ほしのくさり

第33話  太古から受け継ぐもの





 
「挿れるよ、ハルシャ」

 いつものように言葉をこぼしてから、彼は自分自身の昂ぶりを右に持つと、ハルシャの後孔を左の指先で優しく探る。
 ほぐされてとろける場所に、ジェイ・ゼルの熱い先端が押し付けられた。
 灰色の瞳が、ハルシャを映す。
 静かな眼差しを、一心に見つめる。
 笑みを消すと、彼は、ハルシャと視線を絡めたまま、ゆっくりと自身を中にと、進めた。
 圧をかけられた丸みのある先端が、ハルシャの身を割るようにして、静かに中に入ってくる。
 くっと、ハルシャは息を飲んだ。
 熱い。
 全身が敏感に反応する。
 中の粘膜を刺激しながら、彼が入ってくる感覚に、ぞわっと背筋に走るものがある。
 ぬめりのお陰で、滑らかに彼が入り込む。
 いつものことだ。
 なのに。
 どうして、こんなに、体中が甘く痺れるのだろう。
 
 身体が、ジェイ・ゼルの形を覚えていた。
 ギランジュを頑なに拒んでいた身が、開いて彼を受け入れる。
 ジェイ・ゼルだ。
 彼だ。
 彼の形だ。
 馴染みのある動きと入り込む力に、安堵に近いものがハルシャの中に湧き上がる。強引な侵入に痛めつけられていた後孔が、しっとりと、ジェイ・ゼルを飲み込んだ。
 
 ふっと、ジェイ・ゼルが、息を吐く。
 彼は先端をハルシャの中に入れてから、ぴたりと動きを止めた。
 いつもなら、奥まで止まることなく、進む。
 違和感に、ハルシャは彼へ視線で、問いかける。
 何かあったのか、ジェイ・ゼル?
 ジェイ・ゼルは、答えの代わりに優しく微笑んだ。
 ハルシャの前側に圧をかけるように、彼は内側に入るものの角度を変える。
 そして、再び、静かに動き出した。

 瞬間。
 ハルシャは、叫んでいた。

 敏感な場所に、彼の亀頭が触れている。
 先ほど、彼が指先で確認していた場所だ。ハルシャの反応を見ながら、ゆっくりと彼は腰を引き、再びその上を、擦る。

「ん、ぁあーっ!」
 身を反らして、ハルシャは声を放っていた。
 ゆるゆると腰が引かれ、再び中に進める。
 そのたびに、ふくらみのある場所が押される。彼の動きに翻弄されるように、ハルシャは声を上げ続けた。
 甘美な責めが、時間をかけて、ゆっくりと行われる。
 ハルシャは、耐えきれず、彼の名を叫んだ。
「ジェイ・ゼル!」

 ぴたりと動きを止めて、ジェイ・ゼルがハルシャの方へ身を倒す。
「どうした、ハルシャ」
 薄く目に涙を浮かべて、荒い息を吐きながら、ハルシャはジェイ・ゼルを見上げる。
「――どうにか、なりそうだ」
 切羽詰まったハルシャの言葉に、優しい笑みが、ジェイ・ゼルの顔に浮かんだ。
「大丈夫だ、ハルシャ。何も恐くない。私を信じて、感覚に身を任せるんだ」
 ハルシャは、声の震えが止められなかった。
「だが、ジェイ・ゼル……こんなのは、初めてだ……」
 身を乗り出し、覆うようにして、ジェイ・ゼルがハルシャを見つめる。
 頬に手を触れて、ちゅっと、唇が額に落とされた。
「感じているんだね、ハルシャ」

 彼の切ないほどの笑みを見て、ハルシャの中が、きゅんと甘く痺れた。
 ジェイ・ゼルは、この感覚を、与えたかったのだ。
 五年間、彼がハルシャに注ぎたかったものを、やっと自分が受け取ったことに、ジェイ・ゼルが気づいてくれた。
 感じている。
 そうだ。
 彼を感じたかった。
 望んで、自分はジェイ・ゼルに求めたのだ。
 ハルシャは、素直に、ジェイ・ゼルにうなずきで応える。
 灰色の眼が、細められた。
 優しく、唇が覆われる。
「大丈夫だ、ハルシャ。何も怖くない――信じて、身を任せてくれ」
 吐息のように、ジェイ・ゼルが離した唇から呟いた。

 こくんと、再びハルシャはうなずいた。
 ハルシャを見つめてから、彼は不意に顔を歪めると、身を折り、ハルシャの唇を再び覆った。
 甘い口づけだった。
 ハルシャは、覆いかぶさるジェイ・ゼルの背中に手を回して、抱きしめた。
 
 こわくないよ、ハルシャ。私が側に居るから。

 合わせた唇から、彼が言葉にならない呟きを与える。
 自分の感覚に怯えないで。大丈夫だ、ハルシャ。
 私を信じてくれ。
 ハルシャは、言葉に応えるように、身から緊張を解いた。
 ちゅっと、最後に音をさせて、ジェイ・ゼルがハルシャから口を離した。
 身を起こして、彼はハルシャの足の間に、身を戻す。
 上に動いたために、後孔から外れていた彼自身を、もう一度ゆるやかな動きで、ハルシャの中に収める。
 少しずつ身を沈め、先ほどの場所にたどり着いた。
 角度を付けて、彼がハルシャの中を擦りあげる。

「くっ」

 息を漏らして、ハルシャは目を閉じ、身を捩った。
 ジェイ・ゼルの熱を帯びた亀頭が、ゆっくり、ゆっくり、圧を加えながら、何度もぷくりと膨れた場所を、刺激する。
 ハルシャは脇に置いた手で、シーツを握りしめて、彼の甘美な責めに耐えた。
 ジェイ・ゼルが、緩やかな動きで、さらに深い場所へと、腰を沈めた。
 びくっと、ハルシャの身が跳ねる。
 先ほどとは違う場所に、圧が与えられる。じんと、脳が痺れるような刺激が、ジェイ・ゼルが触れた場所から、走っていく。
 彼の先の形が解る。
 そこが、無防備な場所に触れる。
「……んっ……ああっ」
 自分の口から、信じられないほど、淫靡な声が漏れる。
 かあっと、ハルシャは顔が赤くなるのを、止められなかった。今夜だけで、どれだけ自分は頬を、赤く染めているのだろう。
「そうだ、声を出すんだ、ハルシャ」
 ゆっくりと、腰を進めながら、ジェイ・ゼルが呟く。
「君の心を縛る鎖から――」
 ぐっと、押されて、ハルシャは口から呻きを漏らす。
「自分自身を、解き放つんだ――ハルシャ」

 縛る、鎖。
 という表現に、ハルシャは薄目を開けて、ジェイ・ゼルを見た。
 彼は、目を細めて、頬を赤らめるハルシャをみつめていた。
 切なげに、愛しげに。
 ハルシャの見ている前で、彼は自分の太ももを、腕に抱えあげた。
 より深い角度で受け入れる形になる。
 眼差しをハルシャにむけたまま、静かな動きで彼は腰を進める。
 奥が刺激され、ハルシャは声を再び放つ。

 自分を縛る――鎖。
 ジェイ・ゼルの行為に対して、自分が嫌悪を抱いていることを、指しているのだろうか。
 細めた目の下で彼を見つめながら、ハルシャは考えを巡らせていた。
 唇が半開きになり、甘い息が、もれる。
「快楽を得ることを、恐れるな」
 決して、激しくはない動きを続けながら、彼が静かに呟く。
「幼い頃、かけられた枷から、もう自由になるんだ――ハルシャ」

 幼い頃、かけられた、枷――

 ここには、触ってはいけないのよ、ハルシャ。
 大人になってから、お父さまがお話をしてくれるまで、興味を持ってはいけません。それがヴィンドース家の伝統なの。いいわね、ハルシャ。

 不意に母の言葉が、耳に蘇る。
 ハルシャは、素直に母の言い付けを守り、禁じられた行為を行わなかった。
 快楽を求める風潮に一線を引くためか、惑星トルディアの上流階級では、性に対する規制が厳しかった。名家の誉れ高いヴィンドース家も、例外ではなかったようだ。
 ハルシャも幼い頃から、一切性に関する知識を与えられずに育ってきた。
 ある意味、行き過ぎた教育方針だったのかもしれない。
 けれど。
 当時のハルシャは、両親の言い付けを守ることだけが、正しいと信じて生きてきた。だから――余計に、ジェイ・ゼルに与えられる行為が、苦痛で仕方がなかった。
 これは、両親の考えに背くことだ。
 こんな汚れて淫らな自分を見たら、きっと母親は嘆くに違いない。
 ジェイ・ゼルに抱かれるたびに、そう思い、自分を責めた。
 
 それを、鎖だと、ジェイ・ゼルはいう。
 幼い時に自分にかけられた、枷だと。

「人は――快楽を得るように作られている」
 ジェイ・ゼルが、ハルシャの中に身を沈めながら呟く。
「行為によって快楽を得るのは、自然で正しいことだ。人はそうやって、生きてきた――最初に、惑星ガイアに生まれた人類もそうだったんだろう」
 ジェイ・ゼルの目が、ハルシャを見つめる。
「暗い洞窟の中で、最初の人類もこうやって、まぐわった」

 柔らかい闇が覆う中で、静かなジェイ・ゼルの言葉が響く。
 身を彼によって揺すられながら、ハルシャは、穏やかな言葉に耳を傾ける。
「愛し合う時、互いに快楽を得るように、人は作られている。
 時間の中で、失われることなく、遺伝子が私たちに伝えてきたのだ――祖先が得た尊い気質を」
 深くハルシャを貫いてから、彼は身を倒し、ハルシャを上からのぞき込んだ。
「今も私たちは、受け継いでいる。銀河に散らばった今でもなお、原始と同じ行為を、続けるために」
 汗の浮いたハルシャの額を撫でて、ジェイ・ゼルが微笑んだ。
「快楽を得るのは、人として、正しく自然なことなんだよ、ハルシャ。だから、恐れないでくれ。自分の中の感覚に、もっと素直に、身を任せてくれないか」
 灰色の目の中に、横たわるハルシャが映っている。
 彼の瞳の中の自分は、ひどく幼い顔をしていた。
 ジェイ・ゼルの手が、髪を撫でる。
「自分を解き放ってくれ、ハルシャ。本当の君に、触れさせてくれ――頼む」
 呟いてから、彼は優しく唇を覆った。

 それは。
 聖堂に響く、気高い祈りの言葉のように、聞こえた。

 彼の祈りによって、ハルシャの心を縛る、禁欲を強いる鎖の輪が、一つ、弾けた。幼い頃かけられた、呪いのような――性をうとむように仕向けた言葉が、ふわりと消える。

 彼は、気が付いていたのだ。
 ハルシャが、性の快楽に対して、罪の意識を得るように、なっていたことを。
 感じてはならないと、自分自身を二重に縛り付けていたことを。
 両親の教えに背くことと、恥辱に塗れた行為に対する反発と。
 二つの鎖が、重く心を縛っていたことを。
 ジェイ・ゼルは、見抜いていたのだ――

 ハルシャの中に収めたままで、唇を覆い、ジェイ・ゼルが胸の頂に指先を這わす。
 ん、ああっ、と、ハルシャは、彼の口の中に、小さく呻きを漏らした。
 あやすように、彼は唇を動かす。
 腰が、静かに動き出した。
 複数を同時に責められて、ハルシャは、こらえきれずに声を放つ。
 素肌が触れ合う。ジェイ・ゼルがハルシャの上で、動く。
 彼の寄せる身に、局部が擦り上げられる。
 悲鳴のように、声が上がる。
 口を離してジェイ・ゼルは身を起こすと、左腕で身を支えたまま、腰を強くハルシャに打ち込みだした。
 右手は今も、胸の尖りを刺激する。
 打ち付けられるたびに、ハルシャはあられもなく、声を絞る。
「そうだ、ハルシャ。もっと聞かせてくれ、君の声を。快楽に震える声を」
 ジェイ・ゼルが、呟く。
 深い奥が、意図をもって何度も刺激を与えられる。
 ざわざわと、身体の芯が震える様な快楽が、駆けあがってくる。
「ジェイ・ゼル!」
 救いを求めるように叫んだハルシャの指に、ジェイ・ゼルが指を絡めて、手を握りしめてくれた。
 まるで嵐の海に下ろされた、一本の錨のように。
 絡んだ指が、ハルシャを、この世界に繋ぎとめてくれる。
「大丈夫だ、ハルシャ」
 手の平の温もりを与えながら、ジェイ・ゼルが呟く。
「大丈夫だ」
 きゅっと、中が締まる。
 小さく、ジェイ・ゼルが、うめきを漏らした。
「良く締め付けてくれる。君は本当に、可愛いよ、ハルシャ」
 身が、反応する。
 うっと、ジェイ・ゼルが再び声を上げる。
「素直な、いい子だ――ハルシャ」

 ハルシャは、視線を向けて、ジェイ・ゼルを見つめた。
 灰色の瞳が、露を帯びたように、濡れている。
 
「ハルシャ」
 
 重く、しっとりとした声で、彼が自分の名を呼ぶ。
 身が、ぶるっと震えるように、反応する。
 ギランジュが、卑しむように口にした自分の名を――
 ジェイ・ゼルは、まるで、宝物のように、大切に発音をした。

 嵐のように、激しいものが、ハルシャの中に、湧き起って来た。
 神経がすべてむき出しになったように、体中がざわめく。
 こらえ切れずに、ぎゅっと、絡むジェイ・ゼルの手を、ハルシャは強く握りしめた。
 変化を、ジェイ・ゼルは感じ取ってくれたようだ。
 ハルシャの局部から、透明な液がたらたらと流れ出してくる。
 胸の尖りから、ジェイ・ゼルが手を動かし、亀頭にそっと触れた。

 頭が真っ白になるほどの刺激が、身を駆け抜けた。

「――ああっ――ん、あっ!」

 言葉にならない叫びをあげる。
 亀頭を、手の平で柔らかく刺激され、奥の敏感な場所を、ジェイ・ゼルに穿たれている。
 二ヶ所からの強すぎる刺激が、ハルシャの中で爆発するように弾けた。
 手を強く握りしめる。
 歯を食い縛って、内側に盛り上がる衝動に耐える。
 足が強張る。
 ジェイ・ゼルの動きが止まらない。
 彼の腰の動きが大きく、強くなる。
 足の裏から、ぞわぞわとしたものが、駆けあがって来た。
 身を覆いつくし、ハルシャを乱暴に、頂点へと駆り立てていく。
 指が砕けるほど、強く、ジェイ・ゼルの手を握り締める。
 数度激しく、ジェイ・ゼルの硬い昂ぶりが、ハルシャの中に、押し込まれた。
 瞬間――光が弾けた。

 絶頂に向けて一気に駆け上がっていくハルシャの身体が、ジェイ・ゼルの強い腕で、抱き上げられた。
 収められた彼の昂ぶりが、身の中で動く。
 その刺激すら、快楽へと、ハルシャを駆り立てた。
 ジェイ・ゼルの膝の上に座り、強く抱きしめられたまま、ハルシャは、声を放って、絶頂を迎えた。
 
 どくっ、どくっと、中から、白い液体があふれ、抱きしめてくれているジェイ・ゼルの腹部へと、吐き出される。
 凄まじい快楽が、局部から脳へと突き上げるように、走る。
 膝に乗せられた瞬間、ジェイ・ゼルも精を放っていた。
 熱いものが、奥にほとばしっている。
 彼も低く、声をもらしていた。
 汗ばんだジェイ・ゼルの背中を、ギュッとハルシャは抱きしめ、彼の肩に頭を預けて、びくっ、びくっと、余韻のように身が震える衝動に、耐える。
 
 何も、考えられない。

 支えてくれるジェイ・ゼルの腕に身を任せ、全身を脱力させて、ハルシャは荒い息を吐いていた。
 心臓が、バクバクと音を立てている。
 その音と、ジェイ・ゼルの呼吸しか、聞こえない。
 固く抱きしめ合ったまま、二人は荒い息をもらすだけで、無言だった。

 しばらくしてから、ジェイ・ゼルの手が、ハルシャの汗がにじむ髪を撫でる。
「いい子だ、ハルシャ」
 唇が、髪に触れる。
 ハルシャは、身を動かして、ジェイ・ゼルへ顔をむけた。
 あまりにも近い場所に、彼の顔がある。
 瞬間。
 彼の目の色に、ハルシャは驚いた。
 最初は、暗いせいで、錯覚を得たのかと思ったが、そうではなかった。
 ジェイ・ゼルの瞳の色が変わっていた。
 灰色の馴染みのある色ではなかった。

 彼の瞳は――緑色に変じていた。

 ジェイ・ゼルは気付いていないようで、驚くハルシャへ、柔らかな笑みを向ける。
「はじめての感覚に、驚いたのか、ハルシャ」
 ハルシャの頬に触れて、親指を動かしながら、微笑みを深める。
 彼を見つめながら、無意識に、ハルシャは呟いていた。
「ジェイ・ゼル――目の色が、緑だ」

 はっと、彼の顔に驚愕が浮かんだ。
 自分は、何かまずいことを、口にしてしまったようだ。甘やかだった彼の顔が、不意に引き締まった。
 ハルシャは、思わず詫びを呟く。
「すまない、ジェイ・ゼル……」
 触れて欲しくないことを、自分は無遠慮に指摘したのかもしれない。
 後悔をにじませるハルシャの様子に気付き、一度消した笑みを、再び彼は浮かべた。
 小さく首を振る。
 見つめるハルシャへ、苦しげに眉を寄せると、そのまま、強く抱きしめた。
 身の内に、溶け込まそうとでもするように、強く、彼はハルシャを腕に包む。
「ハルシャ」
 耳元で、熟れたような、重いジェイ・ゼルの言葉が響く。
「もう一度、君を抱きたい」

 ハルシャは、目を見開いた。
 いつも、ジェイ・ゼルは一度達したら、そこでハルシャを解放してくれていた。
 精を放つのは、一度だけだと、ハルシャは思い込んでいたのだ。
「二度、出来るのか、ジェイ・ゼル!」
 思わず、驚きにハルシャは声を放っていた。
 小さく、ジェイ・ゼルが笑う。
「君が、射精は一度だけだと思っているようだから、あえて訂正してこなかっただけだ――何度でも、することはできる」
 ジェイ・ゼルの言葉が、耳朶を打つ。
「一晩中でも、君と交わることは、出来るんだよ、ハルシャ」

 知らなかった。
 言葉を証明するように、ハルシャの中にまだ収めたままのジェイ・ゼルの太さが、次第に戻ってきていた。
「君の身が辛くなければ――このまま、もう一度君を抱きたい」
 力が緩み、ジェイ・ゼルがハルシャの顔を見つめる。
 瞳はやはり、緑色だった。
 黒髪に緑の瞳の彼は――不思議に魅惑的だった。
「許してくれるか、ハルシャ」

 今夜は、君が望まないことはしないと言った言葉を、ジェイ・ゼルは守ってくれている。
 ハルシャが拒めば、彼は身から自身を抜き、行為を中止してくれるのだろう。
 けれど。
 内側にある彼の形を、まだ、身が欲していた。
 はしたなくも、淫らに――自分はジェイ・ゼルを求めるように、なってしまったのだ。
 惑星ガイアで最初に生まれた人類も、こうやって、求めたのだろうか。
 相手の魂を、乞うように。
 君を、抱きたい。
 直情的で、甘やかな言葉に、頬が赤らむ。
 熱が出たように、身が火照る。
 それでもジェイ・ゼルから目を逸らさず、真っ直ぐに見つめたまま、彼の心に応えようとハルシャは呟いた。
「抱いてくれ、ジェイ・ゼル」


 ふっと、痛みを覚えたように、一瞬顔を歪めてから、顔を寄せると、ジェイ・ゼルは優しくハルシャの唇を覆った。
 目を閉じて、ハルシャは、彼を受け入れる。
 腕を絡めたまま、ジェイ・ゼルはそっとハルシャの身を横たえた。
 唇を合わせたまま、そのまま、ジェイ・ゼルが動き出す。
 放った精のぬめりを得て、滑らかに動く彼を身の内に感じながら、閉じた瞼の闇に、ハルシャは、アルデバランを見ていた。
 星々の海を渡りたいという切望と同じほどに――ハルシャは今、ジェイ・ゼルを求めていた。
 彼と一つになりたいと、魂が焦げるほどに、願う。

 その夜。
 街の灯りが素肌を浮かび上がらせる中――ハルシャはジェイ・ゼルによって、かつて味わったことのない頂点へと、幾度も誘《いざな》われた。








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