※寝取られ要素、継続中です。ご注意下さい。
ハルシャは、天井を見つめていた。
腰の下にクッションを入れられ、広げた足の間に、ギランジュが座を占めている。
先ほどから、水音を立てながら、ぬめりのあるものを奥にねじ込むようにして、ギランジュの指がハルシャの後孔を行き来していた。
「良くほぐしてからにしてくれよ、ギランジュ」
ジェイ・ゼルの声がする。
「痛みを与えないように、気をつけてくれ」
「解っているよ、ジェイ・ゼル」
笑いを含んだ声がする。
「冷徹な実業家だと思っていたが、意外と心配性なんだな、ジェイ・ゼル」
会話を交わしながら、彼らはハルシャの身体を好きに弄んでいる。
ハルシャは、アイボリーの打ち出し模様のある天井を見つめ続ける。
ジェイ・ゼルは、ギランジュの側で行為を見守っていた。
ベッドの端に腰を下ろし、肉太な指がハルシャの中に出入りするのを、監督している。
ジェイ・ゼルの指は、細く長かった。
与える感覚が、全く違う。
そのことに、ハルシャは戸惑い続けていた。
「使い込んでいるにしては、きれいだな」
品評会に並べられたカボチャのように、ハルシャの身体がギランジュによって吟味されている。
なんという屈辱だ。
ハルシャは唇を噛み締めた。
この姿を母が見たら――嘆きのあまり、気を失ってしまうかもしれない。
身を好きにされて、男を受け入れさせられている、ハルシャを見たら。
炎が内側を焼くようだった。
いつかはこれも終わる。
大丈夫だ。
永遠には続かない。
ハルシャは、自分自身を納得させるように、呟き続ける。
いつかは終わる。
永遠には続かない。
ハルシャの内側に入りこむ指の数が増える。
ぐっと、ねじ込まれる感覚に、ハルシャは眉を寄せた。
「随分ほぐれてきた」
自分の手柄の名乗りを上げるように、ギランジュが言う。
「この指でもよく、締め付けてくる。早く中を味わってみたいよ」
言葉を示すように、指をしばらく中で静止させたあと、一気に抜く。
ハルシャは、衝撃に、耐えた。
ジェイ・ゼルは、何も言わなかった。
ハルシャは、天井を見上げる。
大丈夫だ。
永遠には続かない。いつかは、終わる。
良くほぐせと言われているからか、それとも、生来執拗な性質なのか、ギランジュは、指の角度を変えながら、ハルシャの中を蹂躙していく。
ぐっと奥深く入れ、ゆるゆると戻していく。
時折、鋭い感覚を与える場所に、指が触れるが、ハルシャは懸命に耐える。
反応しなくてはならない。
彼の愛撫に応えなくてはならない。
そうでないと、また、ジェイ・ゼルが別の者を、ハルシャに宛《あて》がってくるだろう。
予想しながらも、粗野な言動をするギランジュの手によって、高められるのに、どうしてもハルシャは我慢できなかった。
五年間、巧みなジェイ・ゼルの責めにも、快楽を返さなかったハルシャにとって、ギランジュからの行為を無視するのは、簡単だった。
誇りを捨て、ギランジュの愛撫に身を任せるのが、賢明だとは解っていた。
だが。
彼は、自分を人間ではなく、物のように扱う。彼に従うことは、品位を失することだ。
ギランジュに敗北することなど、絶対に嫌だ。
愚かなのだろう――自分は。
こんなところに来ても、まだ、ヴィンドース家の誇りが手離せない。
乳首に触ってくれと言わなかったハルシャを罰するように、ギランジュは、後孔の場所以外は、一切無視していた。
芯の立っていないハルシャ自身にも、どこにも、彼は手を触れない。
ただ、目的遂行のためだけに、穴をほぐしていく。
ハルシャは、中に無遠慮に押し込まれるギランジュの指の動きに耐えた。
異物感しかなかった。
早く終わってくれ。
ハルシャは天井を見つめながら思う。
よがる声を出せば、反応していると、ジェイ・ゼルは思うだろうか。
いや。
そんな欺瞞など、彼はすぐに見抜く。
ハルシャが感じているのかどうかなど――彼はお見通しだ。
「そろそろ、いいかな」
指で散々かき回した後、すっと抜きながらギランジュが呟く。
「俺のは大きいからな――ハルシャは大丈夫かな」
自慢の滲む言葉を呟きながら、ギランジュが位置を変える。
先ほど口淫で一度達した後も、彼の重さは変わっていないようだった。
喉が圧迫されるほど、彼のは質量があった。
挿れられるのだ、自分は――
まだ、現実のこととして、ハルシャは把握しきれなかった。
どこかで、夢幻《ゆめまぼろし》のことのように感じる。自分の身の内に、ギランジュが押し入ることが、どうしても、信じられない。
だが。
それは現実だった。
上から、ぬめりのあるものがさらに注がれる。
びくっと冷たさに身が震えた。
柔らかな局部と、さきほどまでギランジュの指が出入りしていた場所に垂らされ、塗り込められる。その時の指の動きすら、馴染みのないものだった。
奇妙な静寂の中、荒いギランジュの息遣いがハルシャの耳を打つ。
彼はこの上なく興奮していた。
どんな話が、ジェイ・ゼルと、ギランジュの中で交わされたのだろう。
工場で自分を見かけたギランジュ・ロアが、ジェイ・ゼルにハルシャを貸せといったのだろうか。
それとも、ハルシャに快楽を与える人物を探していたジェイ・ゼルが、彼に白羽の矢を当てたのだろうか。
解らない。
何も――どうして、自分が夕暮れの美しいラグレンの街を見下ろす部屋で、望まぬ行為を強いられているのか。
なぜ、自分は足を男の前に開いているのか――
解らない、何も。
ギランジュが自分自身を捌く、卑猥な音がする。
彼が動き、ハルシャの足の間に、膝立ちになる。右で自分を高めながら、左の指先でハルシャの後孔をするすると撫でる。
ハルシャは、覚悟をしながら目を細めた。
次の瞬間、凄まじい圧が後孔にかかった。
ひゅっと、ハルシャは息を飲んだ。
めりめりと、自分の筋肉を割るようにして熱いものが入ってくる。
痛みに、ハルシャは歯を食い縛る。
五年間、ジェイ・ゼルの体しか知らなかった。
彼が言っていた真の意味を、ハルシャは苦痛の中で悟る。
ギランジュが、ハルシャの身を割りながら入ってくる。
馴染みのない動き。
押し広げられる感覚。
自分の知らない形が、中に押し入ってくる。
ハルシャは、喉をさらして、苦痛に歯を食い縛り、天を仰いだ。
きつく、目を閉じる。
得体のしれないものが、体内に入り込んでくる感覚に、嫌悪が身の内から湧き上がってくる。
作業だと、必死に自分に言い聞かせる。
何かにすがるように、脇に伸ばしていたハルシャの手が、シーツを固く握りしめた。
苦しい。
身を強張らすハルシャの耳に、
「何だこれは――ひどいな」
と、呆れたような、ギランジュの声が耳を打つ。
「本当にこの体を、五年も抱いてきたのか、ジェイ・ゼル」
侮蔑が、歪めたギランジュの口から吐き捨てるように、飛び出す。
ジェイ・ゼルは、五年自分を抱いたと、ギランジュに言ったのだ。
そんな私的なことを、ジェイ・ゼルは喋っていたのだ。
どんな風に二人がハルシャのことを話していたのか、屈辱感に身が震えそうになる。
尊厳が引き裂かれるようだ。
まるで、出来損ないの商品のように、苦痛に耐えるハルシャのことを彼は断じた。
だが、そうだ。
自分は彼の道具だ。道具の使い心地を話すのに、別にためらう者などいないだろう。
ぎゅっと、身が強張る。
「もっと力を抜け、ハルシャ。これでは俺が入れない」
凄まじい圧が、後孔を襲う。
力を入れているためか、ギランジュの先端以上が、ハルシャの中に入らない。
それでも彼は、ハルシャの中に押し入ろうと圧をかけてくる。
痛みと不快感に、さらに身を強張らして、ハルシャは耐えた。
力を抜くことなど、出来なかった。
全身が、ギランジュの侵入を拒んでいる。
ふっと、圧がゆるんだ。
ハルシャの後ろの入り口を広げていたものが、ずるっと抜かれた。
「受け入れる態勢が全く見られないじゃないか。昨日、街で買った子のほうがましだったぞ」
侮辱の言葉が、遠くなる。
ハルシャは目を開いた。
挿入を中止し、ギランジュがハルシャから身を引いていた。
自分の硬質な態度が、彼を怒らせたようだ。咎める様な眼差しを、ギランジュはジェイ・ゼルに向けている。
「君が緊張させるからだよ、ギランジュ」
柔らかいジェイ・ゼルの言葉が響いた。
「もう少しほぐしてやらないと、ハルシャは受け入れられない」
くすっと、ギランジュが笑った。
「やけに、甘やかしているんだな」
笑いを深めて彼が続ける。
「だから、つけあがるんだ。ジェイ・ゼル。こういうのはな、最初の躾が大切なんだ。犬と同じでな――何が良くて、何が悪いのか、きちんと体に覚え込ませる必要がある」
ジェイ・ゼルが、微笑む。
「ハルシャは、犬じゃない」
ふんと、ギランジュが鼻で笑う。
「だが、手に合わないんだろう。飼い主に従わない、犬と同じだ。躾が必要だよ、ジェイ・ゼル」
言葉に、ジェイ・ゼルは表情を変えなかった。
ふと、ギランジュがハルシャへ視線を向けた。
にやりと、彼が深く笑う。
「こんなこともあろうかと思ってね、ジェイ・ゼル。いいものを持ってきたんだ。ぜひ、使わせてくれ」
「なんだ?」
ジェイ・ゼルの言葉に、ギランジュが野卑な笑い声を上げた。
「見てのお楽しみ、だ」
そして、彼は立ち上がった。
裸体のまま、ベッドを降り、歩いていく。
何かを、されるのだ。
もう、ギランジュの相手をさせられるだけで、ハルシャは心が破れそうであるというのに。これ以上の負荷が、自分にかかるのだ。
横たわるハルシャへ、緩やかな動きでジェイ・ゼルが、顔を向けた。
彼は、静かな眼差しを、ハルシャに注いでいた。
視線が、触れ合う。
ハルシャは、灰色の瞳を見つめる。
今度のことは、彼の思い付きを実行に移しただけだ。
ハルシャの身を、他の男に任せると決めたのは、ジェイ・ゼルだ。
それだけの、存在だったのだ、自分は――
他の者に抱かれることを、彼はハルシャに強制した。
彼が決めたのなら、従うしかない。
この状況は、彼の望んだもの。
解っている。
それでも、ハルシャは、ジェイ・ゼルへ視線を向ける。
――けて。
言葉が、舌の先で、凍り付く。
内側にこみ上げる気持ちを、口に出すことなど出来ない。拒むことも、逃げることも許されない。
運命を受け入れるしかないと理解しながらも、ただ、眼差しを、彼に向ける。
解っている。誰も助けてなどくれない。
それでも、心が叫ぶのだ。今、この現状から、自分を救ってくれと。
金色の瞳を細めて、ハルシャは、ジェイ・ゼルを見つめた。
呼吸が、出来ない。
苦しかった。
想いが、瞳にあふれる。
たすけて――ジェイ・ゼル。