まどろみの中で、背中がとても温かいのを、ハルシャは感じていた。
背が温もりで守られていることに、不思議な安堵が身の内に広がる。
瞼を開いた先に、夜明けを迎える、ラグレンの街のぼんやりとした姿があった。
夜明けだ。
ハルシャは壮大な曙光を見つめながら、まだ目覚めきれない頭の片隅で、考えていた。
全身に、甘く痺れたような感覚がある。
けだるく、けれど、苦痛ではない、甘やかな残滓のように漂う、疲労。
ひどく身の内が充足している。
ふと、自分が誰かの手を握っていることに気付いた。指を絡め、離れがたいように、温もりを求めている。
一晩中、こうしていたのだろうか。
背中の温もりが動き、ハルシャの頬に柔らかく唇が触れた。
「目が覚めたか、ハルシャ」
重く、熟れたような言葉が、耳元で響く。
ハルシャは顔を巡らせた。
そこには、微笑みを浮かべる、ジェイ・ゼルの姿があった。
彼はハルシャの背中に身を寄せて、眠っていたようだ。腕で体を支えるようにして、振り向くハルシャをのぞき込む。
反対の腕はハルシャの身に回されていて、その指を、自分は握っていたらしい。
はっと、気付いて彼の手を離す。
自由になった手が、ハルシャのウエストに乗せられる。するっと、そこを撫でる。肌触りを確かめる様な手つきだった。
瞳の色は、灰色になっている。
ハルシャがじっと見つめていることに気付いたのだろう、彼は、笑みを深めると、唇を、優しく覆った。
彼の唇を、ハルシャは半ば寝ぼけた状態で受けた。
数度、探るように動いてから、ジェイ・ゼルの口が離れた。
「体調はどうだ――辛くないか」
その口調に、ハルシャは突然昨夜のことを思い出して、ぼっと、頬が燃えた。
くすくすと、小さくジェイ・ゼルが笑う。
「どうした、ハルシャ。顔が赤いぞ」
解っているくせに、わざとジェイ・ゼルはそんな言い方をする。
彼の甘美な責めに、ハルシャは幾度も絶頂へと連れて行かれた。彼に応えて、あられもないことを、口にしていたような気がする。
「大丈夫だ。身は辛くない」
ハルシャは尖った口調で、言う。
ジェイ・ゼルの笑みが深くなった。
「なら、朝から私を受け入れることが出来るかな?」
濡れたような言葉が、ジェイ・ゼルの口から漏れる。
朝から?
ジェイ・ゼルを?
今まで、彼と夜明けを迎えたことのなかったハルシャは、いきなり戸惑った。
ハルシャの動揺をよそに、言葉が途切れたしじまの後、覆いかぶさるように、ジェイ・ゼルがハルシャの唇を奪っていた。
横向けに背中を彼に合わせていたハルシャの後孔に、柔らかいジェイ・ゼルが押し当てられた。
昨夜散々彼を飲み込んだ後孔が、するっと、ジェイ・ゼルの形を受け入れる。
うっと、小さく、合わせた唇の中に、ハルシャは呻きをもらした。
側臥位で、ゆるゆると、ジェイ・ゼルが入ってくる。
彼の昂ぶりが、やんわりと、ハルシャの中を刺激する。
唇を合わせる内に、段々と、中のジェイ・ゼルが太くなってきた。
変化が、如実に解るほど、ハルシャの中が敏感になっている。
後ろからだと、いつもとは別の場所が刺激され、ハルシャは、小さく呻きを漏らし続けた。
ジェイ・ゼルが唇を離し、ハルシャの後ろに身を横たえると、抽挿に意識を向けだした。
決して激しくはない動きで、ジェイ・ゼルが抜き差しを繰り返す。
後ろから抱きすくめ、ハルシャの敏感な胸の尖りに、ジェイ・ゼルが指先を這わす。
ハルシャは叫んで、身を反らした。その形に添うように、ジェイ・ゼルが強く、自分自身を打ち込んでくる。
シーツの海の中におぼれるように、ハルシャは身をのたうたせた。
その身を、ジェイ・ゼルの強い腕が抱きしめて、自分に引き寄せる。
「君のここが、私を受け入れてくれている」
柔らかい言葉が、耳元に、降り注ぐ。
「寝起きの君のここは、まどろむように緩んでいて、温かくてとても心地が良いよ――」
甘い囁きが脳を痺れさせる。
「まるで、天国のようだ、ハルシャ」
まろやかな動きで、乳首に指先がくるくると這う。
ハルシャは、与え続けられる刺激に唇を噛みながら、横たわったまま、視線を彼方へ投げかけた。
美しい、ラグレンの夜明けが見える。
漆黒の空に、恒星ラーガンナの強い筋のような光が、幾筋か走っている。
きれいだった。
あと一時間ほどで、世界が夜明けのピンクに染まる。
観光案内書の表紙にいつも掲載される、美しいラグレンの暁の空。
曙光を目に映すハルシャの下腹部に、ジェイ・ゼルの手が触れた。
びくっと、身が震える。
胸の尖りから、ジェイ・ゼルが手を動かして、ハルシャの亀頭を責め始めた。
ハルシャの先から出る透明な汁を、塗り込めるようにしながら、柔らかく先を刺激する。
「あっ、ん」
声が、漏れる。
昨夜の内に、幾度も声を上げたハルシャは、内にこみ上げる衝動に素直に従うようになっていた。
ジェイ・ゼルの唇が、ハルシャの首や、肩に触れる。
「君の中が、びくびくと震えているよ。ここで達することを、覚えたんだね、ハルシャ」
優しい言葉が、首筋に触れながら、呟かれる。
「本当に、物覚えが良い、君は賢い子だ、ハルシャ」
ちゅ、ちゅと、わざと音を立てながら、ジェイ・ゼルが唇を肩に落とす。
「いい子だ、ハルシャ」
ハルシャは、唇を噛み締めた。
昨夜覚え込まされたように、ハルシャの中は甘くジェイ・ゼルを受け入れ、素直に反応を返している。彼が抜こうとするたびに、キュッと締まって、彼を離すまいと追いすがる。
あさましく反応する自分に赤面しながらも、ハルシャは衒《てら》いを捨てて、ジェイ・ゼルの手に自分を委ねた。
昨夜あれほど、達したにも拘わらず、新しい頂点が、ハルシャの身に迫って来た。びくびくと、中に収めるジェイ・ゼルも、痙攣するように、脈動している。
「君が上手におねだりをするから――」
ジェイ・ゼルの言葉が、耳朶を打つ。
「私のものが、反応しているよ。君の中で解き放って欲しいと、懇願している」
ジェイ・ゼルがハルシャの亀頭を捌く手が、激しくなった。
駆り立てる様な痺れが、内側に広がる。
ハルシャは思わず、制止するように、動く彼の手首をつかんだ。
ふっと、小さなジェイ・ゼルの笑いが、首筋にかかる。
彼は、つかんだハルシャの手を返して持つと、そのまま自分の手に重ねた。そして、手の平をハルシャ自身の昂ぶりに触れさせると、重ねたまま、亀頭を刺激し始めた。
ハルシャは、身を捩った。
ジェイ・ゼルが、ハルシャの手を使って、昂ぶりの先端を責めさせる。
自分の手で、亀頭を撫でる感覚があまりに淫靡で、感覚が鋭敏になってきた。
「感じているんだね、ハルシャ。中がひくひくとしているよ」
耳元で甘く言葉が、垂らされる。
「自分の手で、達するのが好きか? ハルシャ」
言葉に、ハルシャは、ふるふると唇を噛み締めて首を横に振った。
くすっと、再びジェイ・ゼルが笑う。
「ハルシャよりも、ハルシャの身体の方が素直だね。君のここは、自分の手で達するのが、とても好きだと言っているよ。君がいじり出した途端に、潤みを帯びて柔らかくなった」
違うというように、ハルシャは首を動かす。
ふっと笑うと、ジェイ・ゼルはハルシャと重ねた手に力を入れて、ハルシャの全体を柔らかい力でこすり始めた。
それまで、ジェイ・ゼルが与えてこなかった、竿への刺激だった。
彼の手の動きは、軽やかで淀みない。
びくんと、ハルシャは身を反らした。
「こうされるのが、いいのかい? ハルシャ。もう達しそうだね」
耳に柔らかい息が触れる。それにすら、ハルシャは身を反応させた。
「ああ、後ろが甘くとろけてきたよ、ハルシャ――柔らかく私を受け入れてくれている」
力が強くなる。
「一緒に達そう――ハルシャ」
緩やかだった腰の動きが、不意に激しくなる。
前と後ろと――同時に激しく刺激を受けて、まどろんでいた身体の神経が、全て泡立ったように、鋭敏になる。
「あっ、あぁっ、ん、ああぁっ」
嵐に翻弄されるように、強すぎる刺激に肌を総毛立たせながら、ハルシャは快楽の波に飲まれた。
身を強張らせて、昂ぶりに身を任せる。
最初はあれほど恐怖した感覚を、すでにハルシャの身体は受け入れ、享受し始めている。
恐くないよ、ハルシャ。大丈夫だ
ジェイ・ゼルが呟き続けてくれたお陰で、身は絶頂を受け入れることが出来た。
彼はずっと、手を繋いでいてくれた。
まるで迷子の手を取るように、かつてない快楽に翻弄されるハルシャの指に、自分の指を絡めてつなぎとめてくれていた。
首筋に、ジェイ・ゼルの唇が触れた。
びくっと、身が震える。
「ハルシャ。一緒にいこう」
ぐっと、ジェイ・ゼルが身を押し込んだ途端、敏感な場所が強くこすられ、ハルシャは、火花が散るような感覚とともに頂点に達していた。
ジェイ・ゼルと自分の手が重なる中に、精を吐く。
身を反らし叫ぶハルシャを、後ろから、ジェイ・ゼルが抱きしめてくれていた。
ぐっと、身を入れるとともに、彼のほとばしりも、ハルシャの中に注がれている。
荒い息だけが、夜明けのラグレンを窓の向こうに湛える部屋に、聞こえる。
汗が、全身に浮いていた。
抱きしめるジェイ・ゼルの身も、濡れたように汗がにじんでいる。
次第に呼吸が穏やかになり、ジェイ・ゼルがハルシャの顔に触れる。
見上げた彼の瞳は――緑色だった。
やはり、昨夜は、見間違えではなかったのだと、ハルシャは、彼の瞳を見つめながら、思う。
彼の眼は――緑になるのだ。
愛し合った行為の後は。
今まで、緑になったところを見たことがなかった。
夜明けの光の中で、ハルシャは、惑星ガイアの森のような、深い緑のジェイ・ゼルの瞳を見上げる。
もしかしたら――反応を返さないハルシャを抱いていた時には、彼は達していても、性的な快楽を得ていなかったのかもしれない。
ハルシャが心を開いて、彼を受け入れた今――、やっとジェイ・ゼルも快楽を得たのだろうか。
今、自分が感じている痺れるような悦楽が、彼の身の内にもひろがっているのだろうか。
思いながらも彼の驚愕を思い出し、目にした事実にハルシャは口をつぐんだ。
灰色の瞳の時のジェイ・ゼルは、いつも冷徹に自分を見つめているような気がする。けれど、緑の瞳の彼は、柔らかな印象を受ける。
今も、愛しげに自分を見つめている。
人類の故郷である、惑星ガイアを包む植物の命の色――優しい緑の色。
緑の瞳の中に、赤い髪を乱ししどけなく横たわるハルシャの姿が映っていた。
まだハルシャの中に収めたままで、ジェイ・ゼルがハルシャの口を覆う。
触れ合った場所が、甘く痺れるようだった。
身をねじり、ハルシャは、ジェイ・ゼルの頬に触れる。
目を閉じて彼を味わう。
彼はこの行為のことを――愛し合うと、呼んだ。