った言葉を、行為の最中、彼はまるで無意識のように口にしていた。
 魂の底から絞り出すように。
 真実の言葉を、口からあふれさせるように。
 何の虚飾もなく、ひたむきに心の内を吐露してくれていた。

 眠るジェイ・ゼルを見つめてから、ハルシャは小さく心の中に、呟いてみた。


 ――私の、ジェイ・ゼル。


 ぼっと、顔が燃えた。
 だめだ。
 耐えられない。
 なんだ、この、得体のしれない恥ずかしさは。
 無理だ、自分には到底口に出来ない。
 羞恥に煽られて、ハルシャはシーツの中に顔を埋めた。
 
 くすっと、小さな笑い声が聞こえた。
 え、と思ってシーツの中から顔をのぞかせると、黒い優雅な睫毛が動き、静かにジェイ・ゼルが目を開いた。
 彼の灰色の瞳は、薄闇の光をはじいて、一瞬、底光りする銀に見えた。
「何を一人で、百面相しているんだい、ハルシャ」

 起きて、悶絶するハルシャを彼は眺めていたのだ。
「お、起きていたのか。ジェイ・ゼル」
 人が悪い。
 顔が赤くなる。
「だったら、教えてくれたらいいのに」

 ジェイ・ゼルの笑みが深くなる。
「ハルシャが、どうするのかなと思ってね」
 優しい口調で、彼が呟く。
「どう、って――どういう意味だ、ジェイ・ゼル」
 ハルシャの不審げな問いかけに、彼は小さく笑い声を上げる。
「サイアガナの森で、用事があるなら起こしてくれればいいと、君は言っていたからね。君は、出来るだけ早く、サーシャの待つ家に帰らなくてはならない。
 用事がある身だ。
 なら、私の寝顔を眺めずにさっさと起こすのかなと、そう、思って様子をうかがっていただけだよ」

 くすっと、彼が笑う。

 ジェイ・ゼルは、時々、こういった人の悪いことを言う。
 確かに、あの時は紫の森の中で宣言してしまった。
 無防備に眠る寝顔を見つめられていたのが、どうしようもなく恥ずかしかったからだ。
 そのことを覚えていて、彼は意趣返しをしてきている。
「ね、寝顔を、勝手に眺めて悪かった」
 その詫びが欲しいのかと思って、ハルシャは彼に呟いた。

 ふっと、ジェイ・ゼルが笑う。
「ハルシャは、想像力をもっと鍛えなくてはならないね。君は今まで、目の前のことにしか関心を払わずに生きて来たんだね」
 ジェイ・ゼルの手が、顎を捉える。
「私は嬉しいのだよ。君が自分の用事を優先させずに、黙って私の寝顔を見つめていたことが」
 顔が寄せられる。
「一言も言葉をかけずに、私を見守っていたことが――」
 唇が触れる。
 優しい、労りに満ちた口づけだった。
 触れ合う場所から、彼の想いが滴り落ちるようだった。
 私のハルシャ、と、静かに彼は告げていた。

 唇が離れ、静かにジェイ・ゼルが、
「君は、サーシャに私のことを、悪く伝えていなかったのだね」
 と、不意に呟いた。
 突然の話の展開に、ハルシャはしばらく無言だった。
 瞬きの後、
「サーシャには、本当のことを話していただけだ。ジェイ・ゼルが住む場所と仕事を与えてくれた。それで、生活が出来ている――それを善意に解釈したのは、妹の心だ」
 と、微かに頬を赤らめながら言った。

 借金のことと、両親の死はサーシャに具体的に伝えていない。
 切り詰めた生活をしなくてはならないこと。
 給金を支払う先があること。
 それだけしか、サーシャには情報として与えていなかった。

 ジェイ・ゼルが、静かにハルシャを見つめていた。
「人の心は、無意識のうちに、すぐに相手に伝わる」
 穏やかな声で、彼は告げた。
「サーシャが善意に解釈したというのなら、それは伝えた君がそう思っていたからだろうね。ハルシャ」

 息が触れ合うほど近い距離で、ジェイ・ゼルが自分を見つめていた。
 彼の真剣な眼差しに、ハルシャはふと居たたまれなくなった。

「妹には、世界の善良で美しい面をなるべく見て生きていてほしいと願っている。私も幼い頃から、両親にそうやって育てられてきた。
 母は厳格な一面はあったが、とても大らかで優しい人だった。
 サーシャも母のように、明るく皆に愛される人になって欲しい。
 そう思ってこれまで育ててきた」

 ジェイ・ゼルからの、辛い仕打ちを受けるのは自分だけで良い。
 サーシャには、他人に対する恐怖を植え付けたくなかった。
 借金を背負うのも自分だけで良い。

「サーシャには、私の借金を背負わせるつもりはない。これは私が一生かかって払う。だから――」

 ハルシャは、ジェイ・ゼルの瞳を見つめて、言葉を切った。

 だから。
 彼女には、自由に自分の人生を生きてほしかった。
 なりたいものに、なってほしかった。
 成人すれば、必ず彼女も借金を一緒に支払い続けるということは解っていても。
 それが、兄としてのハルシャの願いだった。

「ジェイ・ゼルに対して、サーシャに憎しみを植え付ける必要はない」
 わずかにためらってから、ハルシャは言葉を続けた。
「ただ――ジェイ・ゼルは、仕事をしているだけだ。これだけの金額の負債も、元をたどれば私の父が借金をしたことが原因だ。
 父の選択によって生じたものだ。それでジェイ・ゼルを責めるのは間違っている」

 言いながら、ハルシャは自分の中に整理を付けていく。

「ジェイ・ゼルは、他の人と同じ、ただ、自分の責務を果たしているだけだ」

 その仕事が、借金取りという、人に憎まれる仕事なだけで――

「ジェイ・ゼルのお陰で、やはり私たち兄妹は、五年間を暮らしてこられたと思う。あなたの助けが無ければきっと路頭に迷っていた」

 言い切ると、なぜか心の中がすっきりした。
 見たくなかった事柄を、ハルシャは今、真正面から見つめた。
 そうだ。
 自分たちは、ヴィンドース家という家名だけを背負った、無知で生活力のない兄妹だった。

 誇りだけでは金は稼げない。
 現実を見ろ、ハルシャ。
 君は自分の力では何一つ出来ない、ただのお坊ちゃんだ。

 最初にジェイ・ゼルに言われたことだ。
 ハルシャのプライドを、粉々に砕くように彼は冷たく言い放った。
 悔しさに歯を食い縛りながら、ハルシャは遮二無二《しゃにむに》、走り続けた。
 時に勘違いを戒め、時に辛辣な言葉を吐きながら――ジェイ・ゼルは、どうしようもないお坊ちゃん育ちだったハルシャを職人へと叩き上げた。
 身を合わせながら、仕事の様子を時折聞く。
 煩わしいと思った中に彼の思いやりが忍び込んでいた。

 ジェイ・ゼルが、静かに微笑んだ。
「ハルシャ」
 優しい声が、耳朶を打つ。
「私は、君が思うほど、善良ではないよ」
 透明な悲しみを湛えたように、彼は微笑みを浮かべて言った。
 
 そんなことは、知っている。
 善良だなど、言ったつもりはない。
 なのにどうして、こんなに彼を傷つけているのだろう。
 自分の言葉の何が、ジェイ・ゼルを悲しませたのだろう。
 まただ。
 ジェイ・ゼルはハルシャのことを深く理解してくれているのに、自分は少しも彼のことが解らない。
 深く謎を秘めた宇宙のように、どんなに手を伸ばしてもジェイ・ゼルが掴み切れない。
 さっきはあれほど、確かにジェイ・ゼルに触れたと思ったのに。

 微笑みを浮かべたまま、ジェイ・ゼルがわずかなためらいの後に、手を伸ばして、ハルシャの頬に指先を触れた。
 存在を確かめるかのように、静かに指が動く。
 彼の心を慰めるために、ハルシャは思い切って話題を変えた。
「ジェイ・ゼル」
 ん? と、彼の眉が上がる。
 たわいもない話が、無性に彼としたかった。
「以前、話してくれた物語の続きが、ずっと気になっている」

 ハルシャの言葉に、彼は記憶を手繰るような顔になる。
「ヴォーデン・ゲートが開くのを待つ間、話してくれた昔話だ。『暗黒の砦』という――」
「ああ」
 思い当たったらしい、ジェイ・ゼルが明るい声を上げた。
「そうだったね。すっかり忘れていたよ」
 するっとハルシャの頬を撫でてから、彼は微笑んだ。
 いつものジェイ・ゼルの表情だった。それが見られたことにハルシャはほっと息を吐く。
 彼は目を虚空に向けた。
「そうそう。サーシャのご要望だったね。彼女は本当に文学の才能があると私は思うよ。ぜひ、良い方向に伸ばしてあげたいね」
 最後は独り言のように、彼は呟いた。

 ハルシャは、ジェイ・ゼルの気分が明るくなったことに力を得て、続きを催促してみた。
「ジェイ・ゼルがしてくれたのは、悪魔が天使を殺す方法を、天使の口から告げられたところまでだった」
 彼が小さく笑う。
「よく覚えていたね、ハルシャ」
 忘れようにも、忘れられなかった。
 リュウジが話をしてくれたものとは、随分内容が異なっていたからだ。
 続きが気になってハルシャは仕方がなかった。
 せがむように、一心に見つめるハルシャに向けて、
「羽根をむしられたら殺すことが出来ると、天使自らから悪魔に秘密を教えたところまでだったね」
 と、確認するように、ジェイ・ゼルが言う。
 ハルシャは、力強くうなずいた。
 微笑みを浮かべて、ジェイ・ゼルは、話を始めようとした。
 だが。
 ハルシャの瞳を見つめたまま、彼は中々、口を開かなかった。
 長い沈黙の後、
「すまない、ハルシャ。続きを突然失念してしまったよ」
 と、詫びるように言った。
「どうしたことかな。ここまで出かかっているのに、先が出てこない」

 困ったように、ジェイ・ゼルが笑っている。
 ハルシャは、瞬きをした。
「気にしないでくれ」
 静かに首を振りながら、彼の戸惑いを解くように、言葉をかける。
「ジェイ・ゼルは疲れているのに、突然話をせがんでしまって、こちらこそすまなかった」
 今日は逢った時から、彼は疲労をにじませていた。
 だから、自分が上で動こうと思ったのに、結局ジェイ・ゼルに、ハルシャは三度も深い絶頂に連れていってもらっている。
 その疲れもあるのだろう。急に申し訳ないような気分に陥る。
「本当に気にしないでくれ」
 瞬きをする彼に、ハルシャは笑顔を向ける。
「また、思い出したときに、教えてくれ、ジェイ・ゼル」
 静かに、ジェイ・ゼルも笑顔を返す。
「期待させたのにすまないね」
 詫び代のように、優しく唇が触れた。
「また、思い出しておくよ」
 
 黒い髪が、乱れて額にかかっている。
 彫りの深い端正な顔が、こちらに向けられていた。
 しばらく見つめてから、ハルシャは口を開いた。
「ジェイ・ゼルは、よく物を知っている。文学的な教養も深い」
 眉を上げると、彼は微笑みを浮かべながら、頬杖をついた。
「どうしたんだ、急に」
 身をハルシャに傾けて、話を聞こうとしている。
「私は――」
 彼の灰色の瞳を見つめながら、ハルシャは呟いていた。
「数学や物理学、天文学、恒星地理学など、ある意味、感情の割り込まない世界ばかりをこれまで学んできた」
 ゆっくりと、ジェイ・ゼルが瞬きをする。
「世間で暮らしていくのには、それだけでは駄目なのだと日々痛感している。ジェイ・ゼルが言っていたように、想像力が足りないのかもしれない。人の心が掴み切れずに戸惑うことばかりだ」

 人と人の間で生きていくのには、学問の成績など何の意味も持たないと、ハルシャは早い時期に学んだ。
 人の心は、どんな高次方程式よりも難解だった。

「けれど、ジェイ・ゼルはいろいろなことを、とても上手に言い表す。その上、表現がとても詩的だ」
 常々思っていたことをなんとか伝えようと、自分の中から懸命に言葉を探す。
「きっとたくさんの書籍にあたり、文学的な教養が深いのだろうと、いつも思っていた」
 ジェイ・ゼルが、ハルシャの言葉の続きを待つように、沈黙している。
 徐々に頬が赤らむ。
「ただ、それだけを言いたかっただけだ。すまない。思い付きを口にしてしまって」
 
 ジェイ・ゼルは、文学的な教養が深いように思える。
 言いたかったのは、それだけだった。
 含蓄も何もない、浅いことしか自分は言えない。
 何だか自分が間抜けに見えてきて、ハルシャは一人、顔を赤らめ続けた。

 意図を汲み取ると、ジェイ・ゼルの微笑みが深くなった。
 ひどくくつろいだ態度で、ハルシャに手を伸ばし、赤い真っ直ぐな髪に指を差し入れる。
「言葉は、道具だからね」
 さらっと、指が滑る。
「出来るだけ、的確に、なおかつ効果的に使いたいとは思ってはいるけどね」

 唐突に言葉をかけてしまったことに、頬を赤らめるハルシャに、優しく彼が言葉を続ける。
「そうだね。私は昔、あまり外に出ることが出来なかったから、許される範囲で、古今東西の著書を読みふけったのは確かだよ。本の中では自由になれるからね。手当たり次第に、知識として蓄えてきた」
 ハルシャの髪を撫でながら、ジェイ・ゼルが小さく呟く。
「だがね、ハルシャ。私は、持って回った言い回しや修辞学を多用して、自分の本心を相手に悟らせまいとしているのかもしれないよ」

 ほろりと、彼の本当の心が、言葉の奥から、こぼれたような気がした。
 呟いた後、少しジェイ・ゼルの視線が外れた。
 ゆっくりと、手だけが、ハルシャの髪を撫で続ける。

「私は、真っ直ぐで飾りのない、本心そのままの君の言葉が好きだな」
 口角を上げながら、彼が静かに呟く。
「側に居てとても安心できる」

 一刻も気を許すことの出来ない世界で、彼は日々闘っているような気がした。
 仕事に向かう時の彼は違う表情を見せる。
 峻厳で冷酷な眼差しを、威圧するように相手に向ける。
 初めて出会った時、その眼光の鋭さに、ハルシャは射すくめられたことを覚えていた。
 
 彼は――
 孤独な人だ。

 手を伸ばせば届く距離に居るのに、なぜかハルシャは彼をひどく遠くに感じた。

「君は勇気があるのだろうね」
 静かな言葉を、彼が呟く。
「傷つくことを恐れない。だから、私にも真っ直ぐな言葉を与えてくれるのだろうね」

 頬杖を解くと、身を起こすようにして彼は顔を近づけた。
 羽根のように軽く、彼の唇がハルシャの額に触れる。
 最後にさらりと髪を撫でてから、彼は手を引いた。
 ゆっくりとシーツをめくり、身を起こす。

「もう、深夜を過ぎてしまったね――さて、食事はどうしようか、ハルシャ。お腹が空いただろう。君をかなりハードに動かしてしまったからね」



 







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