「
オキュラ地域、廃材屋の手前で黒髪の青年と合流したリュウジは、静かに傍らの人物に言葉をかける。
「あらかじめ確認しておきたい」
廃材屋の倉庫が見える、暗い路地だった。
「君は帝星ディストニアの旅行者で、僕は君と偶然に出会い、お互いに古い駆動機関部に興味があると解り、話が弾んだ」
ここまでは良いか? とリュウジの目が、青年に確認する。
はい、と頭が揺れた。
「そんな君に僕は、つい先日、見事なレンドル・ヴァジョナ型の駆動機関部を、廃材屋で見かけたことを告げる。君は大変興味を持ち、僕は客として、ここへ案内してきた」
にこっと笑うと、リュウジは吉野に
「そして君は資産家で、趣味のためなら金に糸目をつけない。そして、欲しいものは必ず手に入れる。いいか?」
と、説明を終える。
「了解いたしました。
くすっと、リュウジは笑う。
「僕のことは、『少年』とでも呼んだらいい。この容姿は、どうやらここでは、幼く見えるようだ」
「かしこまりました」
ふっと、口元を歪める。
「
その時だけ、彼は静かに微笑んだ。
「善処いたします」
その様子を見てから、廃材屋へ目を向ける。
「彼女から、どうしても、聞き出したいことがある。駆動機関部は、言い値で買い取る。彼女へのチップ代わりだ」
「はい」
彼は黒い鞄をしっかりと抱え直す。
小さくリュウジは笑う。
「まあ、僕の前なら、多分適正な値段を付けてくれると思うけどね。前回、派手に買い叩いたからね」
吉野は無言だった。
リュウジは笑みを消した。
「行こうか、
「はい、
廃材屋の片目を眼帯で覆った、大柄な女性は、倉庫の中に居た。
相変わらず、彼女は袖なしの服を着ている。
山のように積み上げられた廃材の一角に取りつき、何かを探しているようにも、整理をしているようにも、見えた。
「こんにちは」
リュウジは明るく声をかける。
呼びかけに、彼女は顔を上げ、リュウジを認めると破顔した。
「これは、これは、いたいけな乙女から容赦なく買い叩いてくれた、可愛い顔のしたたか者くんじゃないか」
彼女の最大の賛辞に、リュウジは顔をほころばせた。
「そんなに褒めて頂くと、嬉しくなります」
彼女は、廃材に触れていた手を止めて、近づくリュウジと、その後ろの人物に目を向けている。
リュウジは手放しの笑顔を、彼女に向けた。
「この前は、本当にありがとうございました。サーシャは、おまけに頂いたぬいぐるみ生物を、片時も離さず可愛がっていますよ。
名前は、アルフォンソ二世、だそうです」
背後のいかつい青年から、彼女はリュウジに視線を戻した。
片頬が歪む。
「それは良かった」
軽い動きで、彼女は廃材の山から飛び降りて、地面に足をついた。
動きに従って、一つに後ろでくくっている、亜麻色の髪が優雅に波打つ。
「棚も、活躍しているかい?」
「もちろんです。良い材を仕入れさせていただきましたから」
彼女は身を起こした。
しばらく無言で二人は見つめ合う。
「で」
彼女の片方だけの、薄青い瞳が細められる。
「今日はどうしたんだ? 何か、気になるものでも、あったの、か、な?」
リュウジはにこっと笑う。
「あの時のご配慮への感謝と、そして、お詫びと言っては何ですが――このお店に、お客さんを案内して参りました」
リュウジは後ろを向いて、背後の人物を彼女に示す。
「帝星ディストニアからの旅行者で、イトウさんだそうです。偶然お会いして、話のついでに、ここに非常に状態の良い、レンドル・ヴァジョナ型の駆動機関部があることを申し上げると、ぜひ一度見せて欲しいと……」
仕事着を隙なく着こなす人物を、じっと彼女が見つめている。
「それでお連れしました」
笑顔を、廃材屋に戻しながら、リュウジは言葉を切る。
一つだけの眼球が、リュウジに向かう。
「なるほどね」
呟くと、彼女は動き出した。
「こっちだ。まあ、見るだけなら、タダだからな」
大股に彼女は歩いていく。無造作に放置されている駆動機関部の側に、二人を案内する。入り口にそれは、でんと置いてあった。
見上げるほど大きい、星々を旅する船の一番重要な部品だった。
「百年以上前の品だ。丁寧に使い込んである」
廃材屋が、そっと駆動機関部の金属面に触れる。
「技術は拙いが、情熱が人々の間にあったころに作られた、素晴らしい駆動機関部だ。職人たちが手間暇を惜しまず作り上げた、逸品だよ。こんだけ手のかかったものは、もう作れないだろうね」
ほれぼれとしたように、彼女が言う。
本当に物の本質が解っているのだと、リュウジは彼女を見つめながら思う。
「実際に使われてきたものようですね」
リュウジが呟く。
「赤い手形が、かすかに残っています」
見上げたまま呟く。
「どうやらこの駆動機関部は、宇宙幽霊のお気に召した品のようですね」
くすっと、彼女は笑いをこぼした。
「随分、詳しいね。坊や」
「イトウさんからの受け売りです。宇宙幽霊の手形は、良い駆動機関部の証だと」
ね、そうですね、とリュウジは笑顔を後ろの青年に向ける。
廃材屋は、鋭い目を、背後のイトウに向ける。
「見たところ若いようだが、博識だね」
目を細めて廃材屋が、言った。
リュウジの背後に立っていた青年が、不意に口を開く。
「いい品だ」
深みのある声が響いた。
「値を聞かせてもらおうか」
瞬間、リュウジと廃材屋の女性の視線が、がつっと、ぶつかり合った。
互いに、間合いを計るように、静かに様子をうかがう。
相手の出方を、探る。
片頬を歪めて、廃材屋が不意に口を開いた。
「二〇〇〇ヴォゼル」
彼女の一つだけの目が、細められる。
「破格だよ」
ゆっくりと、リュウジは息を吸った
吐きながら、微笑む。
「確かに、破格ですね」
彼の呟きに、廃材屋は無言だった。
しばらく二人は見つめ合っていた。
「この駆動機関部は、まだ使える」
長い沈黙の後、ぽつんと廃材屋が言う。
ちょっと肩をすくめる。
「折り合わないなら、お流れだね」
踵を返そうとした廃材屋の耳に、深みのある声が響いた。
「いいだろう」
ぎくっと、したように、廃材屋の足が止まった。
「その金額を、支払おう」
ぎりぎりと、身を捩じるように、廃材屋が振り向いた。
「正気か」
青年へ、目が向く。
「この駆動機関部を買おうというのか?」
黒髪の青年の冷静な表情は、動かなかった。
「売り物なのだろう」
ごく、わずかにためらってから、廃材屋がうなずいた。
「なら、買おう。現金で支払う。それでいいか」
ふっと、廃材屋の肩から力が抜けた。
「参ったね。あんたは、とんでもない客を連れてきたんだね」
一つだけの目が細められる。
「まさか、こいつを買う客があるとはね」
「帝星ディストニアの博物館なら、よだれを垂らして欲しがりますよ。これほど状態のいいものは、中々お目にかかれませんから。
ここに置いておくのは、もったいないとイトウさんは、お考えのようです」
廃材屋は微笑んだ。
リュウジの言葉に、ふと、心が動かされたように、笑みが優しかった。
「博物館、か。それも良いかもしれないね」
百年前に、遙かな星々の海を旅するために、作られた部品を、彼女は目を細めて見つめる。
「大事にしてくれるなら、ね」
そっと、手が金属面に触れる。
「本当は、こいつは今でも星々の間を駆けたいんだろうがね。残念ながら、こんな旧式の駆動機関部を載せてくれる宇宙船などないからね。
星々を、見せつけているだけでは、可哀そうだと思っていたところだ」
ふふっと、彼女が小さく笑う。
「どうなんだろうね、宇宙船の部品としては――磨滅して使い物にならなくなるまで、使い込まれるのが幸せなのか、きれいなまま、博物館に展示されるのが幸運なのか」
優しい笑みが、廃材屋の顔に浮かんだ。
「人も同じだね。宇宙で散るのか、地上で老いていくのか」
まるで、友に触れるように、優しい手つきで機関部の形をなぞる。
「どっちが、幸せなんだろうね。宇宙船乗りにとっては――」
静かな横顔を、リュウジはしばらく見つめていた。
「ミア・メリーウェザとご友人だそうですね」
不意に口にした言葉に、彼女は微笑みを深めた。
「ああ。宇宙に見切りを付けられた者同士で、ウマが合ってね」
ぽんと、彼女は金属を叩くと、手を離した。
「支払いは現金と言ったね」
青年に向けられた言葉だった。
彼は、静かに鞄の中から、金貨を七枚取り出した。
アークトゥルス・グローネ金貨だった。
価格変動が激しい金貨にあって、不動の安定性と価値を誇るものだった。
一枚、三〇〇ヴォゼルほどの価値は優にある。
微かに見開かれる目の前で、彼は七枚の金貨を、差し出して、彼女の手に握らせた。
「超過した分は、手間賃としてとっておいてくれ」
黒い瞳が、隻眼の廃材屋を見つめる。
「受け取りが欲しい。確かに売ったという証拠に」
ふっと、彼女は笑った。
「もちろんだよ」
彼女が受け取りを書くために、事務所に戻った時、
「すぐに、ここから運び出せ。
と小さくリュウジは呟いた。
「明日に取りに来ようとしたら、もう、駆動機関部はここから消えているかもしれない」
「了解いたしました。すぐに手配をいたします」
彼が通話装置を取り出して交渉している間、リュウジは静かに廃材の山を見つめていた。
古式ゆかしい書面という方式で、彼女は二〇〇〇ヴォゼルの受け取りを、イトウ様宛で寄越した。
その受け取りを見て、リュウジは彼女が、リンダ・セラストンという名であるのを知る。
早速得た情報を、リュウジは使った。
「リンダ・セラストンというお名前なのですね」
片眉をあげて、彼女は承諾を表す。
「そうだよ、坊や」
にこっと、リュウジは微笑む。
「商談が成立して、何よりです。僕としても、とても嬉しいです」
ふっと、廃材屋のリンダは肩をすくめた。
「前回は、こっぴどく買い叩いてくれたけれどね」
リュウジは笑みを深める。
「あの時の値段の付け方は、適切ではありませんでいた。ですが、今回のレンドル・ヴァジョナ型の駆動機関部に関しては、大変公正な値を付けて下さいました。
文句のつけようがありません」
彼女はまだ肩をすくめたままだった。
リュウジは視線を、廃材の山に向ける。
「随分、たくさんの資源をお持ちですね」
「まあね」
彼女はやっと肩の力を抜いて、自分の商売道具である、廃材の山を見つめる。
「どこかしらから、集まってくるのさ」
「そうでしょうね」
目を廃材に据えたまま、リュウジは呟く。
「例えば、借金を抱えた人たちから、二束三文で、買い叩く、とか――」
ゆっくりと、リンダの一つしかない目に、リュウジは深い眼差しを向ける。
「そんな方法で、集まってくることも、あるかもしれませんね」
彼女の目が細められた。
リュウジは淡々と続ける。
「借金の取り立て屋たちが、負債者から無理矢理奪ったものを、あなたに売りに来ることも、あるのでしょうね。
何でもいいから、とりあえず現金にしたい――
それを適えるのも、あなたのお仕事の一つ、なのでしょうか?」
にこっと、艶やかにリンダ・セラストンは微笑んだ。
「かも、しれないね」
しばらく無言で見つめ合った後、リュウジは口を開いた。
「ここオキュラ地域で、幅を利かせている借金の取り立て屋とも、あなたは交渉するのですか?」
目が、底光りする。
「例えば、ジェイ・ゼル――という人物、とか」
廃材屋は、何も答えなかった。
リュウジの目が、廃材屋を捉える。
「良い商談が成立した記念に、少しお話をさせていただけませんか? 僕はオキュラ地域に来たばかりで、何も解らないのです。ぜひ――詳しいことを、教えていただきたいです、リンダ・セラストンさん」
きゅっと、片目の廃材屋の唇が、歪むように笑みを作った。
「あんたが、ファグラーダの乾杯に、耐えられるのならね」
帝国最悪最低の酒の名を上げて、嫣然とリンダが微笑む。
リュウジは無邪気に笑った。
「ファグラーダは、大好きなお酒です。ぜひ、お相伴に預かりたいです。もちろん、イトウさんも、同席ですよね」
ますます廃材屋の唇が歪んだ。
「奥で話そうか」
彼女は笑みを深める。
「どうやら、ここからが本題のようだね。可愛い顔で酒豪のしたたか者くん」
リュウジは微笑む。
「美しいあなたに、そんなに褒められると、さすがの僕でも照れてしまいますよ、リンダ・セラストンさん」
*
「ジェ……ジェイ・ゼル」
指がゆっくりと、後孔を行き来する。
ハルシャは、彼の前に腰を掲げた姿勢をとることに、恥辱を感じながら、言葉をこぼす。
「もう……いいだろう。十分ほぐれたとおもう」
いつもよりもずっと長く、彼は時間を取っているような気がする。
身をぴたりと彼に預けていて、身体的な辛さはないが、無防備に彼に嬲られているのが、どうにも耐えられない。
動いているジェイ・ゼルの右の指と、ハルシャの身を抱えるように抱き込む、左の手。
その左手は、まるで手触りを楽しむように、さわさわとハルシャの背中や腰を優しく撫でている。
「まだだよ、ハルシャ」
笑いを含みながら、ジェイ・ゼルが呟く。
「まだ指が二本しか入っていない。三本入れられないと、君が傷ついてしまう」
わざと、長引かせているのではないか、と、ハルシャは唇を噛み締めながら、思う。
時折、敏感な場所に、そっとジェイ・ゼルが触れる。
押し付けるようにして、中のふくらみを刺激されるたびに、ぴくんと、ハルシャの身が震える。
それを、ジェイ・ゼルは楽しんでいるような気がする。
不意に、中でぐるりと指が回された。
「ああっ!」
急な動きに、ハルシャは声を上げた。
背が反り、びくっと跳ね上がる。
腰のハルシャの丸みのある場所に、ジェイ・ゼルの唇が触れた。
「良い声だね」
ちゅっと、音がする。
「いつまでも、聞いていたいよ。ハルシャ」
正直、背中をジェイ・ゼルに向けている姿勢は、苦手だった。
それは――
最初にジェイ・ゼルに抱かれた時に、後ろ向きだったからだ。
自分の身に何が起こっているのか解らないまま、痛みだけが与えられた行為の恐怖が、消しようもなく、身の内側に刻まれている。心を彼に預けた今でも、ざわざわと蘇ってくる。
後ろから挿入した方が、受け入れる側の身体の負担は少ないのだと、しばらくしてからジェイ・ゼルはハルシャに教えてくれた。
最初の時も、その配慮から彼は、うつ伏せの状態で行為に及んだのかもしれない。
けれど。
見えない恐怖は、何にも勝った。
姿が見えている方が、ハルシャが安心するとジェイ・ゼルは気付いたのか、最初の頃以外は、向き合った状態で身を合わすのが、常になった。
四つ這いになり彼を受け入れる屈辱的な姿勢を、ことにハルシャが嫌うと知ってからは、もう強いることはなくなった。
時には見せつける様な行為に及んでも、ハルシャは、視界に全てを捉えている方が良かった。
一度、彼に目隠しをされた時があった。
視界が闇になった途端、身が強張り、ハルシャは動けなくなった。
恐怖に震えるハルシャに、視界をふさぐと内側の感覚が鋭くなり、感じやすくなるのだと、ジェイ・ゼルが解き諭していたが、耳に入らなかった。
それでも、命じられた通りに、ハルシャは行為を必死にこなした。
自分の内側でジェイ・ゼルが果てた時、心底安堵した。これで、視界の闇から解き放たれると、思ったからだ。
あまりにハルシャが怯えたために、二度とジェイ・ゼルは目隠しをしなかったが、あの時の恐怖も、やはり今のハルシャに傷として残っている。
解らないことに対して、ハルシャは、理屈抜きに恐怖を抱いてしまう。
一度、前触れなく後孔に入り込んだジェイ・ゼルに、ハルシャは動揺し、きつく締め付けてしまったことがあった。
息をして、力を抜いてくれと、ジェイ・ゼルが懸命に言葉をかけるが、切羽詰まった強い物言いに、余計にハルシャはパニックになってしまった。
怒っているのではない、と彼に宥《なだ》められる。それでも、身を固くするハルシャの口の中に、ジェイ・ゼルの指が数本入り込んできた。この指を舐めてくれ、と、彼に命じられる。
彼の細く長い指を、歯を立てないように気を付けながら、ハルシャは、言われるとおりに舐め続けた。その内に、身から力が抜けてきたようだ。
静かに、ジェイ・ゼルが彼の昂ぶりを、ハルシャの中から抜いた。
それ以来――
突然の行為に対して、ハルシャが恐怖を抱くと知ってからは、ジェイ・ゼルは挿入の前に、必ず、挿れるよ、と、告知してくれるようになった。
心の準備が出来れば、ハルシャは受け入れられる。
そう、理解してくれたようだった。
彼を信じたい。
思いながらも、背後を彼に預けることに、まだハルシャはわずかな抵抗があった。
心ではどうしようもない、身に染みついた感覚だった。
今まであまり後ろ向き姿勢をとっていなかったせいか、ジェイ・ゼルはそれが楽しくて仕方が無いようだった。
後ろの二つの膨らむ臀部を、空いている手で静かに撫でている。
男の尻を撫でて楽しいのだろうか、とハルシャは思うが、どうやらジェイ・ゼルはそうらしい。
指の入る圧が強くなる。
三本になったのだろう。
ハルシャは唇を噛み締める。
あと少しで、この屈辱的な姿勢をとることも、終わる。
目の前には、ジェイ・ゼルの昂ぶりが、少し落ち着きを取り戻したように揺らめいている。
彼が最初に口淫をさせていたのに、そんな理由があるとは、全く気付かなかった。
確かに射精をした後、すっと気持ちが冷めることは確かだった。
あえて最初にそうしないと、ジェイ・ゼルはハルシャを幾度も抱いてしまうと、判断していたらしい。
確かに――
かすかに、頬が赤らむ。
心が通った夜、ハルシャは幾度も彼の腕の中で絶頂を迎えた。
快楽の果てに、意識が遠のくほどに……。
思いに浸っているうちに、すっと、後孔の圧が消えた。
ジェイ・ゼルが指を抜いたらしい。
ハルシャは、ほっとした。
終わったようだ。
身を起こそうとしたハルシャの腰が、ジェイ・ゼルの両手に捉えられ、微かに彼に引き寄せられる。
えっ、と思った時に、ジェイ・ゼルがハルシャの丸みに、静かに唇を付けた。
両手で丸みをなぞりながら、唇がゆっくりと触れる。
ちゅ、ちゅっと、軽い音がする。
「ジェイ・ゼル……」
ハルシャは、身を震わせながら言った。
「もう、ほぐし終わったのだろう」
「まだだよ」
しれっと、ジェイ・ゼルが言う。
「もう少しだ」
「もう、ゆ、指を抜いているじゃないか」
「この姿勢では、長く続けていると腕が辛くてね……少し、休憩しているだけだよ」
「なら、腕を伸ばして、休めばいいじゃないか」
「目の前に、可愛いハルシャのお尻があるからね、放置はできないだろう」
へ、変態め。
「可愛いお尻だ」
言いながら、ジェイ・ゼルがちゅっと、唇を押し当てる。
今まで、こんなことを、されたことがない。
唇が触れるたびに、びくんと、身が震える。
手が、腰から這い上がるようにして、撫でてくる。
「ジェイ・ゼル……」
さっさとほぐし終えてくれ、と言おうとしたハルシャの耳に、ジェイ・ゼルの静かな声が響いた。
「ハルシャは、私に後ろを預けるのが、好きではないからね」
わずかにハルシャは、身を強張らせた。
穏やかに声が響く。
「恐怖を、私が最初に与えてしまったからだろうね」
沈黙の間も、ゆっくりとなだめるように、手が動く。
ちゅっと、唇が触れる。
「後ろ向きでも、恐くないだろう、ハルシャ」
優しく肌の上を、手が滑る。
「私はもう、君を傷つけないよ。大丈夫だよ、ハルシャ」
唇が、誓うように触れる。
ジェイ・ゼルには、全て伝わっているのだ。
ハルシャの恐怖も、ためらいも。
まるで星空を見上げた最上階の部屋のように、何もかにもが透明で、ジェイ・ゼルには手に取るように、自分の心が解ってしまうのだろう。
自分は、ジェイ・ゼルの思いは、少しも解らないというのに。
今日も、どうして彼がこんなに不安定だったのか、少しも解らない。
自分は、ジェイ・ゼルのことが少しも理解できないのに、彼は自分のことを、理解してくれている。
そして、五年間、待ち続けてくれたのだ。
胸の奥が、不意に痛んだ。
何かがせり上がってくるような気持ちになる。
悲しみのような、感覚だ。
胸が痛い。
あふれたものに、飲み込まれそうになる。
ハルシャは、ジェイ・ゼルに身を預けながら、前で揺れる彼の昂ぶりを見つめる。すごく、大切なもののように、思えた。
手で、自分の方へ引き寄せる。
五年間、見てきたジェイ・ゼルの形を、しばらく眺めてから、ほとんど無意識に、ハルシャは彼の先端を、口に含んだ。
ぴくっと、下に敷いているジェイ・ゼルの身が震える。
舌を先の亀頭に絡めると、はっと、わずかなジェイ・ゼルの声が聞こえた。
「なるほど。そういう手に出たか」
辛うじて笑いを含みながら、ジェイ・ゼルが呟く。
手管を使った訳ではなく、目の前にあるものを、本能的に口にしただけだが、結果として、ジェイ・ゼルを煽ってしまったらしい。
唇を離して、彼はハルシャの後孔に再び指を静かに挿れる。
びくっと、身が揺れる。
それでも、ハルシャはジェイ・ゼルの昂ぶりを口から離さなかった。
ジェイ・ゼルに腰を下ろしている下から、空いている方の手が、割り込むようにして伸びてきた。
ぬめりのある液を含んだ手が、ハルシャの局部に、触れる。
先端の敏感な場所を、そっと彼は手の平で刺激した。
「ああっ!」
突然のことに、ハルシャは身を捩った。
口からジェイ・ゼルがこぼれ落ちる。
その間隙を狙うように、ジェイ・ゼルが左右の手を動かし、後孔をほぐしながら、ハルシャの昂ぶりを刺激する。
「悪戯が出来ないように、してあげないとね」
ジェイ・ゼルが優しい声で呟く。
「暇が出来ると、ハルシャは余計なことをしてしまうからね」
ジェイ・ゼルを口に含むことが出来ないように、二ヶ所から刺激を与えているらしい。
意のままに操られるのに、少しハルシャは悔しくなる。
意地を見せて、彼を引き寄せて口に含む。
瞬間、与えられるジェイ・ゼルの刺激が強くなる。
「ん、ああっ!」
また、口からこぼれる。
ハルシャは、くっと歯を食い縛ってから、両手でジェイ・ゼルを掴み、口に入れる。
舌を丁寧に這わせながら、ジェイ・ゼルの甘美な攻撃に、耐え続ける。
次第に、息が上がってくる。
口に含むジェイ・ゼルは、かつてないほどに、硬くなってきた。
くうっと、ジェイ・ゼルが苦しげな息をもらした。
するっと、指が抜かれる。
「わかったよ、ハルシャ。君の勝ちだ」
最後に優しく、ジェイ・ゼルの手が、ハルシャの丸みをなぞるように滑る。
「自由にしてあげるよ。私の身体を、君の好きにしなさい――どんなことでも、私は受け入れるから、君の思うままにすればいいよ、ハルシャ」
※追記です。
レンドル・ヴァジョナ型の駆動機関部に付けられた値段の日本円換算です。
二〇〇〇ヴォゼルは、日本円で約六五〇万円ぐらいです。
良心的なお値段です。