それはまるで、神聖な儀式のようだった。
新しく封を切られたぬめりのある液体を、ジェイ・ゼルが手の平に乗せている。
かつてないほど、真剣な表情だった。
前の部屋に、この液体を置いてきたことに気付いた彼は、どこかに連絡をし、新しいものを、部屋に運ばせた。
ベッドに横たわるハルシャを人目に触れさせないように、彼が部屋の外に出て、受け取る。
その時だけ服をまとい、彼はすぐに入り口で脱ぎ捨てた
待つハルシャの元に、彼は真っ直ぐに戻って来る。
ベッドに上がると、束の間の別離を埋めるように、ハルシャの口を覆った。
優しい、口づけだった。
キスも知らないのか、坊や。
最初に唇を重ねた時、彼はそう言った。
反応もなにもしない、ただ、口を触れ合わせただけの行為だった。
それから――
唇を合わせる角度も、吸う力加減も、舌の絡め方も、口でなす行為全てを――この五年の間に、ハルシャはジェイ・ゼルによって、教え込まれた。
この唇は、彼以外のものを、知らない。
彼が求める形とタイミングで、身が反応する。
ギランジュは、唇だけには、触れなかった。
ふと。
思い出す。
あの時――
どうすればいい、と尋ねたハルシャを、吟味するように見ていたギランジュの眼は、ハルシャの顔に据えられていた。
かすかな、舌なめずりが見えた。
ギランジュが動こうとした時、後ろから、ジェイ・ゼルの声が飛んだのだ。
ハルシャの口淫は素晴らしいぞ、ギランジュ。
その一言で、ギランジュは一気に口淫の興味へと傾き、先ほどまで為そうとしていたことを、忘れてしまったようだった。
もしも。
あの時、ジェイ・ゼルの言葉がなければ、おそらくギランジュはハルシャを引き寄せて、唇を覆っていただろう。
まず、手始めに味見をしよう――そんな表情をしていた。
それよりも魅惑的な行為をちらつかされたために、彼は急速に口づけに対する興味を失った。
もしかしたら、あの時。
ジェイ・ゼルは、ギランジュの行動を、阻止したのかもしれない。
五年前の飛行車の中で、彼が最初に触れた場所――その時は、堅い果実のようだった、ハルシャの唇を。
彼は――
誰にも、さわらせたくなかったのかも、知れない。
五年の間に、熟れたように彼を柔らかく受け入れることを、ハルシャは覚えた。その唇に、ジェイ・ゼルが触れている。
温もりを探って、心の間隙が埋まったのか、彼は身を引くと、静かにハルシャの足元に動いた。
横たわるハルシャの傍らに立てひざをし、ぬめりのある液体を絞り出して、手の平に受けている。
ハルシャは、横たわったまま、彼の姿を見つめていた。
視線に気づいたのかもしれない。
手元の作業から目を上げて、ジェイ・ゼルが、ハルシャへ眼差しを向ける。
ハルシャの視線を受け止めてから、彼は静かに微笑んだ。
再び、視線を手元に戻し、ぬめりを手の平で温めている。
もう一つ。
ハルシャは、ギランジュとジェイ・ゼルの違いに気付いた。
直接ギランジュが液体をハルシャに垂らしたとき、冷たさに、びくっと、身が震えたのだ。
ギランジュの行動は、ひどく事務的だった。
これからの行為に必要だから、ぬめりを与える。ハルシャが彼のものを、円滑に受け入れられるように、滑りを良くする。ただそれだけの、作業。
けれど。
ジェイ・ゼルは、違った。
ハルシャは、手の平に、液体を乗せる、ジェイ・ゼルを見つめる。
ジェイ・ゼルは、冷たいままの液体を、ハルシャの身に与えたことがなかった。
いつもこうして、手の平で温もりを与えてから、ハルシャの身に施してくれる。
彼の手の温度の液体しか受けたことのないハルシャにとって、ギランジュの行動は無慈悲で傲慢に思えた。
敏感な場所を刺激しないように、ジェイ・ゼルは配慮してくれていたのだ。
当たり前だと思っていたことが、彼が示してくれた優しさだったのだと、ギランジュとの違いで、気付かされる。
小さな違いの積み重ねが――ジェイ・ゼルの心を物語っていた。
自分はあまりにも無知で、彼の示す行為の本当の意味に、気付けなかった。
五年前も、今も――
作業と割り切ったこの行為が、どれほど心を傷つけるのかにも、ハルシャは理解していなかった。身体を利用されるという、真の意味を――ギランジュに与えられた屈辱によって、思い知った。
それが、自分でなくてもいい。
究極は、そういうことだった。肉体として快楽を得られれば、誰でもいい。
ギランジュは、昨日街で買った子の方が良かった、と、言った。
ハルシャである必要など、どこにもない。
彼にとって、一番大切なのは、自分が味わう快楽なのだろう。
そのために、相手の肉体を利用し、媚薬を使う。
彼にとっては、それが性交なのだ。
随分、私の形に馴染んできたね。
呟かれたジェイ・ゼルの言葉が、耳に蘇る。
ハルシャの中が、一番心地良い。
彼は五年間――反応を示さないハルシャを、切り捨てなかった。
最初に与えた痛みのためだと、己自身に非を突き付けながら。
彼は――
楽な媚薬の手管に逃げず、ただ、その身をもって、ハルシャに向き合ってくれていた。
自分が作業と割り切って取った行動が、どれだけジェイ・ゼルを傷つけていたのか、否応なしに、身に返ってくる。
横たわり、合わせて伸ばしていたハルシャの膝に、ジェイ・ゼルが優しく触れる。
開いて、と、手で語るように。
ハルシャは、意図を感じ、膝を立てて、足を開く。
その間に、ジェイ・ゼルが動いた。片膝を敷き込み、足の間に座る。
彼は傍らに引き寄せていたクッションを、ハルシャの腰の下に入れた。
身が、軽く浮く。
そっと、後孔の状態を確かめるように、指が軽く触れた。
周りを優しく数度撫でてから、指先が入る。
温もりのある液体が、指で押し込まれるように、内側に塗られていく。
きゅっと身の内が締まった。
慣れた彼の指の形に、反応したようだ。
指でほぐされる行為の後に何が待っているのかを、ハルシャよりも、身体が覚えていた。
あさましくも、期待に弾むように、ジェイ・ゼルの指を後孔が締め付ける。
ハルシャは、羞恥に顔を赤らめて、手の甲で口を隠し、湧き上がる感情に耐えた。
あれほど頑なに、身の反応を封じてきたというのに――いちど崩れた心の壁は、止めようがない勢いで、快楽へと雪崩れ込もうとしている。
彼の愛撫に積み重ねられた熱が、今、ジェイ・ゼルを欲している。
自分の淫らな変化が、恥ずかしくてたまらなかった。
抜き差しされるたびに、追うように、きゅっと身がしまる。
ハルシャは、自分の変化に、思わず足をとじようとしてしまった。
間に座るジェイ・ゼルを挟む形になる。
ジェイ・ゼルは、指を止めると、唇で、ハルシャの左膝に触れた。
ちゅっと、小さな音がする。
右の膝頭にも、彼の唇が音をさせて、触れる。
「私の指を、離すまいとしてくれる」
優しい言葉が、ジェイ・ゼルの口からこぼれる。
「嬉しいよ、ハルシャ」
言葉に、また身の内側が、反応した。
「君の中は、熱くて心地がいい」
ぴくんと、反応する。
「今、とても締め付けているよ、ハルシャ」
とても神聖なことのように、彼は大切に言葉を呟いた。
頬を赤らめ、顔を隠すハルシャに、微笑みを向ける。
「五年経っても、君のここは狭くてきつく、それでも、私を懸命に受け入れてくれる」
言葉の中に含まれる淫靡な響きに、ハルシャは、頬から火が出そうになった。
「とても可愛いよ、君のここは……ハルシャ」
最初に彼を受け入れてから、ハルシャはなかなか体を開くことが出来ず、ジェイ・ゼルを手こずらせた。
受けた痛みが蘇るのか、後孔が固く締めて、彼の侵入を拒んでしまうのだ。
彼を受け入れなくてはならない、それが契約だ、と、解りながら、ハルシャは身の強張りを、解くことが出来なかった。
ジェイ・ゼルは、焦らなかった。
ハルシャの知識が皆無だと知った二度目の交わりから、恐怖を拭い去るように、指で後孔を緩めながら、局所や、乳首を同時に刺激し、これが苦痛だけの行為ではないのだと、ハルシャの身体に覚え込まそうとした。
後孔で彼を受け入れる代わりに、口淫を教えられたのも、この頃からだった。最初は苦しくて息も出来ず、生理的な涙が、流れ落ちた。
見せたくない涙に、ハルシャは戸惑い、うろたえた。
その時だけ、ジェイ・ゼルは口から抜いてくれ、ハルシャの涙を舌で舐め取った。
泣けば、涙が鼻に入って詰まり、余計に苦しくなる。
ジェイ・ゼルが静かにハルシャに言う。
呼吸が出来なくなる可能性がある。泣くな、ハルシャ。
涙が止まったのを確認してから、彼は再び口淫を強いた。
コツを飲み込むまで、苦しさは続いた。
慣れても、精を飲まねばならないことは、いつまでも苦痛だった。
後孔を慣らしていくことを、ジェイ・ゼルは楽しんでいるようだった。
今日は指を三本、飲み込んだよ、ハルシャ。
彼はいちいちハルシャに、挿入部分を触れて確認させた。
そのたびに、頬が深紅に燃えた。
勝手にやってくれ、とハルシャは思っていたが、ジェイ・ゼルは自分にも参加させたかったようだ。
ある時には、鏡の前で、足を大きく開かされ、彼の指を受け入れている姿を、見ることを強いられた。
目を逸らしてはいけないと命じられるままに、ハルシャは、自分の後部に出入りするジェイ・ゼルの細く長い指の動きを見つめ続けた。
自分の身に起こっているとは、思えないことだった。
耳元で、ジェイ・ゼルが呟く。
三本、受け入れているだろう、ハルシャ。もうすぐ私も受け入れられる。
言葉の間も、動きは止まらない。
君の中は、温かくて、とても気持ちいいよ。
あられもない言葉に、ハルシャは、羞恥に身を震わせた。
彼の言葉の通り、それからほどなくして、ジェイ・ゼルはハルシャの中に、彼自身を受け入れさせた。
いつもよりも念入りにほぐし、温もりのあるぬめりをふんだんに与えてから、彼は、ゆっくりと、ハルシャの中に身を沈めた。
最初の時の痛みが嘘であるように、ほぐされ続け、ゆるめられたハルシャの後孔は、すんなりと、ジェイ・ゼルを飲み込んだ。
はじめの侵入だけが圧を感じただけで、あとは、ぬめりの助けを得たためか、するりと入り込んでいく。
それでも、ジェイ・ゼルは、ゆっくり、慎重にハルシャの中に押し入っていった。
十分近くをかけて、彼はやんわりとした圧をかけたまま、ハルシャの中に、自分自身を全て収めた。
奥に彼を感じた時、ジェイ・ゼルが小さく呟く。
君の中に今、私が全て入っているよ、ハルシャ。
言葉を証明するように、ハルシャの手を、接合部分に運び、確認させる。
ハルシャは、ぴくぴくと震える彼の太さと、それを全て飲み込んでいる自分自身の後孔に、困惑と動揺が隠せなかった。
痛みはないか?
ジェイ・ゼルが優しい口調で問いかける。
見上げた彼の額に、汗が浮いていた。ひどく身を緊張させて、彼はハルシャを見ていた。
ハルシャは、こくんと、彼にうなずきで答える。
不意に、彼が微笑み、ハルシャはひどく戸惑った。
こんなに優しい笑みを与えてくれたことが、今までなかったからだ。
よく辛抱した。いい子だ、ハルシャ。
身を倒しながら、ジェイ・ゼルが呟き、横たわるハルシャの唇が覆われていた。
優しく口で唇をあえながら、ジェイ・ゼルの腰が、緩やかに動き出した。
射精をするまで、彼の動きは止まらない、と、ハルシャは知っていた。
最初に与えられた激しい動きを覚悟して、きつく目を閉じる。
だが、ジェイ・ゼルは、伸びをゆっくりするように、身を伸び縮みさせるだけで、ハルシャの中に収まっているものを、動かした。
痛みは、なかった。
ただ、異物が身の中で、蠢く感覚だけが、中に広がる。
辛かったら言ってくれ。そこで、止める。
身を動かしながら、ジェイ・ゼルが逃げ道を与えるように、呟く。
我慢はしなくていい。これは、強制される行為ではない。付け加えるように、彼は言った。
口淫はむごいほど強いる癖に、ジェイ・ゼルは後孔だけは、丁寧に取り扱ってくれる。
ハルシャは、大丈夫だと、彼に応える。痛みは、ない、と。
そうか。
ジェイ・ゼルは、呟いてから、ゆっくりと腰を動かす。
唇でハルシャを覆いながら、右の手が、乳首に触れる。
ぴくっと、ハルシャは身を震わせた。
三ヶ所を彼に蹂躙されながら、身に太いものを受け入れ続ける。
自分の現実が、信じられなかった。
しばらくしてから、彼は身を起こし、ハルシャの片足を肩に担ぐと、斜めになった身体に、ゆっくりと、身を打ち付けるようにして、挿入を繰り返す。
辛くは、ないか?
動きを止めずに、彼が尋ねる。
もし、ここで辛いと言ったら、彼は行為を中断してくれるのだろうか。
考えながらも、正直に、辛くはありませんと、ジェイ・ゼルに言葉を返す。
少し、強くしても、大丈夫か?
額に汗を浮かし、微かに震えながら、彼が問いかける。
ハルシャは、うなずきで答えた。
抱えられていた足の間に、ぐっと、ジェイ・ゼルが身を押し込むようにして、入ってくる。さっきよりも、太いような気がする。
最初の時は、痛み以外を感じなかったが、ゆっくりと出し入れされる今、彼の形を中に感じる。
ハルシャは、唇を噛み締めると、中で動く熱く硬いものの存在感に耐えた。
表情を見ていたのか、ジェイ・ゼルがぴたりと動きを止めた。
痛むのか?
ひどく強張った声で、彼がハルシャに訊ねる。
ハルシャは、何も言えずに、首をただ振った。大丈夫だと、意図を伝えたかった。
動いても、大丈夫か、ハルシャ。
逃げる余地をまだ与えてくれるように、彼が問いかける。
ハルシャは、これが契約であるということを思い出し、羞恥から逃げなかった。
大丈夫です。動いてください。
目を閉じて、ハルシャは言った。視界が闇になると、余計に中にある、ジェイ・ゼルの形が感じられる。顔が、燃えるように熱くなった。
無言で再び、ジェイ・ゼルが動き出した。
最初の時とは、比べ物にならないほど、痛みは少なかった。穏やかな彼の動きに、身は傷つけられることもなく、丁寧にほぐしてくれた後孔は、大きなジェイ・ゼルを飲み込んでいる。
次第に、ジェイ・ゼルの動きが激しくなった。
斜めに持ち上げられている下半身の動きに耐えるように、ハルシャは、シーツを掴み、ジェイ・ゼルの圧を身の内に受けた。
ゆさゆさと、身がシーツを擦る。
くっと、小さなジェイ・ゼルの声が聞こえた。
瞬間、熱いものが中にほとばしった。
射精をしたのだ。
ハルシャは、ジェイ・ゼルの手の中で、自分の局部が吐精するさまを、見せつけられた。亀頭を刺激し続けられ、精を吐くと同時に、意識が飛んでしまった。
だから、今、ジェイ・ゼルの先から、白濁した液が自分の中に注がれたのだと、イメージが出来た。
終わったのだ。
ほっと、ハルシャは身の力を抜いた。
射精されたので、今日の行為はこれで終了ですね。
ハルシャは、確認するように、ジェイ・ゼルに言った。
この行為に、すぐに、慣れると思います。次も、大丈夫です。
契約の継続を望んで、ハルシャはジェイ・ゼルを見て、言葉を告げる。
荒い息を吐きながら、ジェイ・ゼルは小さく笑うと、ハルシャの中から自身をずるりと抜いた。
手を延ばして、ハルシャの髪を撫でる。
彼は自分が出した精液を、ハルシャの腸内からきれいにする方法も教えてくれた。入れたままだと腹を壊すことがある、と、小さく呟きながら。
それから五年の間、数限りなくハルシャはジェイ・ゼルに抱かれてきた。
ギランジュが、ハルシャの後孔をきれいだと言ったのは、ジェイ・ゼルがいつもその場所を丁寧に扱ってくれる証拠だった。
肘を落とすようにして、ジェイ・ゼルがハルシャの中で、指を動かす。
前側の腸壁に触れた時、ハルシャの身体が、びくんと揺れた。
注意深く隠していた敏感な場所に、ジェイ・ゼルの指が触れた。
心の鎧を解いていたハルシャの身体は、彼の刺激に見事なまでに反応を示してしまった。
ジェイ・ゼルが、指の動きを止めた。
気付かれてしまった。
さきほどの場所に触れられると、いつも身が震える。
五年間、ここまで、反応をしないように、慎重に押し隠してきたハルシャの秘密を、彼の指の動きに露《あらわ》にしてしまった。
羞恥に、ハルシャの頬が紅く染まる。
そっとジェイ・ゼルの指が後退し、再び前の壁を擦りながら、奥へと進んでくる。
一点に触れた時に、ハルシャは再び身を震わせた。
ジェイ・ゼルの指が、静止する。
彼は何かを確かめるように、ハルシャの表情を見守りながら、そっと腸壁を探る。
そろっと下がり、再び、刺激を与える。
みっともないほど、ハルシャの身体が反応を示した。
確信に満ちた動きで、ジェイ・ゼルの手が、上を静かに叩く。
ハルシャは、声を放った。
「ここだね、ハルシャ」
手が、ふくらみのような場所に触れた途端、ハルシャは再び身を反らした。
熱を帯びたジェイ・ゼルの言葉が、ハルシャの耳朶を打つ。
「君は、ここが良いんだね」
反応を見ながら、ゆっくりと、指が再びその上をなぞる。
びくっと、震える。
「今まで、解らなかったが――ようやく見つけたよ。君が良くなる場所を」
とんとんと、軽い動きで上が刺激される。
ハルシャは歯を食い縛って、身を反らした。
ジェイ・ゼルの指を、ハルシャの中が、ぎゅっと締め付ける。
内側から、快感が湧き上がってきて、ハルシャは歯の間から、声をもらした。
しばらくそこを刺激してから、ジェイ・ゼルは指の数を二本に増やし、ゆっくりと抜き差しをする。
温もりのあるぬめりのお陰で、彼の指の出入りはとても滑らかで、こすられる刺激に、次第にハルシャは、身の内に熱が溜まってくるのを覚える。
指が三本になる。重ねた指を、少し開くようにしながら、ジェイ・ゼルがハルシャの出入り口を、ほぐしていく。
「滑らかになってきたよ、ハルシャ」
優しい声で、ジェイ・ゼルが呟く。
「中が、熱くてとろけるようだ」
賛美を込めた声が、ハルシャの耳に届く。
三本だった指が、一度抜かれ、一本だけが再びハルシャの中に入って来た。
指は真っ直ぐに、先ほどハルシャが反応したところへ、向かう。
上から押され、ハルシャは、びくっと身を震わせた。
「ここだね――」
自分自身に確認するように、小さく呟いてから、彼は指を抜いた。
ジェイ・ゼルは手を離すと、ぬめりのある液体の容器を、再び手に取った。
自分自身の昂ぶりに施してから、温めたものを、痛いほどに高まるハルシャの敏感な先にも、手の平で包むようにして、塗りつける。
ハルシャは、眼を伏せて動くジェイ・ゼルを、見つめていた。
いつも、彼が行為の前にすることだ。
見慣れている作業のはず。
なのに――どうして、こんなに胸が高く鳴るのだろう。
内側に、ドンドンドンと鼓動の音が強く聞こえる。
どうかなってしまいそうだ。
容器を傍らに置き、ジェイ・ゼルがハルシャに向き直った。
見つめるハルシャと、視線が触れ合う。
彼は、優しく微笑んだ。
「挿れるよ、ハルシャ」