ミア・メリーウェザは、キルドン・ランジャイルという、ハルシャが初めて耳にする名を唐突に告げてから、沈黙した。
深みのある茶色の瞳が、ハルシャを真っ直ぐに見つめている。
ハルシャの中に、亡くなった叔父の面影を探すように、微かに首を傾げ、一心に視線を注ぐ。
「叔父は、長期航路の宇宙船乗《そらふねの》りでね、どんな危険な宙域も、易々と突破できる、凄腕の船長だった」
細めた目で、懐かしむように彼女が言葉を口からこぼす。
ゆっくりと場所を動き、白い円筒状のメドック・システムに、彼女は身を預けるように、背中を寄せた。
腕を組んで、ハルシャへ微笑みを向ける。
「幼い頃から、叔父は私の憧れだった。彼と同じ世界を見たくて――私は、宇宙飛行士になったんだよ――がむしゃらに勉強してね。
だから解るんだ、ハルシャ。
君が、宇宙飛行士を目指していたことが。私も君と同じ知識を、懸命に吸収し続けてきたからね――」
メリーウェザ医師が、にこっと笑う。
「ガルディギア星系のケルエン・ダード族――そんなのがスラスラ出て来るなんて、宇宙飛行士か、ディープなガルディギア星系マニアだけだ。君は、星系マニアではなさそうだからな。
なら、残る答えはただ一つ。
宇宙飛行士を夢見て、夢中で学んで来た人間、だ」
茶色の瞳が包むように、ハルシャを見つめていた。
「ほとんどの人生を、宇宙で暮らしていた叔父が地上に留まっている時、君と同じ眼をして、宙《そら》を見ていた。
焦がれてやまないものを、視線で引き寄せようとするような、憧憬にあふれた眼でね。
幼かった私は、叔父に聞いたんだ。
どうして、叔父ちゃんは、いつも空を見上げているの? と。
叔父は微笑みながら私を見て、答えの代わりに、問いかけたんだ。
『ミアには聞こえないか?』と」
とくんと、ハルシャは自分の心臓の音が聞こえた。
驚きに軽く見開いた目に向けて、メリーウェザ医師が呟く。
「何が? と問い返した私の頭を撫でながら、叔父は、天を仰いで優しい声で、教えてくれた。
『宇宙《そら》が、呼んでいるんだ――ここへおいで、と。だから、いつも空を見ているんだ。宇宙《そら》に呼ばれたら、応えずにはいられない。それが、宇宙船乗りなんだよ、ミア』と。
星々の海に恋い焦がれるように、呟いてから、叔父は長く天を仰いでいた。
その時も、叔父の耳には声が響いていたんだろうな。
だが――私には、宇宙《そら》の呼び声が聞こえなかった」
沈黙の後、彼女は寂しげに呟いた。、
「私は、本当の宇宙船乗《そらふねの》りでは、無かったんだよ、ハルシャ。
宇宙に憧れ、宇宙船の中に生き、そして、虚空に命を終えたいと思うほど、宇宙《そら》に恋い焦がれる、真の宇宙飛行士《そらふねのり》では――だから」
温もりのある茶色の瞳が、ハルシャへ向けられた。
「地上に落とされた」
小さく首を振りながら、痛みを覚えたように、彼女は目を細めた。
過去の何かを手に包むように、メリーウェザ医師は、背にしているメドック・システムに乗せていた手を、握り込んだ。
「宇宙は、真の勇気を持たない者には、厳しい場所だ。
私は、宇宙に試され――見事に敗れ去った」
手を開き、メリーウェザ医師は、ぽんと、白い機械の表面を軽く叩いた。
「こいつを見るたびに、自分の敗北を思い知る」
長い沈黙の後、彼女はやっと口を開いた。
「だが、叔父は違った。
キルドン・ランジャイルは、真の宇宙の勇者だった――だから、宇宙に選ばれ、その中で、命を散華させてしまったんだ。
宇宙はね、愛する者を抱きしめるために、命を奪うんだよ、ハルシャ」
ミア・メリーウェザの瞳が揺れた。
「幸福な人生だったと、叔父の同僚が私を慰めてくれたよ。叔父は、焦がれ続けた宇宙と一つになれた、この上ない人生の終わり方だと、ね」
微かに顔を歪めて呟いてから、彼女は再び沈黙した。
ハルシャも、無言で彼女を見つめた。
強い翼のある鳥しか、渡りをすることが出来ない。
自分の限界に挑みながら、鳥たちは大地を渡る――抗い難い、力に惹かれながら。
惑星ガイアの、渡り鳥の話が、ふっと、ハルシャの中に蘇って来た。
旅の途中で、あまたの鳥たちが、力尽きて死んでいく。
それでも――鳥は、季節が来ると、はるかな距離を、飛び続ける――
宇宙船乗《そらふねの》りも、そうなのだと――かつて、ハルシャは聞いたことがある。
宇宙が呼ぶ声に、彼らは逆らえない。
その中で命を落としても悔いがないほど――身を捧げて、彼らは宇宙を渡る。
ここにおいで。私の秘密を、教えてあげようと――甘美な声で、宇宙《そら》は誘う。
メリーウェザ医師が、痛みを別の痛みで覆うように、微笑んだ。
「君は、叔父と、同じ眼をしている――宇宙に呼ばれた者の眼。
私には解るんだよ、ハルシャ。散々見てきたからね。宇宙に魅入られた者たちの、狂おしいまでに焦がれる眼を――」
メドック・システムから手を離して、彼女が不意に、真っ直ぐにハルシャに向き合った。
「君は、きっと宇宙を翔ける。どんな困難も乗り越えて、君は憧れた宇宙《そら》へ飛び出す。宇宙は――選んだ者たちを、必ずその腕で、抱きとめようとするからな」
茶色の眼が、細められた。
「全く、見込まれたが、最後だよ。ハルシャ。宇宙は存外、執念深い」
穏やかな瞳を見つめながら、ハルシャは、小さく首を振った。
内側の感情に、歯を食い縛りながら、次第に首のふり幅が大きくなっていく。
「俺には、無理だ」
掃き捨てるような言葉が、口から、こぼれた。
「無理なんだ、メリーウェザ先生」
想いを塗りこめて、リュウジには同意を示す言葉が言えたのに、メリーウェザ医師には無理だった。
彼女がさらしてくれた心が、ハルシャの硬い殻を割る。
言葉が、無意識に口から出た。
「俺には、一生かかっても払いきれない額の、親の借金がある」
むき出しの魂からこぼれた言葉に、ハルシャの唇が震えた。
「爆死した両親が、生前借りていたものだ――悪質な、闇の金融業者から」
胸の奥に溜め続けた、濁り切った毒のようなものが、口からあふれる。
両手を拳に握りながら、ハルシャは、抑えきれずに、身を震わせる。
「俺は、ヴィンドース家の長子だ。親の借金を支払う責務がある。
在った財産全てを競売にかけて売り払っても、まだ、莫大な借金が残っている。俺は、金融業者に、支払い続けなくてはならない。
俺が逃げれば、サーシャが今度は、厳しい取り立てに遭う。
俺は――逃げられないんだ。どこにも」
背負い続けている現実が、言葉にした途端、重くのしかかるような気がした。
「俺は、宇宙《そら》には、行けない」
自分自身に言い聞かせるように、ハルシャは呟いた。
遙かな地を目指す渡り鳥のうち、何羽が目的地にたどり着けるのだろう。
自分は、飛び立つ前に、翼を折られた鳥のような気がした。
駆り立てる天を見つめながら、痛めた翼を懸命に振り――飛べない現実を、自ら、悟る。
だから――見つめることしか、出来ない。
五つの恒星を従える、赤く輝く、アルデバランを。
「俺は、ここで生きていく」
ハルシャは、呟くと、握りしめた拳で目を覆い、虚空に呟いた。
「お願いだ、メリーウェザ先生。俺にもう、夢を見させないでくれ」
食い縛った歯の間から、ハルシャは言葉を絞った。
「頼む」
振り絞った言葉を、無言で、メリーウェザ医師は聞いていた。
ハルシャは、喉を引きつらせた。
叫び過ぎたため、喉が痛い。それよりももっと、心が、痛かった。
「ハルシャ」
静寂の後、ミア・メリーウェザが呟いた。
「余計なお節介で、傷つけてしまって、すまない――解っているんだけどね、オキュラ地域に生きる者たちは、それぞれが、何かを抱えている。
相手の闇に触れないことが、優しさだと――だが」
途切れた言葉の強さに、ハルシャは拳をほどき、目を開いた。
メリーウェザ医師は腕を組んで、首を傾けながら、ハルシャを見ていた。
彼女は唇を震わせながら、じっと自分へ眼差しを注いでいる。
「君たちを、他人だとは思えないんだよ、ハルシャ。
私も、幼い頃、両親を事故で同時に失ったからね――」
自分は今、とても彼女の心の近い場所に居ると、ハルシャは気付いた。
医師としてではなく、一人の過去を持つ人間として、彼女はハルシャに向き合ってくれていた。
「昔、私は帝星ディストニアに住んでいた。七歳までね」
メリーウェザ医師は、髪をさらっと掻き揚げた。
「あれは、銀河帝国記念日の、祝賀パレードだった。両親にせがんで、連れて行ってもらったんだ。帝星ディストニアのメインストリートで、ワクワクしながら、パレードを眺めていた。
上空には、皇帝機のアルキュオネ号が、戦艦を従えて、ゆったりと渡っていく。
地上では、煌びやかな衣装の各星の人々が、歩いている。
素晴らしい光景だったよ――だが。
その華やかな祝賀パレードに、テロリストが爆弾を仕込んでいたんだ。
ちょうど、私たちがパレードを眺めていた場所の近くで、爆発が起こったーー」
ミア・メリーウェザが小さく首を振る。
「とっさに、父が私を抱きしめて、爆風から守ってくれたらしい。気づいたときは、病院のベッドの上だった。
そこで、両親が命を落としたことを、教えられた。
私は一人っ子だったからね、突然、独りぼっちになったことを、知ったのさ」
明るい口調で言うメリーウェザ医師の目が、ハルシャを見つめる。
彼女は、自分と同じ痛みを知っている。
目の奥の闇が、それを物語っていた。
「両親の遺体は、見せてもらえなかった。ひどい状態だったらしい。まあ、お陰で、私が両親を思い出すときは、いつも、元気に笑っている姿だ。大人たちの配慮に、感謝するべきだろうな」
不意に、メリーウェザ医師が視線を落とした。
「人生が、激変したよ。何が何だか、よく解らなかった。政府が凶行の被害者である私の保護に、尽力してくれたようだ。
両親が死亡してから数日して、まだベッドの上に居た私のところに、叔父が駆け付けてくれたんだ。
長期航路の途中だったらしいが、高額な次元航路を使って、引っ返してくれたらしい。
包帯まみれの私を見て、叔父は、ぼろぼろと、涙をこぼし始めた。
こっちがびっくりするぐらいに、泣いて、泣いて――
叔父は、母の弟だったんだがね、姉と義兄の死を、子どもの私の前で、みっともないほどに、嘆いていた。
そして、『ミア、大丈夫だ。叔父さんと暮らそう』と、傷を気遣いながら、そっと抱きしめてくれた。
『大丈夫だ、ミア。何も心配しなくていい』と。
涙と鼻汁でぐちゃぐちゃの顔で――優しく言ってくれたんだ。
その時。
私は、叔父の腕の中で、初めて涙を流すことが出来た――それまで、良く理解出来なくて、泣けなかったんだ。だが。叔父さんが、こっちが驚くほど臆面なく泣いてくれたお陰で、私の心のつっかえが取れた。
ああ、悲しんでいいんだ。
泣いていいんだ。
そう思ったら、堰を切ったように、涙があふれた」
くすくすと、メリーウェザ医師が思い出に笑う。
「男の人があれほど号泣する姿を見たのは、初めてだった。衝撃だったよ」
不意に、彼女は虚空へ眼差しを向けた。
「そこから、叔父のホームベースだった、惑星アキュラに移った。
幼かった私のために、叔父は年の半分は、地上に留まって暮らしてくれた。
他の係累はなかったからね、宇宙に出る時は、私を施設に預けて、帰る時を約束して旅立った。
必ず、戻ってくるから、いい子で待っていてくれ、ミアと頭を撫でて、叔父はいつも、私を置いていった。
それが嫌でね、叔父と同じ宇宙船に乗って、一緒に暮らしたいと思ったんだ――ずっと叔父の側に居られる仕事。それが、宇宙船の船医だったんだよ、ハルシャ」
虚空をみつめたまま、ミア・メリーウェザが呟く。
「両親と同じ事故に巻き込まれながら、私は、たった一人、生き残ってしまった――だが、私には、叔父が居てくれた。
叔父が、私に宇宙の素晴らしさを教えてくれ、一緒に宇宙を飛ぼうと、目的を与えてくれた。
だから、生きてこられた」
メリーウェザ医師の眼が、懐かしいものを見るように、細められている。
彼女の視界には、きっと、宇宙を愛した叔父の姿が、映っているのだろう。
「君たちも、爆発で両親を失っている。だから、他人とは思えなかった」
唇を噛んでから、彼女はハルシャへ視線を向けた。
「事故が起こった時、サーシャは、両親を失って、悲しかった。まだ幼かったからな。
だが、サーシャと同じように、いや、それ以上に」
茶色の瞳が、ハルシャの眼を真っ直ぐに見つめる。
「君も、悲しかったんだ――ハルシャ」
一瞬、ハルシャは、息が出来なくなった。
茶色の瞳が、労わるように、ハルシャを包んでいる。
「ハルシャ。君も、両親を、失ったんだよ。なのに、悲しみを押し込めて、君はがむしゃらに前にと進んできた。妹をかばって、自分自身が傷つきながら。そのことが」
メリーウェザ医師が優しく微笑む。
「私は、切なくて仕方がないんだ――ハルシャ」
蓋を。
開けないでください。
先生。
無理やりに閉ざした、心の痛みを。
呼び覚まさないでください。
眠らせておかないと、私は生きていけないのです。
それほど――
私は、弱く、愚かな人間なのです。
だから。
気付かせないでください。
両親を失って、苦しかったのは、自分なのだと。
運命の横暴さに、声を振り絞って抗議したいほど――
両親が恋しいのだと。
サーシャには、六年しか、両親の記憶がない。
だが、自分には、十五年間の思い出がある。
慈しまれ、愛を注がれてきた十五年の日々が――余計にこの身を苛《さいな》むのだと。
どんなに願っても、求めても、祈っても。
失ってしまった両親の腕に、もう包まれることはない。
事実が深く、心に突き刺さる。
一緒に事業を拡げ、共に働きたかった父は、もう、いない。
最初に宇宙船に足を踏み入れ、感嘆の声を上げてくれるはずだった、母もいない。
誰よりも――
幸せにしたかった。
愛情を注いで育ててくれた、両親を。
宇宙飛行士になり、胸を張って故郷に帰った姿を、見せたかった人は――
もう。
どこにもいない。
だから。
自分が両親に出来る、たった一つの恩返しが、借金を返済することだった。
両親がかぶった汚名を、雪《そそ》ぎたかった。
どんなに恥辱に塗れても、構わなかった。
そのためなら、夢を諦めることなど、容易いと、思っていた。
なのに――
どうして。
「ハルシャ」
柔らかい色の瞳が、ハルシャを映していた。
「君が宇宙を見る限り、宇宙も君を見つめる――」
ふっと、メリーウェザ医師が笑う。
「宇宙は残酷なほどに、公平だ。叔父のいない宇宙など、私には意味がなかった。
私が大切だったのは、キルドン・ランジャイルであって、宇宙そのものではなかったんだよ。
その欺瞞を、大宇宙は冷徹に見抜いて――私を、宇宙から爪で弾き飛ばした。
弾かれて、落ちた先がここ、オキュラ地域さ」
明るい口調になり、微笑みが深まる。
「宇宙は、君のことを見ている。
君が何をしているのか、与えられた運命に耐え抜くのか、君を試しながら、公平な眼で、見つめ続けている」
瞬きを一つすると、彼女は優しく笑った。
「君には、聞こえているんだろう、宇宙の呼び声が――私には聞こえなかった、声が」
ここへ、おいで――
魂を鷲掴みにしてさらっていくように、駆り立てる声が、聞こえる。
無窮の闇から――神秘を滴らせながら。
「忘れるな、ハルシャ。君が宇宙を見つめる限り、宇宙もまた、君へ眼差しを注ぎ続けてくれる」
諦めるなと、言ってくれているのだろう。
借金もいつかは返すことが出来る。
自由を手にする日が、必ず来ると――
宇宙へ行く希望を、決して手放すなと。
希望のともし火を、ハルシャの中に、与えようとしてくれている。
ミア・メリーウェザが――自分の過去を、さらしながら。
「ありがとう、先生」
ハルシャは、礼を述べた。
口調に、メリーウェザ医師がかすかに、眉を寄せた。
言葉に触発されて、希望を持ったわけではないと、気付かれてしまった。
けれど。
自分を思い遣ってくれる、彼女の心が嬉しかった。
「先程、先生は、宇宙に敗北したと言ったが――」
問いかける口調のハルシャに、メリーウェザ医師が眉を上げた。
「ああ。完敗だったよ。どうした? 詳しい経緯が聞きたいのか?」
彼女の言葉に、ハルシャは首を振った。
「いや。そうではなくて――」
メドック・システムを見てから、ハルシャは、彼女の深みのある茶色の瞳へ視線を向けた。
「サーシャは、先生のところで働かせてもらうようになって、随分明るくなった。
それに――先生がいなければ、リュウジを助けようとは、俺は思わなかった。
先生が何とかしてくれると思ったから、俺は、彼を路上から拾うことが出来た」
上手く思いが、言葉に出来ないもどかしさを感じながらも、ハルシャは、何とか言葉を続ける。
「先生にとっては、敗北だったかもしれないが――この地を選んでくれたお陰で、俺たちは救われた」
言い終えたハルシャの顔を見て、柔らかな笑みを、メリーウェザ医師が浮かべた。
「君は、本当に優しい子だね」
不意に彼女は、メドック・システムへ体を向けて、両手でその表面に触れた。
「引き留めて悪かったな、ハルシャ」
横顔をハルシャに見せながら、内側の感情に耐えるように、眉が寄せられた。
「サーシャが待っているだろう。早く帰ってあげてくれ」
向けられた背中が、少し一人にしてくれないか、ハルシャと、語り掛けているようだった。
「ああ。色々ありがとう、先生」
「明日からは、三人暮らしだろう」
笑いを含んで、メリーウェザ医師が言う。
「賑やかになって、良いな」
短く辞去の言葉を述べて、ハルシャは、医療院を後にした。
出口から足を踏み出したところで、ハルシャは天を見上げる。
上空部の光が強すぎて、オキュラ地域からは、ほとんど星が見えない。
それでも、アルデバランの光を探す。
見つめながら、ハルシャは、内に呟く。
全ての望みを失ったようでも、少なくとも、一つだけ、夢は叶う。
自分は――
この惑星トルディアに、骨を埋めることが出来る。
たった一つだけでも――。
夢を叶えることが出来る。
唇を噛み締めると、ハルシャは視線を落とし、ボードの駆動部を入れて、そっと足で蹴った。