ほしのくさり

第50話  嵐のような快楽





 ジェイ・ゼルの指先によって、服の上から静かに胸の尖りが刺激を受ける。
 螺旋を描くように、左右を線対称になぞっていく。
 痛みを与えない緩やかで優しい動きに、ハルシャは身を捩る。
 静かに口を離し、ジェイ・ゼルは無言で反応を見守りながら指先を動かし続けている。
 彼の指使いは、巧みで絶妙だった。
 上をまさぐっていたかと思うと、横側を静かに撫でる。
 場所が変わると刺激の質も変わり、そのたびにハルシャは腰をぴくんと浮かした。
 けれど――
 自由になった下腹部に、決してジェイ・ゼルは触れなかった。

 触って欲しくて、腰が揺れる。
 最初の時の愛撫の熱は引いたと思っていたが、まだ厳然と残っていたようだ。
 下腹部が熱い。
 張りつめた頂から、透明な液がこぼれ落ちる。
 たゆみなく与えられる刺激に耐えかねて、ハルシャは小さく声を絞った。
「――触ってくれ、ジェイ・ゼル」
 手の動きを止めずに、ジェイ・ゼルが顔を寄せる。
「触っているよ」
 はぐらかすように、彼は言う。
 ハルシャは小さく首を振った。
 顔が赤くなる。
 それでも、こみ上げるうずきに耐えられず懸命に懇願する。
「下に……」
 言った瞬間、ぴくんと身体が跳ねて局部が揺れた。
 優しい笑みが、ジェイ・ゼルの顔に浮かぶ。
「ここに、触れて欲しいんだね、ハルシャ」
 ますます顔が赤くなる。
 だが、本当の気持ちを伝えようと、唇を噛み締めてハルシャは小さくうなずいた。
「そうか……」
 吟味するように目を細めてから、彼の右手が離れた。
「本当は、あまり触れない方が良いのだが。ハルシャが、おねだりするのなら、仕方がないね」
 ジェイ・ゼルが顔を寄せて、静かに唇に触れる。
「可愛く言えた、ご褒美だ」
 呟きながら手を延ばして、彼の長い指が亀頭の先に触れた。

 ハルシャの口から、喘ぎが漏れる。
 透明な汁を指先で弄ぶように、彼はそっと亀頭の先だけに優しい刺激を与える。
 乳首と同じような、柔らかな動きだった。

「あっ、あっ、ああっ」
 
 やわやわとした刺激に、下腹部全体がじんと温かくなる。
 身が、反り返る。
 はぁっ、と、満足の息がハルシャの口からこぼれ落ちた。
「よく反応できるようになってきたね」
 ジェイ・ゼルの声が耳朶をくすぐる。
「ハルシャは本当に、優秀で賢い子だ」
 あやすようにジェイ・ゼルが呟く。
「これでもう少し、我慢しておくれ。ハルシャ」

 亀頭から手が離れ、指先にぬめりを宿したまま、ジェイ・ゼルが右手を乳首に戻してきた。
 再び、胸の両方から刺激が与えられる。
 しばらく休んでいたせいだろうか。新たに触れられた右側の尖りの刺激がたとえようもなくハルシャを痺れさせた。

「んんっ――んっ」

 唇を噛み締め、ハルシャは押し殺した呻きをもらした。
 熱を持ったように、両方の乳首が痺れてくる。脳と下腹部に、与えられる刺激が拡散していくようだ。
 未知の感覚が、内側に盛り上がってきた。
 はっ、はっ、はっと、短い息を繰り返す。まるで泣きじゃくった後のように、喉から上手く息が吸えない。
 甘い苦しみが、ハルシャを覆いつくす。
 淀みなく刺激を受ける場所が神経がむき出しになったようだ。
 熱くて過敏に、ジェイ・ゼルの指に反応する。
 指先が立てた人差し指の爪に変わり、ハルシャは叫んでいた。

「ああっ! ああーっ!」

 身が反る。
 思わずハルシャは、刺激を与えるジェイ・ゼルの両方の手首をつかんでいた。
 動きを、止めるためではなかった。
 ただ。
 彼にすがりたかった。
 短い息をしながら、ハルシャはジェイ・ゼルへ視線を向ける。
 彼は、今の自分と同じ感覚を共有するかのように、微かに目を細めて静かに見守っていた。
 ぎゅっと握り締めた彼の手首の内側に、とくんとくんと命の脈動が感じられる。
 一瞬、ハルシャは意識をジェイ・ゼルの手首に向けた。
 骨太でしっかりとした手首が、手の内にある。温もりと鼓動を伝える彼の存在の確かさを支えにして、ハルシャは身の内にこみ上げる感覚に耐えた。
「自分の感覚を、拒まないでくれ」
 優しいジェイ・ゼルの声が、ハルシャの耳に響く。
「身を任せて、受け取ってくれ――君は乳首で達することが出来る」
 爪の刺激が、ハルシャの内側を波打たせる。
「とても可愛くて、敏感な乳首だ。ラグレンの夜明けのように、ピンク色をしている。今も私の愛撫に応えてくれている」
 カリッと、少し強く、ジェイ・ゼルが爪の先でハルシャの尖りを刺激する。
「私を信じて、心を解放してくれ――ハルシャ」

 呟きと共に、唇が覆われ、優しくハルシャの中を探る。
 舌が絡んだ途端、再び甘い痺れが身体の中を駆け巡った。
 口を覆いながら、彼は両手で服の上から尖りを摘み、優しく指の中で転がし始めた。
 今までとは違う、強い刺激がハルシャの身を強張らせた。

「はあっ、あっ……あっ」

 合わせた口の中に、喘ぎが漏れ続ける。
 止めようがなかった。
 自制できない声が、自然と口からあふれだす。
 温もりに近い痺れが、下腹部にこみ上げてくる。
 ハルシャは、目を閉じて、感覚に身を任せた。
 服がめくられ、ジェイ・ゼルの手が直接肌に触れる。
 次第に、ハルシャの手に力が入らなくなってきた。掴んでいたジェイ・ゼルの手首からこぼれ脇にだらりと伸びる。
 すっと、ジェイ・ゼルが覆っていた口を離した。
 不意に、尖りに、ジェイ・ゼルの舌が触れた。
「んんっ!」
 左の乳首を、舌で弄ばれる。
 右はそのまま手で摘んで刺激を与えながら、空いた手で、そっとジェイ・ゼルが亀頭の先に触れた。

 びくんとハルシャは身を跳ねて、三ヶ所の刺激に身体を捩った。
 全身が快楽の巣になったようだ。
 荒い息が、口から漏れ続ける。
 絶え間なく、柔らかに与えらえた乳首への刺激が、どうしようもない感覚を呼び起こしてくる。
 感じたことのない、意識が朦朧とするような強すぎる刺激だった。
 
このまま身を任せれば、自分はきっと、どうしようもない痴態をさらす。
 あられもなく反応し、快楽に叫んでしまう。
 水音を立てながらジェイ・ゼルが乳首を吸い続ける。
 耳に入る刺激に、ハルシャの全身が粟立ち始めた。

 卑猥だ。
 この上なく――

 男性の鈍感なはずの乳首で、自分はこんな快楽を味わっている。
 まだ手放せない理性が、快楽の波に飲まれるのを拒んでいた。

 どうにかなって、いいんだよ。

 ジェイ・ゼルが言っていた意味を、ハルシャは唇を噛み締めながら、感じ取る。
 この感覚に身を任せれば、自分はどうしようもない嬌態をさらす。
 ジェイ・ゼルに、見せてしまう、信じられないような自分の姿を。
 それが恐かった。
 ヴィンドース家の長子として、相応しくない行動をとってしまう。
 最後の壁が、ハルシャは中々越えられなかった。
 身の内には、ジェイ・ゼルが丁寧に高めてくれた熱が溢れだしそうだというのに、冷静な頭の隅が――これまで五年間、ジェイ・ゼルに反応することを拒んできた矜持が、自分をむき出しにすることをためらわせた。

 息が口から短く漏れる。
 汗が全身に噴き出しだした。
 身が、強張る。

 たゆまず静かに、ジェイ・ゼルが刺激を与え続ける。
 これだけの長い時間、ただハルシャに快楽を与えるためだけに、彼は惜しみない努力を注いでくれていた。

 受け取りたい。
 彼が与えたいものを――

 ジェイ・ゼルは言っていた。
 これは本来、愛情と信頼の上に成り立つ情愛のこもった行為だ、と。
 彼の指先から、ハルシャは慈しみを感じた。
 自分を傷つけずに、ただ、高め続ける情愛に満ちた動き。
 一切の虚飾を取り去って自分自身をさらし、相手を受け止める行為だとも、彼は言っていた。
 親密で勇気の必要な行為。
 自分を信じてくれと、ジェイ・ゼルは言っていた。
 内側からこみ上げる衝動に、眉を寄せながら、苦しい息の内に、ハルシャは呟いていた。

「ジェイ・ゼル……」
 目を閉じたハルシャに、ジェイ・ゼルが口を離したのがわかった。
 自分の声を聞いてくれている。
「私を……」
 切れ切れに、ハルシャは呟く。
「……軽蔑、しないで、くれ……」

 あられもなく乱れる自分を。
母に侮蔑の目を向けられる行為を、望んでする自分を――
 許して欲しかった。

 ジェイ・ゼルの手が身体から離れ、髪が優しく撫でられた。
 固く閉じていた目を、ハルシャは開いた。
 そこに、自分を見つめる、灰色の瞳があった。

「軽蔑などしないよ、ハルシャ」
 優しい言葉が、彼の口からあふれる。
 情愛、だと。
 ハルシャは気付いた。
「私の愛撫に応えようとする君は、とても愛らしくきれいだよ。
 軽蔑などしない――決して」
 手が、髪を撫でる。
「安心して身を任せてくれ、ハルシャ。
 本当の君を、私に見せてくれ……私に、私だけに……」

 瞳の奥の深い光を、ハルシャは見つめる。
 こくんと、うなずきを与える。
 信じる、彼を。ジェイ・ゼルを。
 どんな自分でも、彼は受け止めてくれると言った。
 優しく微笑むと、軽く唇を合わせてから、彼はそれまで続けていたことに戻った。
 ハルシャは、全身で彼の行為を受け入れた。

 与えられる刺激に、身を任せる。
 中断されたことで再び神経が呼び戻されたように、一層激しい痺れが身を覆う。
 揺れる腰を慰撫するように、ジェイ・ゼルは柔らかな動きで、亀頭にも触れてくれていた。
 先だけを、そよ風のように優しく。
 舌と手で今も乳首が刺激される。
 自然と、ハルシャの目が閉じてきた。

 感覚の深いところへ誘《いざな》われるような、ざわざわとした感覚が内側にさざめき出した。
 もし自分の手だったら、きっとここで恐怖に負けて止めてしまっただろう。
 だが、ジェイ・ゼルはひたすら刺激を与え続ける。
 彼は――この先にハルシャを待っているものが解っているかのように、静かな確信をもって身に与え続ける。
 ふっと手と口を離し、ジェイ・ゼルは再びハルシャの身を服で覆った。

 敏感になった乳首が、こすれた布の刺激にぴくんと反応する。
 服の上から、立てた爪で淀みなく刺激が与えられ始めた。
 ふわっとした快感が、ハルシャの中にこみ上げてきた。
 身が自然と揺れ出す。
 ジェイ・ゼルの手から逃れたいのか、それとも彼の手に自分を押し付けたいのか、ハルシャは解らなくなってきた。
 思考が飛んでいく。
 快楽が身の内にあふれていくようだ。

 逃げたい心を追い出して、ハルシャはただ身をジェイ・ゼルに任せた。
 かりかりと、先端に与えられる、甘い刺激しか感じられなくなる。
 耳も眼も、塞がったような暗黒の中で、ジェイ・ゼルの指先だけを感じる。
 快感が、紛れもない存在感を持ち始めた。
 ぞわぞわと重く下腹部が痺れだす。
 達しそうだ。
 ハルシャは感覚を拒まず、ひたすら自分を開いて受け入れた。
 
「はあぁっ! はあっ! あぁっ!」

 短い息と共に、喘ぎが抑えようもなく口から漏れ始める。
 その声も、遠い所に響くようだった。
 切なく甘い喘ぎを、ハルシャは上げ続けた。
 肌から汗があふれてくる。
 身が、強張る。
 内側から、何とも言えない幸福感が立ち上がって来た。
 ふんわりと包まれるような、温かな快楽。
 ハルシャは、抗わずに、身を任せた。
 瞬間――

 激しく白い光が、目の前に弾けた。

 下腹部から背骨を伝って脳まで、快楽が激しい雷光のようにかけぬけた。
 ハルシャは身を硬直させ、叫んでいた。
 びくん、びくんと、勝手に身が痙攣する。
 頭の中が、真っ白だった。
 あまりの刺激に、張りつめた糸が切れたように、強張らせた身をハルシャはシーツに投げ出した。
 動けない。
 達したのだ、自分は。
 考えようとするのに、思考がまとまらなかった。
 ふと、まだ、ジェイ・ゼルの手が、緩やかに乳首に刺激を与えていることにハルシャは気付いた。
 達したのに、彼は終わりにしないのだ。
 目を開いて問いかけたいのに、ハルシャは脱力したままぴくりとも動けなかった。
 尖りを静かに、ジェイ・ゼルが爪で刺激をしている。

 どうして、ジェイ・ゼル。

 目を閉じたまま、ハルシャは心の中に、呟く。

 君が与えたかった快楽を、私は受け取ったのではないのか?

 淀みなく動き続ける手に、再びハルシャの中に、重い痺れのような快楽が溜まって来た。

「んあっ、んんっ、はあっ」
 
 信じられないほどの快感が内に走り抜ける。
 声が、止められない。
 ジェイ・ゼルの指が刺激を与えるままに、ハルシャは声を絞っていた。
 何の前触れもなく温かな物がこみ上げてきたと思った瞬間、ハルシャは達していた。
 二度目の絶頂は、一度目からは比べ物にならないほど、深く重い快楽だった。
 叫んでいたと思う。
 だが、自分が何をしているのか、ハルシャには解らなかった。
 ジェイ・ゼルの手が与えるものに、身がひたすらに応え続ける。
 間を置かずに、三度目の絶頂の波がハルシャを襲い、そのまま快楽の海へとさらっていった。
 しゃくりあげる様な息しか出来ない。

 目を閉じたまま、全身を痙攣させて、ハルシャは快楽の深みに沈んでいた。

 身が、動かない。
 目を開けることすら出来なかった。

 ふわふわとした幸福の中に、ハルシャは漂い続けていた。
 世界が、真っ白だった。
 長く漂っていた後、ふと、ジェイ・ゼルの手が髪を撫でているのを感じた。
 だが。
 目があけられない。
 ただ彼の温もりのある手の平と、優しい動きを感じ続ける。

 随分長い間、ハルシャは、脱力して横たわっていた。
 無言でジェイ・ゼルは、髪を手で愛しむように撫で続けている。
 幸福感が身の内に満ちている中、やっとハルシャは薄目を開けた。
 ジェイ・ゼルが、じっと自分を見つめていた。
 視界がやけに白く、その中に彼の静かな顔が煙ったように見える。

「……ジェイ・ゼル」
 かすれた声で、ようやくハルシャは言葉を発した。
 彼は優しく微笑んだ。
「よく頑張ったね、ハルシャ」
 慈しみに満ちた言葉が、彼の口からあふれる。
「射精をせずに、君は達したんだよ」

 潤んだような灰色の眼が、ハルシャを見つめる。
 射精をせずに、達した。
 そう言えば――射精した後に必ず伴う、妙に冷めた感覚が一切なかった。
 精を放つとともに急速に冷静になるいつもと違い、達した後も幸福感が身の内に波のように押し寄せて来る。
 これを、ジェイ・ゼルは自分に与えたかったのだ。

「このいきかたなら、何度でも快楽を得ることが出来る」
 髪がさらっと撫でられる。
 汗ばんだ体に、ジェイ・ゼルが触れる。
「よく私を信じて、心を任せてくれたね」
 優しい瞳をハルシャは見つめ続ける。
「身体が動かせないだろう。しばらく休むといい。少し眠ってもいいよ、ハルシャ」
 顔を寄せて、額に唇が触れる。
「目が覚めたら、食事にしよう」
 
 これで、今日の行為は終わりだと、ジェイ・ゼルが言っている。
 ハルシャは、弛緩する体を叱責しながら、傍らのジェイ・ゼルに触れた。
「どうした、ハルシャ。何か欲しいのか?」
 ハルシャは首を振った。
「ジェイ・ゼルは」
 声が自分のものでないようだ。
 かすかに、ジェイ・ゼルが首を傾げた。
 問いかける眼差しに向けて、ハルシャは言葉を絞り出す。
「ジェイ・ゼルは、達していない――」

 沈黙してから、ジェイ・ゼルが静かに微笑んだ。
「私のことを、気にしてくれているのか、ハルシャ」
 ちゅっと、身を寄せて、彼は額に再び唇を触れさせた。
「本当に、君は律儀だね。
 契約なら気にしなくていい。今日は君が達するところを見せてもらっただけで、十分だ」
 髪を撫でてから、彼は身を動かした。
「汗を拭いてあげよう――そのままでは身が冷える」

 ベッドを降りようとしたジェイ・ゼルの手首を、ハルシャは捕えた。
 彼は、動きを止めた。
 全身に力が入らない。
 掴む力は、子どものように、頼りなかった。
 それでも、彼を引き留めようと、ハルシャは懸命に力を込める。

「どうした、ハルシャ」
 彼が尋ねている。
 手首をハルシャに握らせたままベッドの端に腰を下ろす。
 身をひねって、彼はハルシャを見つめていた。
 内側の言葉を、ハルシャは必死にかき集める。

 今まで、感じたことのない、快楽だった――
 でも。
 だからこそ。
 ハルシャは、違いに気付いてしまった。
 凄まじい快楽だった。
 けれど――
 自分は、独りだった。
 
 ハルシャだけが、感じた快楽。
 ジェイ・ゼルがただ、与えてくれた、揺るぎない情愛の行為。
 受け取った後、ハルシャは幸福感にありながらも独りであることに気付いた。

 一緒に達そう――ハルシャ。

 夜明けの光の中で、耳に呟かれた言葉が蘇る。
 
 まだ、霧がかかったような視界の中で、ハルシャは懸命にジェイ・ゼルを見つめる。
 彼と同時に精を吐いたとき、身の内が温かなもので満たされた。
 身を合わせ、抱きしめられた時、孤独が癒えたように思えた。
 喪失の傷が、今も内側でさざめく。
 両親を失ったことでこんなにも自分は傷ついていた。
 見ないようにして来た悲しみが、不意に蘇ってくる。
 嵐のような快楽にさらされて、心が剥き出しになりひどく鋭敏になっていた。
 押し込めた思いが、とめどもなくあふれてくる。

 私を、独りに、しないで。
 置いて行かないで。
 側にいて、ジェイ・ゼル。

 ハルシャは、ジェイ・ゼルの手首をつかむ力を強める。
「ジェイ・ゼルを中に感じたい」
 ハルシャの言葉に、ジェイ・ゼルの目がかすかに見開かれた。
「一緒に、達したい」

 子どものように、泣いてすがりたい思いを懸命に飲み込む。
 思いを込めて、ハルシャは呟いた。
「挿れてほしい、ジェイ・ゼル――お願いだ」

 うわ言のようなひどく弱々しいハルシャの呟きを、ただ黙してジェイ・ゼルは聞いていた。












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