ただ、服を脱がせただけだ。
可愛くもなんともないと、ハルシャは抗議をしたくなった。
結局。
受け身でいると、ジェイ・ゼルには、ハルシャの行為の粗《あら》が目についてしまうのだろう。
仕方がない。
いつもジェイ・ゼルに任せっきりで、自分で動いてこなかったのだから。
でも、いざ自分が主体になると、色々新しい発見がある。
結構神経を使うものだと、実感する。
いつも、ジェイ・ゼルが自分を見つめていたことを、思い出す。
今の行為をしながら、次に何をするのか、計画を立てなくてはならない。
受け身の時は、ただ与えられることを、待っていればいい。
だが、与える方は、心を尽くして、相手に施しをしなくてはならない。
いい勉強になる。
思いながら、ハルシャは服を脱ぎ去る。
「相変わらず、潔い脱ぎっぷりだね、ハルシャ」
ジェイ・ゼルがハルシャに視線を向けながら、呟く。
「そこは、赤面しないんだね」
服を床に落としてから、ハルシャは、ジェイ・ゼルの横たわる側に座った。
「そんなことを、いつも見ていたのか」
呆れたように、ハルシャは言葉をこぼしていた。
ふっと、ジェイ・ゼルが微笑む。
「見ているよ。いつも――君のことは」
そうだ。
彼は自分を常に、観察している。細かな変化も見逃さないように。
ハルシャは、上から彼を見下ろす。
灰色の瞳を見つめる。
彼の問いに、静かに答える。
「赤面しないのは……慣れたのと」
顔を寄せる。
「ジェイ・ゼルの、前だからだ」
そっと、唇に触れる。
彼がいつもしてくれるように、ちゅっと音を立てて軽くついばむ。
にこっと笑ってから、位置を動く。
自分が感じるように、ジェイ・ゼルも胸の尖りが敏感だと、ハルシャは知っていた。
触れ方も教えられたが、彼に命じられない限り、ハルシャは気付かないふりを続け、触るのを拒んできた。
たった一度――
名前を呼ばれて感じそうになった時、彼を早く絶頂に向かわせるために、手管として、使った。
その時、彼はかつてないほど、感じていた。
思い出しながら、ハルシャは舌でそっと、尖りに触れた。
ぴくっと、ジェイ・ゼルの身が震えた。
視線を送ると、枕に頭を預けたジェイ・ゼルが、自分を見つめていた。
その視線を受け止めながら、ハルシャはゆっくりと、舌を這わす。
右の手を伸ばして、優しく頂きにも触れる。さわさわと指先で撫でると、ジェイ・ゼルの皮膚から、堅い尖りが持ち上がってくる。
摘み、柔らかく指先で転がす。
ふわっと、ジェイ・ゼルの頬に微かな赤みが浮いた。
ハルシャの中に、ぞわりと、今までと違う快楽が湧き起る。
自分の愛撫に、ジェイ・ゼルが反応している。それが、言いようのない喜びをもたらしてくる。
ジェイ・ゼルの顔を見つめながら、ハルシャは、彼の乳首を口に含んだ。
ぴくっと、再びジェイ・ゼルが反応する。
じわっと、喜びが身に湧き起る。
ふと気づく。
もし、ジェイ・ゼルが何も反応しなければ、自分はどんな気持ちになるだろう、と。
それは――
五年間、自分がしてきたことだ。
想いが、中に渦巻く。
眉を寄せながら、ハルシャは、彼に快楽を与えたいと、静かに刺激を与え続ける。
自分が与えられて喜びに震えた行為を、静かにジェイ・ゼルに返す。
舌先を左右に振るようにして、尖りを刺激する。
急に強く吸ってみる。
ハルシャの耳に、微かに荒くなるジェイ・ゼルの息遣いが聞こえる。
胸の上下が大きくなってきた。
彼の息が深い。
感じてくれているのだろうか――
ハルシャは、ジェイ・ゼルを上目遣いに見守る。
視線が絡み合う。
数日前までは、忌避していた行為を、今、自分は望んで行っている。
不意に、羞恥が身の奥に湧き起りそうになる。
懸命に頭から振り払う。
集中しよう。
ジェイ・ゼルが与えてくれたように、自分の身で、快楽をジェイ・ゼルに受け取って欲しかった。
一心に、ハルシャはジェイ・ゼルの胸から快楽を引き出そうと、心を込めて、乳首を刺激し続ける。
ゆっくりと、ジェイ・ゼルの身が揺れ出した。
「ハルシャ……」
無心に行為を続けていたハルシャの髪に、さらっとジェイ・ゼルの手が触れた。
はっと、顔を上げると、明らかに頬が赤らんだ彼が、自分を見つめていた。
眉を寄せて、かすれた声で呟く。
「下にも……触れてくれないか」
髪を、大きな手が滑る。
彼の懇願に、きゅんと、胸が痛くなった。
「わかった、ジェイ・ゼル」
胸から顔を上げて、ハルシャは、彼に顔を寄せた。
横たわり、自分を見上げるジェイ・ゼルと視線を絡めてから、まるで、磁石が引き合うように、彼の唇に触れていた。
「下だね」
唇を離して呟くと、ハルシャは、動いた。
察して開いてくれたジェイ・ゼルの足の間に入り、透明な汁を滴らせる、ジェイ・ゼルの昂ぶりに、そっと指で触れる。
視線を、ジェイ・ゼルに向ける。
彼は、腕を片方敷くようにして枕を高くし、ハルシャへ真っ直ぐな視線を向けている。
昂ぶりを指先で捕えてから、ハルシャは視線を向けたまま、彼の頂を口に含んだ。
教えられてきたとおりに――これまで修練を積んできたように。
舌先を、彼の亀頭に絡める。
ぐっと、ジェイ・ゼルの表情が動いた。
無防備な状態で、不意に打撃を受けたように、これまでの口淫の時とは、全く違う表情がジェイ・ゼルの顔に浮かぶ。
切なげに、眉が寄せられる。
ジェイ・ゼル。
ハルシャは心の中で、彼の名を呼んだ。
胸が痺れるような痛みが、奥に走る。
今ほど、口に含んだ彼のものが、大切に思えたことがなかった。
息が苦しかった。
それでも、ハルシャは視線を外さずに、彼に舌を這わせ続ける。
先の形を探り、先端の割れ目に、すっと舌先を忍び込ませ、丹念に口で彼を味わう。
一度口から出し、舌の広い面で、彼の長さを丁寧になぞる。
聞き間違えようのない喘ぎが、ジェイ・ゼルの口から上がり出した。
「あっ……ハルシャ……んっ……ん」
甘い声と、重い響きを持つ自分の名前が、ジェイ・ゼルの口からこぼれるたびに、ハルシャの内側が痺れる。
目を閉じると、ハルシャは彼の声と彼の形に意識を集中した。
舐め上げる。
次第に速度を上げる。
その度に、ジェイ・ゼルの低い呻きが聞こえる。
びくびくと、彼の脈動が感じられる。
もう、達するのか。
いつもなら、速度をあげるところを、ハルシャは時間を引き延ばすように、逆に緩めた。
口全体を使っていたのを止め、静かに先端を舐める。
くっと、ジェイ・ゼルが、喉の中で息をする。
「ハルシャ……」
彼が、上ずった声で、自分を呼ぶ。
呼びかけだ。
気付いたハルシャは口を離し、
「どうした、ジェイ・ゼル」
と、顔を上げて問いかけた。
彼が息を弾ませながら、
「達するなら……君の中で、達したい」
と、言葉を滴らす。
ハルシャは身を起こした。
切れ切れな言葉を聞こうと、またぐようにして身をせり上げて、彼の側に顔を寄せる。
ジェイ・ゼルの灰色の瞳が、ハルシャを見つめる。
「もう、それ以上口淫をしなくても、いい……」
苦しい息の下で、彼が告げる。
ハルシャは、眉を寄せながら、ジェイ・ゼルに問いかける。
「だが、ジェイ・ゼルは、好きだろう? 遠慮をしなくてもいい」
精を飲むのが苦手なことを、気にしているのかもしれないと、ハルシャは気を回す。
「別に精を飲むのは、嫌じゃない。大丈夫だ、ジェイ・ゼル」
ふっと、ジェイ・ゼルが笑った。
不意に、腕が自分に絡み、ジェイ・ゼルの胸の上で、ハルシャは抱きしめられていた。
しばらく、自分自身を鎮めるように、彼は沈黙していた。
押し当てられている胸の動きが、次第にゆるやかになり、随分彼が落ち着いてきたのを感じた。
長い静寂の後、髪を撫でながら、ジェイ・ゼルが呟く。
「ハルシャに、最初に口淫をさせていたのは、そうでもしないと、私の我慢が出来なかったからだ。
君は、射精は一度だと思い込んでいたからね。一回で君の中で終わるためには、最初に冷静になる必要があった。
わざと、身を冷まして――君に負担をかけないように、していただけだ」
絞り出すような言葉が、耳にこぼれ落ちる。
「吐精をすると、どうしても、気持ちが冷める。本当は、最初から君の中に入りたかった――」
抱きしめられた腕の強さが、ハルシャの身を震わせた。
「許してくれるなら、このまま君の中に、沈めさせてくれ。頼む、ハルシャ」
押し当てられた場所が、とくん、とくんと動いている。
彼の心臓が、動きながら、想いを伝えている。
早く、君が、欲しい、と。
「わかった、ジェイ・ゼル」
ハルシャは、抱きしめられたまま、呟く。
「今日は聞かされていたから、準備をしてきた」
ハルシャの言葉に、ジェイ・ゼルがぐっと身を強張らせる。
「そうか」
すっと髪が撫でられる。
「そうしたら」
ジェイ・ゼルがハルシャをのぞき込みながら言う。
腕の力が緩んで、ハルシャも顔を上げる。
視線が触れ合う。
先ほどの切羽詰った感など、どこかに消えたように、静かにジェイ・ゼルが微笑む。
「後孔をほぐしてあげよう」
優しい笑みを浮かべて、彼は続けた。
「ハルシャ、お尻をこちらに向けて、私にまたがってくれ」
え?
ハルシャは、彼の言葉に、凍り付いた。
ジェイ・ゼルの笑みが深まる。
「ハルシャ。今日は、私は横になっていれば良いのだろう?」
確かにそう言った。
こくんと、ハルシャは頭を揺らす。
なら、と、ジェイ・ゼルの眉が上がる。
「私は起き上がれない。だから、ハルシャに動いてもらうしかない」
自明の理を解くように、彼は爽やかに言う。
「私の前に、君の後孔が来るように、またがってお尻を向けてくれないか、ハルシャ」
な。
なんという、卑猥な。
横たわるジェイ・ゼルの上に、お尻を向けて乗れと、彼は言っている。
そんな恥ずかしい姿勢が、取れるはずがない。
考えただけで、ハルシャは全身が真っ赤になった。
そんなハルシャを、ジェイ・ゼルは楽しそうに見つめている。
しばらく固まってから、
「い、いい。ジェイ・ゼル。自分でほぐす」
と、ハルシャは、懸命に顔を背けて言う。
「いつも、ジェイ・ゼルがしてくれている通りにすればいいのだろう。大丈夫だ。ゆ、指を、入れればいいのだろう」
自分でしたことはないが、きっと大丈夫なはずだ。
「いつもの液を、貸してくれ、ジェイ・ゼル。自分でするから」
声を上ずらせながら、ハルシャは言った。
ジェイ・ゼルの手が頬に触れて、ハルシャを彼の方へ向かせた。
「ハルシャ」
説得する口調で、彼は言う。
「後孔をきちんとほぐさないと、君が怪我をしてしまう。ほぐし方を私は君に教えていない。それに、爪をきちんと切っていないだろう? 腸の粘膜は弱いので、爪でも簡単に傷がつく。伸びていては危険だ」
灰色の瞳が、自分を見つめる。
そう言えば、いつもジェイ・ゼルは指先からほとんど出ないほど、短く爪を切り、先を丁寧にやすりで滑らかにしている。
それは、身だしなみのためではなく、自分との行為のためだったのだと、初めてハルシャは知った。
驚く彼に、ジェイ・ゼルの言葉が続く。
「私は、君が傷つくことも、痛みを得ることも望まない」
真剣な眼差しが、自分を捉える。
「お願いだ、ハルシャ。意地を張らずに、私にほぐさせてくれ」
彼の熱のこもった言葉に、ハルシャは押し切られるようにして、思わずこくんとうなずいていた。
はっとした時は遅かった。
ジェイ・ゼルが穏やかな笑みを浮かべて
「私の鞄に、液が入っているから、取ってきてくれるかな。私はここから動けないからね」
と朗らかに言った。
「戻ってきたら、こちらにお尻を向けて、私にまたがるんだよ。良いね、ハルシャ」
そして――数分後。全身を真っ赤に染めながら、ハルシャは、ジェイ・ゼルの言う通りの姿勢になっていた。
※追記です。
ここにも、ジェイ・ゼルのこだわりが、一つ。
彼は爪の手入れを欠かさず行っています。やすりで丁寧に磨き上げております。
理由はただ一つ。ハルシャの中を傷つけないためです。
そんな思い遣りに、ハルシャは全く気付いておりませんでした。
r>