ほしのくさり

第70話  極上の悦楽








 ジェイ・ゼルを保持しながら、ハルシャは腰を落としていった。
 丸みが当たっているのに抵抗がある。
 圧をかけるが、妙に逃げる感じがする。
 おかしい。
 ジェイ・ゼルは簡単にいつも、中に押し入ってくるのに。
 思ったほどすんなりと挿れられないことに、ハルシャは内心戸惑っていた。

 焦りが伝わったのかもしれない。
「ハルシャ」
 見かねたように、ジェイ・ゼルが声をかけてくる。
 後ろをのぞくようにして身をひねっていたハルシャは、声に前を向く。
 静かな眼差しがハルシャを包んでいた。

「息を吐きながら、身を落とすんだよ」
 灰色の瞳が自分を見つめる。
「そんなに息を詰めて呼吸を止めたら、身体に力が入ってかえって挿れにくい。大丈夫だよ、ハルシャ。落ち着いて。数度深呼吸をしてごらん」

 言われたとおりに、動きを止めて、数回深く呼吸を繰り返す。

「そう、上手だ。そのまま呼吸を繰り返して……息を吐いたところで、ゆっくり身を沈めるんだよ」
 手が伸びて来て、ハルシャの腰がジェイ・ゼルの手に包まれる。
「支えていてあげるから、ゆっくり自分のペースで挿れてごらん。大丈夫だよ、そんなに緊張しなくても。丹念にほぐしてあげたから、力を抜けば重みで入る」

 初めてのことに対して、必要以上に身構えるハルシャのことを、理解してくれているのだろう、大丈夫だ、と、ジェイ・ゼルが優しく言葉をかけてくれる。
 ふっと、身体の強張りが、抜けていくような気がした。

 いつも以上にほぐしてくれていたのは、自分で飲み込むのが大変だと思ったためかもしれない。
 深い呼吸を繰り返しながら、ハルシャは、こくんとうなずきを返した。
 ジェイ・ゼルの口角が上がり、笑みを形作る。
 恐がっていたのかもしれない。
 自分で、ジェイ・ゼルを飲み込むことを……無意識のうちに。
 重みをかけて、ジェイ・ゼルの繊細な局部がどうかなったらどうしよう、や、あまり角度を付けると、彼が痛くないだろうか、と、要らぬことをあれこれ考えていたのかもしれない。
 大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
 痛みがあれば、彼は表情に出すだろう。
 それに、支えてくれている手がある。何かあれば、自分を止めてくれるはずだ。

 迷いを捨てて、ハルシャはジェイ・ゼルを見つめる。
 後ろ手で位置を確かめてから、彼の亀頭を後孔に当てる。
 覚悟を決める。
 ハルシャは、息を吐きながら身を沈めた。

 手で支えながら当てていた先が、微かな抵抗のあとするっと、身の内に取り込まれていく。
 あれほど苦労したのが、嘘のようだ。
 ジェイ・ゼルの昂ぶりに、自分の中が押し広げられる感覚が広がる。
 馴染みのある形なのに、自分の力で挿れるときは、何かが違うように感じた。
 ハルシャの動きを支えるように、ジェイ・ゼルの手にぐっと力が入る。
 先が入ると、あとはぬめりのある液の助けを得て、静かに体の中に飲み込まれていく。
 ハルシャは、中に入った安堵から深く息を吐く。
 はっと、内側からあふれた息に、ぴくっと中のジェイ・ゼルが反応した。
「とても、熱いよ」
 ジェイ・ゼルが呟く。
「君の中が」

 呟きに上げた視線が、ジェイ・ゼルと出会う。
 絡み合う。
 想像するんだよ、というジェイ・ゼルの声が、耳元で響く。
 彼が今内側に感じている熱を、ハルシャも彼の静かな眼差しから読み取ろうとした。
 どくんと、内側が震える。
 ぴくりとジェイ・ゼルの頬が震えた。
「君の中は熱くて、狭い――私を飲んで、震えている」
 
 熱を帯びた言葉が、彼の口からこぼれる。
 頬が、赤らむ。

「そんな風に、艶っぽい顔も出来るのだね、ハルシャ」
 ぐっと、ジェイ・ゼルの手に力が入る。
「新しい君の姿が見られて、嬉しいよ。とても」
 微笑みながら彼が呟く。
 想像するのは、とんでもない破壊力を持っている。今も、心臓がバクバクと飛び跳ねている。
 ハルシャは唇を引き結ぶと、中断していた動きを再開しようとした。
 
 膝で体を支えるハルシャに、ジェイ・ゼルが
「そのままの姿勢だと辛いだろう、ハルシャ」
 と、片方だけ手を離して、ハルシャの太ももに触れた。
「両手を、私の上について、身体を安定させると良い」

 太ももの手を浮かせると、ハルシャの指を捕えて自分の下腹の上に導く。
 ハルシャは促されるままに両手をジェイ・ゼルの身の上について体を支えた。
 そうすると、随分膝も楽だった。
 だが。
少し前傾姿勢になると、せっかく挿れたジェイ・ゼルが抜けそうになる。
 慌てるハルシャに、ジェイ・ゼルが笑う。

「そんなに、うろたえなくていいよ。抜けたらまた挿れれば良いだけだ。大丈夫だよ、ハルシャ」
 ウエストに手が戻り、ジェイ・ゼルが親指で、そっとハルシャの脇腹を撫でる。
「君がそうやって、頑張っている姿は、とても愛らしいよ」

 こぼされた言葉に、かっとハルシャの頬がまた燃える。
 あやされているようだ。
 ハルシャは、唇を引き結び、動きを再開した。頬を赤らめたままで、ジェイ・ゼルをゆっくりと身の内に飲み込んでいく。
 中に太く熱いものが割り込んでくる感覚が限りなく淫靡だった。
 それを自分の意思でしているところが、背徳的に思える。

 自分は、こんなことも出来るようになってしまったのだ。
 その一抹の罪悪感と、中が充足されていく感覚がないまぜになり、ハルシャは、動きにつれ深く喘いだ。

「あっ、あっ、あっ――っ」

 見つめるジェイ・ゼルの顔から、静かに笑みが消えていく。
 腰を支える指先に力が入る。
 決して、ハルシャの動きを邪魔しないように、ジェイ・ゼルはコントロールしているようだが、瞳の奥に炎が揺らいでいるようだった。
 彼の情念を見つめながら、ハルシャは、ゆっくりと身を落としていく。

 注意されていたように意識して深い呼吸を繰り返し、懸命に彼を受け入れ続ける。
 途中何度か休みながら、ハルシャは、最後にはジェイ・ゼルの全てを身に飲み込んだ。
 感覚が、深い。
 ジェイ・ゼルが、いつもより、奥に当たっているような気がする。

「いい子だ、ハルシャ」
 かすれた様な、ジェイ・ゼルの声が耳に響く。
「よく、私を全て飲み込んだね」
 荒く苦しい息を吐きながら、ハルシャは、ジェイ・ゼルを見つめる。
 彼の灰色の瞳が、自分を絡めとるように包んでいる。
 
 灰色の瞳が、緑になるところを、見たい――

 不思議な欲望が、ハルシャの内側から湧き上がって来た。
 自分が快楽を与えることで、彼の瞳の色が変わって欲しい。
 痛みのような胸のうずきに突き動かされるように、今収めたばかりのジェイ・ゼルの上で、ハルシャは膝を使ってゆっくり身を起こした。
 彼が、自分の中で動く。
 そのまま身を沈める。
 唇を結んで、ハルシャは、ゆっくりと身を上下させた。手の平をつくジェイ・ゼルの身体に体重を預けながら、腰を支えてくれる彼の手に助けられながら。
 自分の中で、擦られるようにジェイ・ゼルが動く。

 くっと、彼の息が聞こえた。
 ハルシャは、意識をそちらへ向けた。
 頬を微かに赤らめて、ジェイ・ゼルが半眼になりながらハルシャを見つめていた。

 動くことで、ジェイ・ゼルに快楽を与えられている。
 言いようのない悦楽が、身の内に盛り上がって来た。
 懸命に身を動かすハルシャの動きを静かに修正するように、支えるジェイ・ゼルの手が動く。
 深く身を沈める前に、ジェイ・ゼルが身を浮かせる。
 あまり大きく上下させなくても、わずかな動きで良いと指示しているように。
 意図を感じると、ハルシャは、ジェイ・ゼルの手が導く通り、浅い場所で小刻みに上下をした。
 そうすると、自分の身が震える場所と、ジェイ・ゼルの亀頭が擦れあった。

「ああっ!」
 身を揺すりながら、ハルシャは思わず声を上げていた。
 なんだろう。
 凄く、気持ちが良かった。
 相手ではなく、自分が求めたことだからだろうか。かつてない心地良さが身の内に広がる。
 爽やかな痺れを伴う感覚だった。
 眉を寄せ動くハルシャに、ジェイ・ゼルの声が聞こえた。
「ハルシャ」
 静かな声だった。
「今の気持ちを、口に出してごらん」

 ジェイ・ゼルに、見抜かれてしまった。
 自分が、彼を擦りあげながら、かつてない快楽を感じていることを。
 寄せた眉のまま見つめ返すハルシャに、彼が静かに促すように言う。
「気持ちいいのか? ハルシャ」
 きゅんと、ハルシャの中がうねるように波打った。
「今、君の中が返事をしてくれたよ」
 灰色の眼が、優しく見つめる。
「気持ちいいんだね、ハルシャ」
 ジェイ・ゼルは、行為の最中に、色々なことを言ってくる。
 彼は、聞きたいのだ。
 ハルシャの素直な言葉を。
 眉を寄せ、頬を赤らめながら、小さくハルシャは呟いた。
「き……気持ちが、いい。ジェイ・ゼル」

 彼のものを身に収めて上下させながら、あられもないことを言う自分が信じられなかった。
 だが、言った言葉に、自分自身が甘く反応している。
 うっと、小さくジェイ・ゼルが呻きをもらした。
 抵抗を感じながらも、ハルシャは彼を擦りあげるように動き続ける。

 気持ちがいい、ジェイ・ゼル。
 視線で語る。
 ジェイ・ゼルも、気持ちがいいか?

 問いかける眼差しに、ジェイ・ゼルが痛みを得たように笑う。
「私も気持ちがいいよ、ハルシャ」
 支える指に力が入る。
「君の中は、甘くて永遠に入っていたくなる」

 そんなことを、さらりというジェイ・ゼルには、とても敵わない。
 今も、頬が燃えるように赤くなる。


 見つめ合ったまま、ハルシャは身を動かし続けた。
 だが。
 膝立でのスクワットに近い動作に、足が限界を叫び出す。
 筋肉の痛みに耐え兼ねて、次第に動きが鈍り出した。

 ジェイ・ゼルは、ハルシャの置かれている苦境を理解してくれたようだ。
「ハルシャ」
 優しく声が注がれる。
「動き続けたら、辛いだろう。一度動きを止めて、私の上に乗ってごらん」

 荒い息を吐きながら、ハルシャは動きを止めて、ジェイ・ゼルの上に、腰を下ろす形になった。
 息に、大きく胸が上下する。
 全身から汗が吹き出し、支えていた膝が小刻みに震え出した。
 腰を支えてくれていた手が、なだめるように背を撫でる。
「とても気持ち良かったよ、ハルシャ」
 ジェイ・ゼルが穏やかに言う。
「今度は、上下でなく、前後に腰を動かしてごらん」
 腰の二つの丸みに、ジェイ・ゼルの手が降りてくる。
「上半身は動かさずに、腰だけをゆっくりと――」

 ハルシャは手をついたまま、ジェイ・ゼルが支えて促すように、静かに腰を動かした。
 前と後ろへ。
上体は動かさずに、うねるように腰を擦りつけ動かす。
 その度に、ジェイ・ゼルが中で動く。
 彼の亀頭が、微妙な場所を刺激する。
 耐えながら、先ほどよりかははるかに楽な動きをゆっくりと続ける。

 ジェイ・ゼルの手が、前後に加えて横への動きも導く。
 大きく八の字を描くように、ハルシャはジェイ・ゼルの上で腰をくねらせた。
 中でジェイ・ゼルがよじれるように動き、ハルシャは、うっと、息を飲みながら、動き続ける。
 視線が、ジェイ・ゼルと絡む。
 身をうねらす自分は、彼の目にどんな風に映っているのだろう。
 想像した姿に、ハルシャは顔がかあっと赤くなっていった。
 彼の上で腰を振り続ける自分は、どう考えても淫猥だった。

「ハルシャ」
 ジェイ・ゼルが不意に口を開いた。
「今、君は想像しているんだね。私がどんな風にみているのかを」
 ざわざわと、内側をかき回すような声でジェイ・ゼルが呟く。
「とても、色気のある顔をしているよ、ハルシャ」
 褒め言葉のように、彼は呟く。

 頬を赤らめ視線を絡ませたまま、ハルシャは彼の上で腰を滑らかに動かし続けた。
 ジェイ・ゼルの息が荒くなる。
 耐えられなくなったように、彼はハルシャの腕を掴み、ゆっくりと自分に引き寄せた。
 促されてハルシャは身を倒した。

 彼を中に収めたままで、腕に抱き取られる。
 ジェイ・ゼルの胸に倒れ込み、そのまま唇を覆われた。
 汗ばむ互いの身を触れ合わせ、舌を絡める。
 ハルシャは口づけを交わしながら、ゆっくりと腰を上げた。
 収めているジェイ・ゼルが中で動く。先ほど教えられたように、先だけを小刻みに刺激するように、浮いた腰を上下させ始めた。
 うっと、合わせた口に、ジェイ・ゼルが艶やかな呻きを漏らした。

 いつもは、ハルシャが、与えられる方だった。
 だが。
 今はハルシャが、ジェイ・ゼルに快楽を与えている。

 そのことが、触れ合った舌と共に甘い痺れをハルシャの中に巻き起こした。
 口を貪りながら、ハルシャは小刻みに腰だけを弾むように動かし続ける。
 うっ、うっ、うっ、と動きにつれて、短くジェイ・ゼルが喘ぎを滴らせる。

 もっと。
 彼に、快楽を与えたい。

 ハルシャは、ジェイ・ゼルと自分の身の間に手を入れると、彼の胸の尖りに、指先で触れた。
 喘ぎに、甘さが加わった。
 快楽を得てくれている。
 唇を合わせながら、ハルシャは、腰と手を動かし続けた。

 浅い場所で上下させると、痺れに近い感覚が再び湧き起ってくる。
 ハルシャは、微かに口を離すと、先ほどは言葉に出来なかった問いを、ジェイ・ゼルに滴らせた。
「気持ちがいいか? ジェイ・ゼル」
 その問いに、眉を寄せて、ジェイ・ゼルが熟れた言葉を返す。
「気持ちが良いよ、ハルシャ」

 きゅんと、身の内が甘く痺れる。
 ハルシャは、内側の感情に耐えきれなくなったように、ジェイ・ゼルの唇を覆った。
 そのまま上下の動きを激しくする。
 中のジェイ・ゼルが、どくんどくんと、波打つようになってきた。
 びく、びくと震える。
 くっと、苦しげに、ジェイ・ゼルが眉を寄せた。
「すまない、ハルシャ」
 荒い息の中で、ジェイ・ゼルが呟く。
「最後に、私が、動いても、いい、だろうか……」
 切れ切れな彼の言葉に、切羽詰まったものを、ハルシャは感じ取った。

 最後に動く、とは、どういうことなのだろう。
 ハルシャにはよく解らなかったが、彼の懇願を拒むことは出来なかった。
「いいよ、ジェイ・ゼル」
 承諾の言葉を、ハルシャは、彼の唇に呟いた。

 その瞬間。
 ハルシャは、下から激しく突き上げられた。
 悲鳴のような声が、上がる。
 身を跳ね上げたハルシャの脇が、ジェイ・ゼルに捕えられる。

 彼は今までハルシャに任せて、動かないように意志の力で制御していたのだ。
 ハルシャの腰を落とす動きに合わせるように、ジェイ・ゼルが下から突き上げる。それに乗せられるように浮いたハルシャの身が、沈むタイミングでジェイ・ゼルが再び動く。
 先ほどまでとは、比べようがないほどの深い挿入が繰り返される。
 支えるジェイ・ゼルの手が、親指を伸ばしてハルシャの胸の尖りに触れた。

「ああぁぁっ!」
 
 ハルシャは、声を絞っていた。
 下から突き上げられながら、乳首に刺激を与えられハルシャは身を反らした。
 ジェイ・ゼルから与えるままに、身が快楽を受け取っていく。

 一度も触られていないのに、ハルシャの局部は耐えがたいほどに昂ぶった。
 身を反らしたま、倒れ込むようにハルシャの身体が、ベッドにそのまま横たえられていた。
 折りたたんでいた足が、ジェイ・ゼルによって延ばされる。
 左の足は、ハルシャの足の間に膝立ちになったジェイ・ゼルの肩に、担ぎあげられていた。
 二回目に彼を受け入れた時のように、身を斜めにしながら、ジェイ・ゼルが深くハルシャの中に自身の昂ぶりを押し込む。

「んんあぁっ! あぁぁっ!」

 先ほどまで、自分で速度をコントロール出来ていたのが、今はジェイ・ゼルの思うままに乱れさせられる。
 思い通りにならなさが、逆にハルシャを快楽へと突き落としていった。
 ジェイ・ゼルが動きながら静かに手を伸ばし、ハルシャの昂ぶりに触れた。
 びくんと、身が痙攣する。
「はあぁあっ!」
 思いもかけない刺激に身が対応しきれずに、快楽の声しか出ない。
 ジェイ・ゼルが、竿を捌いてくる。
 あまり感じたことのない種類の快楽が、ハルシャを追い詰めていく。
「ジェイ・ゼル!」
 身を捩るようにするハルシャの手に、ジェイ・ゼルが指を絡める。
 ぎゅっと、ハルシャは握り返した。

「一緒に、達そう。ハルシャ」
 静かで優しい声が、耳に響いた。

 視線を、声に向ける。
 ジェイ・ゼルが肩にハルシャの足を担ぎあげ、腰を深く打ち込んでいる。
 その瞳は――
 緑へと、変じていた。

 彼は、今。
 瞳を変じるほどの快楽を、感じているのだ。

「ジェイ・ゼル……」
 空いている方の手を伸ばし、ジェイ・ゼルの足に触れる。

 彼の感じる快楽を、身に受け取ろうと、ハルシャは懸命に想像を巡らせた。
 ハルシャが与えようとした快楽を、彼は受け取ってくれたのだ。
 想像する。
 どんなふうに彼が内側で動いているのか。
 耐えられないほどに昂ぶっていく、熱を。
 今、乱れるハルシャを見て、どれほど彼が快楽を得ているのか。
 ジェイ・ゼルの快楽に細められた、目の奥の光を。
 彼が与えてくれる絶頂の、めくるめく果てを――

 突然、凄まじい熱が内側から盛り上り、ハルシャの中に渦巻いた。
 激しく突き上げられる後孔と、優しく刺激される昂ぶりと、脳の中に生まれた想像の淫猥さと。
 全てが、ハルシャを追い詰めていった。

「ジェイ・ゼル……も、もう、達してしまう」
 ハルシャは、震える声で、無意識に告げていた。
 背骨から駆け上がるように、重い痺れが身の内にあふれ出す。
 快楽よりも、苦痛に近いものが体を這いあがる。
 ハルシャは、眉を寄せた。
 一瞬の、静寂があった。
 ジェイ・ゼルの緑の瞳を見つめる。
 次の瞬間――
信じられないほどの衝撃がハルシャを襲い、悲鳴と共に白濁したものをハルシャは身からほとばしらせた。
 ぐっと、ジェイ・ゼルが昂ぶりをねじ込み、そのまま、身を倒した。
 横たわる顔の側に腕をつき、辛うじて身を支える。

「ハルシャ……」

 低い声で呟いた後、深い場所で、ジェイ・ゼルの熱いものがはじけた。
 そのまま、彼はハルシャを抱きしめた。
 びくっ、びくっと痙攣するように、身を震わせるハルシャを温もりで包み、彼は無言で荒い息を吐いていた。

 頭の中が、真っ白だった。
 耳元で、ジェイ・ゼルの激しい息遣いが響いている。
 息が耳に触れる。
 意識が朦朧とする中で、ハルシャはジェイ・ゼルの背に腕を絡め目を閉じた。

 無言で、二人は抱き合っていた。
 互いの呼吸を聞き合うだけの、長い沈黙があった。
 迎えた、あまりに激しい絶頂に、ハルシャは、ふっと意識が遠くなりそうになる。
ジェイ・ゼルの温もりにすがりながら、懸命に意識をこの世界に繋ぎとめる。


 随分時間が経ってから、ジェイ・ゼルがゆっくりと動いた。
 動きを感じ、ハルシャは目を開く。

 近くで見るジェイ・ゼルの目は、透明な宝石のように澄んだ緑色だった。
 その色を見ていると、心が穏やかになっていく。
 無心に見つめるハルシャに、静かにジェイ・ゼルが微笑みを与えた。
「緑に、なっているのか? 私の眼が」
 突然の彼の問いかけに、ハルシャは目を大きく見開いた。

 どう、答えればいいのだろう。
 彼ははじめ、無遠慮に指摘したハルシャの言葉に表情を消した。
 あまり、知られたくないようだった。
 だから、ハルシャは気付いても見ぬふりを貫いてきた。
 ジェイ・ゼルも、あえて聞かなかったのに、なぜ。
 しばらく迷った後、ハルシャは素直に想いを口にした。

「ああ。とてもきれいな緑色をしている。まるで、翡翠のようだ」

 惑星ガイアで産出する、希少な宝玉の名を口にした時、ジェイ・ゼルの表情が静かに動いた。

「そうか」

 悲しみのような、喜びのような、複雑な表情だった。
 その顔のまま、ジェイ・ゼルがハルシャを見つめ続ける。
 どうして瞳の色が変わるのか、彼の表情を見ていると、ハルシャは問いかけることが出来なかった。
 内側の痛みに独りで耐えているように、彼は静かに微笑んでいた。

 彼の悲しみを止めたくて、話しを変えるように、ハルシャは言葉を滴らせた。
「今日は、ジェイ・ゼルに横になってもらって、私が快楽を与えるつもりだったが――すまなかった」
 おや、と、ジェイ・ゼルがいつもの表情に戻って眉を上げる。
「どうして、謝るんだ。ハルシャ。私は十分に快楽を君から与えてもらったよ」
「だが――最後は、ジェイ・ゼルに動かせてしまった。私の技術がつたなかったから……そのままでは、達することが出来なかったのだろう。ジェイ・ゼル」

 反省を口にするハルシャに、ジェイ・ゼルが軽い笑い声を上げる。
「ハルシャは真面目だね。本当なら、ここは、事後の睦言のはずなんだがね。詫びの言葉を聞くとは思わなかったよ」
 ちゅっと、ジェイ・ゼルが音をさせて唇を合わせた。
「動いたのは、私の忍耐が足らなかったからだよ」
 ゆっくりと支える腕に力を込めて、ハルシャから身を浮かせる。
「自分で動いて、ハルシャに快楽を与えたくなってしまった。
 私のただの、わがままだ」

 ちゅっと、再び唇が触れ合う。
「そんなに、責任を感じないでくれ。君は十分私に快楽を与えてくれたよ。この上ない、極上の――悦楽を」
 瞳が重く潤む。
 緑の瞳の奥がほの暗く揺らめくと、ハルシャの胸がどきんとした。
「君はその身で、私に与えてくれた」

 見つめ合った後、ゆっくりとジェイ・ゼルが顔を寄せて、唇を合わせた。
 想いを伝えるように、ジェイ・ゼルが口づけを与える。
 ハルシャの頭の後ろと背中に、彼の腕が巻き付きベッドから身が起こされた。

 抱き上げた身が、ジェイ・ゼルの膝の上に乗せられた。向かい合ったまま腕に包まれる。
 動きに、ハルシャは、呻きを口にもらした。
 まだ、中にジェイ・ゼルを収めたままだった。
 ハルシャを抱くと、揺するように彼が下から突き上げる。
 合わせた唇に、律動に合わせてハルシャの口から喘ぎがこぼれた。
 薄く開く眼に、彼の緑の瞳が映る。
 目にすると、ハルシャは脳がかき乱されるような、痺れを感じてしまう。
「ジェイ・ゼル……」
 深い瞳に向けて、呟く。

 返事の代わりに、ハルシャは深い快楽へと、再びジェイ・ゼルの身で連れ去られた。





※ベ…ベッドが広くて、良かったですね。






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