ジェイ・ゼルを保持しながら、ハルシャは腰を落としていった。
丸みが当たっているのに抵抗がある。
圧をかけるが、妙に逃げる感じがする。
おかしい。
ジェイ・ゼルは簡単にいつも、中に押し入ってくるのに。
思ったほどすんなりと挿れられないことに、ハルシャは内心戸惑っていた。
焦りが伝わったのかもしれない。
「ハルシャ」
見かねたように、ジェイ・ゼルが声をかけてくる。
後ろをのぞくようにして身をひねっていたハルシャは、声に前を向く。
静かな眼差しがハルシャを包んでいた。
「息を吐きながら、身を落とすんだよ」
灰色の瞳が自分を見つめる。
「そんなに息を詰めて呼吸を止めたら、身体に力が入ってかえって挿れにくい。大丈夫だよ、ハルシャ。落ち着いて。数度深呼吸をしてごらん」
言われたとおりに、動きを止めて、数回深く呼吸を繰り返す。
「そう、上手だ。そのまま呼吸を繰り返して……息を吐いたところで、ゆっくり身を沈めるんだよ」
手が伸びて来て、ハルシャの腰がジェイ・ゼルの手に包まれる。
「支えていてあげるから、ゆっくり自分のペースで挿れてごらん。大丈夫だよ、そんなに緊張しなくても。丹念にほぐしてあげたから、力を抜けば重みで入る」
初めてのことに対して、必要以上に身構えるハルシャのことを、理解してくれているのだろう、大丈夫だ、と、ジェイ・ゼルが優しく言葉をかけてくれる。
ふっと、身体の強張りが、抜けていくような気がした。
いつも以上にほぐしてくれていたのは、自分で飲み込むのが大変だと思ったためかもしれない。
深い呼吸を繰り返しながら、ハルシャは、こくんとうなずきを返した。
ジェイ・ゼルの口角が上がり、笑みを形作る。
恐がっていたのかもしれない。
自分で、ジェイ・ゼルを飲み込むことを……無意識のうちに。
重みをかけて、ジェイ・ゼルの繊細な局部がどうかなったらどうしよう、や、あまり角度を付けると、彼が痛くないだろうか、と、要らぬことをあれこれ考えていたのかもしれない。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
痛みがあれば、彼は表情に出すだろう。
それに、支えてくれている手がある。何かあれば、自分を止めてくれるはずだ。
迷いを捨てて、ハルシャはジェイ・ゼルを見つめる。
後ろ手で位置を確かめてから、彼の亀頭を後孔に当てる。
覚悟を決める。
ハルシャは、息を吐きながら身を沈めた。
手で支えながら当てていた先が、微かな抵抗のあとするっと、身の内に取り込まれていく。
あれほど苦労したのが、嘘のようだ。
ジェイ・ゼルの昂ぶりに、自分の中が押し広げられる感覚が広がる。
馴染みのある形なのに、自分の力で挿れるときは、何かが違うように感じた。
ハルシャの動きを支えるように、ジェイ・ゼルの手にぐっと力が入る。
先が入ると、あとはぬめりのある液の助けを得て、静かに体の中に飲み込まれていく。
ハルシャは、中に入った安堵から深く息を吐く。
はっと、内側からあふれた息に、ぴくっと中のジェイ・ゼルが反応した。
「とても、熱いよ」
ジェイ・ゼルが呟く。
「君の中が」
呟きに上げた視線が、ジェイ・ゼルと出会う。
絡み合う。
想像するんだよ、というジェイ・ゼルの声が、耳元で響く。
彼が今内側に感じている熱を、ハルシャも彼の静かな眼差しから読み取ろうとした。
どくんと、内側が震える。
ぴくりとジェイ・ゼルの頬が震えた。
「君の中は熱くて、狭い――私を飲んで、震えている」
熱を帯びた言葉が、彼の口からこぼれる。
頬が、赤らむ。
「そんな風に、艶っぽい顔も出来るのだね、ハルシャ」
ぐっと、ジェイ・ゼルの手に力が入る。
「新しい君の姿が見られて、嬉しいよ。とても」
微笑みながら彼が呟く。
想像するのは、とんでもない破壊力を持っている。今も、心臓がバクバクと飛び跳ねている。
ハルシャは唇を引き結ぶと、中断していた動きを再開しようとした。
膝で体を支えるハルシャに、ジェイ・ゼルが
「そのままの姿勢だと辛いだろう、ハルシャ」
と、片方だけ手を離して、ハルシャの太ももに触れた。
「両手を、私の上について、身体を安定させると良い」
太ももの手を浮かせると、ハルシャの指を捕えて自分の下腹の上に導く。
ハルシャは促されるままに両手をジェイ・ゼルの身の上について体を支えた。
そうすると、随分膝も楽だった。
だが。
少し前傾姿勢になると、せっかく挿れたジェイ・ゼルが抜けそうになる。
慌てるハルシャに、ジェイ・ゼルが笑う。
「そんなに、うろたえなくていいよ。抜けたらまた挿れれば良いだけだ。大丈夫だよ、ハルシャ」
ウエストに手が戻り、ジェイ・ゼルが親指で、そっとハルシャの脇腹を撫でる。
「君がそうやって、頑張っている姿は、とても愛らしいよ」
こぼされた言葉に、かっとハルシャの頬がまた燃える。
あやされているようだ。
ハルシャは、唇を引き結び、動きを再開した。頬を赤らめたままで、ジェイ・ゼルをゆっくりと身の内に飲み込んでいく。
中に太く熱いものが割り込んでくる感覚が限りなく淫靡だった。
それを自分の意思でしているところが、背徳的に思える。
自分は、こんなことも出来るようになってしまったのだ。
その一抹の罪悪感と、中が充足されていく感覚がないまぜになり、ハルシャは、動きにつれ深く喘いだ。
「あっ、あっ、あっ――っ」
見つめるジェイ・ゼルの顔から、静かに笑みが消えていく。
腰を支える指先に力が入る。
決して、ハルシャの動きを邪魔しないように、ジェイ・ゼルはコントロールしているようだが、瞳の奥に炎が揺らいでいるようだった。
彼の情念を見つめながら、ハルシャは、ゆっくりと身を落としていく。
注意されていたように意識して深い呼吸を繰り返し、懸命に彼を受け入れ続ける。
途中何度か休みながら、ハルシャは、最後にはジェイ・ゼルの全てを身に飲み込んだ。
感覚が、深い。
ジェイ・ゼルが、いつもより、奥に当たっているような気がする。
「いい子だ、ハルシャ」
かすれた様な、ジェイ・ゼルの声が耳に響く。
「よく、私を全て飲み込んだね」
荒く苦しい息を吐きながら、ハルシャは、ジェイ・ゼルを見つめる。
彼の灰色の瞳が、自分を絡めとるように包んでいる。
灰色の瞳が、緑になるところを、見たい――
不思議な欲望が、ハルシャの内側から湧き上がって来た。
自分が快楽を与えることで、彼の瞳の色が変わって欲しい。
痛みのような胸のうずきに突き動かされるように、今収めたばかりのジェイ・ゼルの上で、ハルシャは膝を使ってゆっくり身を起こした。
彼が、自分の中で動く。
そのまま身を沈める。
唇を結んで、ハルシャは、ゆっくりと身を上下させた。手の平をつくジェイ・ゼルの身体に体重を預けながら、腰を支えてくれる彼の手に助けられながら。
自分の中で、擦られるようにジェイ・ゼルが動く。
くっと、彼の息が聞こえた。
ハルシャは、意識をそちらへ向けた。
頬を微かに赤らめて、ジェイ・ゼルが半眼になりながらハルシャを見つめていた。
動くことで、ジェイ・ゼルに快楽を与えられている。
言いようのない悦楽が、身の内に盛り上がって来た。
懸命に身を動かすハルシャの動きを静かに修正するように、支えるジェイ・ゼルの手が動く。
深く身を沈める前に、ジェイ・ゼルが身を浮かせる。
あまり大きく上下させなくても、わずかな動きで良いと指示しているように。
意図を感じると、ハルシャは、ジェイ・ゼルの手が導く通り、浅い場所で小刻みに上下をした。
そうすると、自分の身が震える場所と、ジェイ・ゼルの亀頭が擦れあった。
「ああっ!」
身を揺すりながら、ハルシャは思わず声を上げていた。
なんだろう。
凄く、気持ちが良かった。
相手ではなく、自分が求めたことだからだろうか。かつてない心地良さが身の内に広がる。
爽やかな痺れを伴う感覚だった。
眉を寄せ動くハルシャに、ジェイ・ゼルの声が聞こえた。
「ハルシャ」
静かな声だった。
「今の気持ちを、口に出してごらん」
ジェイ・ゼルに、見抜かれてしまった。
自分が、彼を擦りあげながら、かつてない快楽を感じていることを。
寄せた眉のまま見つめ返すハルシャに、彼が静かに促すように言う。
「気持ちいいのか? ハルシャ」
きゅんと、ハルシャの中がうねるように波打った。
「今、君の中が返事をしてくれたよ」
灰色の眼が、優しく見つめる。
「気持ちいいんだね、ハルシャ」
ジェイ・ゼルは、行為の最中に、色々なことを言ってくる。
彼は、聞きたいのだ。
ハルシャの素直な言葉を。
眉を寄せ、頬を赤らめながら、小さくハルシャは呟いた。
「き……気持ちが、いい。ジェイ・ゼル」
彼のものを身に収めて上下させながら、あられもないことを言う自分が信じられなかった。
だが、言った言葉に、自分自身が甘く反応している。
うっと、小さくジェイ・ゼルが呻きをもらした。
抵抗を感じながらも、ハルシャは彼を擦りあげるように動き続ける。
気持ちがいい、ジェイ・ゼル。
視線で語る。
ジェイ・ゼルも、気持ちがいいか?
問いかける眼差しに、ジェイ・ゼルが痛みを得たように笑う。
「私も気持ちがいいよ、ハルシャ」
支える指に力が入る。
「君の中は、甘くて永遠に入っていたくなる」
そんなことを、さらりというジェイ・ゼルには、とても敵わない。
今も、頬が燃えるように赤くなる。
見つめ合ったまま、ハルシャは身を動かし続けた。
だが。
膝立でのスクワットに近い動作に、足が限界を叫び出す。
筋肉の痛みに耐え兼ねて、次第に動きが鈍り出した。
ジェイ・ゼルは、ハルシャの置かれている苦境を理解してくれたようだ。
「ハルシャ」
優しく声が注がれる。
「動き続けたら、辛いだろう。一度動きを止めて、私の上に乗ってごらん」
荒い息を吐きながら、ハルシャは動きを止めて、ジェイ・ゼルの上に、腰を下ろす形になった。
息に、大きく胸が上下する。
全身から汗が吹き出し、支えていた膝が小刻みに震え出した。
腰を支えてくれていた手が、なだめるように背を撫でる。
「とても気持ち良かったよ、ハルシャ」
ジェイ・ゼルが穏やかに言う。
「今度は、上下でなく、前後に腰を動かしてごらん」
腰の二つの丸みに、ジェイ・ゼルの手が降りてくる。
「上半身は動かさずに、腰だけをゆっくりと――」
ハルシャは手をついたまま、ジェイ・ゼルが支えて促すように、静かに腰を動かした。
前と後ろへ。
上体は動かさずに、うねるように腰を擦りつけ動かす。
その度に、ジェイ・ゼルが中で動く。
彼の亀頭が、微妙な場所を刺激する。
耐えながら、先ほどよりかははるかに楽な動きをゆっくりと続ける。
ジェイ・ゼルの手が、前後に加えて横への動きも導く。
大きく八の字を描くように、ハルシャはジェイ・ゼルの上で腰をくねらせた。
中でジェイ・ゼルがよじれるように動き、ハルシャは、うっと、息を飲みながら、動き続ける。
視線が、ジェイ・ゼルと絡む。
身をうねらす自分は、彼の目にどんな風に映っているのだろう。
想像した姿に、ハルシャは顔がかあっと赤くなっていった。
彼の上で腰を振り続ける自分は、どう考えても淫猥だった。
「ハルシャ」
ジェイ・ゼルが不意に口を開いた。
「今、君は想像しているんだね。私がどんな風にみているのかを」
ざわざわと、内側をかき回すような声でジェイ・ゼルが呟く。
「とても、色気のある顔をしているよ、ハルシャ」
褒め言葉のように、彼は呟く。
頬を赤らめ視線を絡ませたまま、ハルシャは彼の上で腰を滑らかに動かし続けた。
ジェイ・ゼルの息が荒くなる。
耐えられなくなったように、彼はハルシャの腕を掴み、ゆっくりと自分に引き寄せた。
促されてハルシャは身を倒した。
彼を中に収めたままで、腕に抱き取られる。
ジェイ・ゼルの胸に倒れ込み、そのまま唇を覆われた。
汗ばむ互いの身を触れ合わせ、舌を絡める。
ハルシャは口づけを交わしながら、ゆっくりと腰を上げた。
収めているジェイ・ゼルが中で動く。先ほど教えられたように、先だけを小刻みに刺激するように、浮いた腰を上下させ始めた。
うっと、合わせた口に、ジェイ・ゼルが艶やかな呻きを漏らした。
いつもは、ハルシャが、与えられる方だった。
だが。
今はハルシャが、ジェイ・ゼルに快楽を与えている。
そのことが、触れ合った舌と共に甘い痺れをハルシャの中に巻き起こした。
口を貪りながら、ハルシャは小刻みに腰だけを弾むように動かし続ける。
うっ、うっ、うっ、と動きにつれて、短くジェイ・ゼルが喘ぎを滴らせる。
もっと。
彼に、快楽を与えたい。
ハルシャは、ジェイ・ゼルと自分の身の間に手を入れると、彼の胸の尖りに、指先で触れた。
喘ぎに、甘さが加わった。
快楽を得てくれている。
唇を合わせながら、ハルシャは、腰と手を動かし続けた。
浅い場所で上下させると、痺れに近い感覚が再び湧き起ってくる。
ハルシャは、微かに口を離すと、先ほどは言葉に出来なかった問いを、ジェイ・ゼルに滴らせた。
「気持ちがいいか? ジェイ・ゼル」
その問いに、眉を寄せて、ジェイ・ゼルが熟れた言葉を返す。
「気持ちが良いよ、ハルシャ」
きゅんと、身の内が甘く痺れる。
ハルシャは、内側の感情に耐えきれなくなったように、ジェイ・ゼルの唇を覆った。
そのまま上下の動きを激しくする。
中のジェイ・ゼルが、どくんどくんと、波打つようになってきた。
びく、びくと震える。
くっと、苦しげに、ジェイ・ゼルが眉を寄せた。
「すまない、ハルシャ」
荒い息の中で、ジェイ・ゼルが呟く。
「最後に、私が、動いても、いい、だろうか……」
切れ切れな彼の言葉に、切羽詰まったものを、ハルシャは感じ取った。
最後に動く、とは、どういうことなのだろう。
ハルシャにはよく解らなかったが、彼の懇願を拒むことは出来なかった。
「いいよ、ジェイ・ゼル」
承諾の言葉を、ハルシャは、彼の唇に呟いた。
その瞬間。
ハルシャは、下から激しく突き上げられた。
悲鳴のような声が、上がる。
身を跳ね上げたハルシャの脇が、ジェイ・ゼルに捕えられる。
彼は今までハルシャに任せて、動かないように意志の力で制御していたのだ。
ハルシャの腰を落とす動きに合わせるように、ジェイ・ゼルが下から突き上げる。それに乗せられるように浮いたハルシャの身が、沈むタイミングでジェイ・ゼルが再び動く。
先ほどまでとは、比べようがないほどの深い挿入が繰り返される。
支えるジェイ・ゼルの手が、親指を伸ばしてハルシャの胸の尖りに触れた。
「ああぁぁっ!」
ハルシャは、声を絞っていた。
下から突き上げられながら、乳首に刺激を与えられハルシャは身を反らした。
ジェイ・ゼルから与えるままに、身が快楽を受け取っていく。
一度も触られていないのに、ハルシャの局部は耐えがたいほどに昂ぶった。
身を反らしたま、倒れ込むようにハルシャの身体が、ベッドにそのまま横たえられていた。
折りたたんでいた足が、ジェイ・ゼルによって延ばされる。
左の足は、ハルシャの足の間に膝立ちになったジェイ・ゼルの肩に、担ぎあげられていた。
二回目に彼を受け入れた時のように、身を斜めにしながら、ジェイ・ゼルが深くハルシャの中に自身の昂ぶりを押し込む。
「んんあぁっ! あぁぁっ!」
先ほどまで、自分で速度をコントロール出来ていたのが、今はジェイ・ゼルの思うままに乱れさせられる。
思い通りにならなさが、逆にハルシャを快楽へと突き落としていった。
ジェイ・ゼルが動きながら静かに手を伸ばし、ハルシャの昂ぶりに触れた。
びくんと、身が痙攣する。
「はあぁあっ!」
思いもかけない刺激に身が対応しきれずに、快楽の声しか出ない。
ジェイ・ゼルが、竿を捌いてくる。
あまり感じたことのない種類の快楽が、ハルシャを追い詰めていく。
「ジェイ・ゼル!」
身を捩るようにするハルシャの手に、ジェイ・ゼルが指を絡める。
ぎゅっと、ハルシャは握り返した。
「一緒に、達そう。ハルシャ」
静かで優しい声が、耳に響いた。
視線を、声に向ける。
ジェイ・ゼルが肩にハルシャの足を担ぎあげ、腰を深く打ち込んでいる。
その瞳は――
緑へと、変じていた。
彼は、今。
瞳を変じるほどの快楽を、感じているのだ。
「ジェイ・ゼル……」
空いている方の手を伸ばし、ジェイ・ゼルの足に触れる。
彼の感じる快楽を、身に受け取ろうと、ハルシャは懸命に想像を巡らせた。
ハルシャが与えようとした快楽を、彼は受け取ってくれたのだ。
想像する。
どんなふうに彼が内側で動いているのか。
耐えられないほどに昂ぶっていく、熱を。
今、乱れるハルシャを見て、どれほど彼が快楽を得ているのか。
ジェイ・ゼルの快楽に細められた、目の奥の光を。
彼が与えてくれる絶頂の、めくるめく果てを――
突然、凄まじい熱が内側から盛り上り、ハルシャの中に渦巻いた。
激しく突き上げられる後孔と、優しく刺激される昂ぶりと、脳の中に生まれた想像の淫猥さと。
全てが、ハルシャを追い詰めていった。
「ジェイ・ゼル……も、もう、達してしまう」
ハルシャは、震える声で、無意識に告げていた。
背骨から駆け上がるように、重い痺れが身の内にあふれ出す。
快楽よりも、苦痛に近いものが体を這いあがる。
ハルシャは、眉を寄せた。
一瞬の、静寂があった。
ジェイ・ゼルの緑の瞳を見つめる。
次の瞬間――
信じられないほどの衝撃がハルシャを襲い、悲鳴と共に白濁したものをハルシャは身からほとばしらせた。
ぐっと、ジェイ・ゼルが昂ぶりをねじ込み、そのまま、身を倒した。
横たわる顔の側に腕をつき、辛うじて身を支える。
「ハルシャ……」
低い声で呟いた後、深い場所で、ジェイ・ゼルの熱いものがはじけた。
そのまま、彼はハルシャを抱きしめた。
びくっ、びくっと痙攣するように、身を震わせるハルシャを温もりで包み、彼は無言で荒い息を吐いていた。
頭の中が、真っ白だった。
耳元で、ジェイ・ゼルの激しい息遣いが響いている。
息が耳に触れる。
意識が朦朧とする中で、ハルシャはジェイ・ゼルの背に腕を絡め目を閉じた。
無言で、二人は抱き合っていた。
互いの呼吸を聞き合うだけの、長い沈黙があった。
迎えた、あまりに激しい絶頂に、ハルシャは、ふっと意識が遠くなりそうになる。
ジェイ・ゼルの温もりにすがりながら、懸命に意識をこの世界に繋ぎとめる。
随分時間が経ってから、ジェイ・ゼルがゆっくりと動いた。
動きを感じ、ハルシャは目を開く。
近くで見るジェイ・ゼルの目は、透明な宝石のように澄んだ緑色だった。
その色を見ていると、心が穏やかになっていく。
無心に見つめるハルシャに、静かにジェイ・ゼルが微笑みを与えた。
「緑に、なっているのか? 私の眼が」
突然の彼の問いかけに、ハルシャは目を大きく見開いた。
どう、答えればいいのだろう。
彼ははじめ、無遠慮に指摘したハルシャの言葉に表情を消した。
あまり、知られたくないようだった。
だから、ハルシャは気付いても見ぬふりを貫いてきた。
ジェイ・ゼルも、あえて聞かなかったのに、なぜ。
しばらく迷った後、ハルシャは素直に想いを口にした。
「ああ。とてもきれいな緑色をしている。まるで、翡翠のようだ」
惑星ガイアで産出する、希少な宝玉の名を口にした時、ジェイ・ゼルの表情が静かに動いた。
「そうか」
悲しみのような、喜びのような、複雑な表情だった。
その顔のまま、ジェイ・ゼルがハルシャを見つめ続ける。
どうして瞳の色が変わるのか、彼の表情を見ていると、ハルシャは問いかけることが出来なかった。
内側の痛みに独りで耐えているように、彼は静かに微笑んでいた。
彼の悲しみを止めたくて、話しを変えるように、ハルシャは言葉を滴らせた。
「今日は、ジェイ・ゼルに横になってもらって、私が快楽を与えるつもりだったが――すまなかった」
おや、と、ジェイ・ゼルがいつもの表情に戻って眉を上げる。
「どうして、謝るんだ。ハルシャ。私は十分に快楽を君から与えてもらったよ」
「だが――最後は、ジェイ・ゼルに動かせてしまった。私の技術がつたなかったから……そのままでは、達することが出来なかったのだろう。ジェイ・ゼル」
反省を口にするハルシャに、ジェイ・ゼルが軽い笑い声を上げる。
「ハルシャは真面目だね。本当なら、ここは、事後の睦言のはずなんだがね。詫びの言葉を聞くとは思わなかったよ」
ちゅっと、ジェイ・ゼルが音をさせて唇を合わせた。
「動いたのは、私の忍耐が足らなかったからだよ」
ゆっくりと支える腕に力を込めて、ハルシャから身を浮かせる。
「自分で動いて、ハルシャに快楽を与えたくなってしまった。
私のただの、わがままだ」
ちゅっと、再び唇が触れ合う。
「そんなに、責任を感じないでくれ。君は十分私に快楽を与えてくれたよ。この上ない、極上の――悦楽を」
瞳が重く潤む。
緑の瞳の奥がほの暗く揺らめくと、ハルシャの胸がどきんとした。
「君はその身で、私に与えてくれた」
見つめ合った後、ゆっくりとジェイ・ゼルが顔を寄せて、唇を合わせた。
想いを伝えるように、ジェイ・ゼルが口づけを与える。
ハルシャの頭の後ろと背中に、彼の腕が巻き付きベッドから身が起こされた。
抱き上げた身が、ジェイ・ゼルの膝の上に乗せられた。向かい合ったまま腕に包まれる。
動きに、ハルシャは、呻きを口にもらした。
まだ、中にジェイ・ゼルを収めたままだった。
ハルシャを抱くと、揺するように彼が下から突き上げる。
合わせた唇に、律動に合わせてハルシャの口から喘ぎがこぼれた。
薄く開く眼に、彼の緑の瞳が映る。
目にすると、ハルシャは脳がかき乱されるような、痺れを感じてしまう。
「ジェイ・ゼル……」
深い瞳に向けて、呟く。
返事の代わりに、ハルシャは深い快楽へと、再びジェイ・ゼルの身で連れ去られた。
※ベ…ベッドが広くて、良かったですね。