ほしのくさり

第2話  隷属の夜-02





 きらびやかな照明が、ラグレンの闇を払うように輝いていた。
 高級レストラン『ヴェロニカ』は、今日も盛況らしい。前には飛行車が群れている。
 体重を後ろに乗せ、ブレーキをかけながら、ハルシャは店の前で弧を描いてボードを止めた。
 左足でボードの後部を踏み、浮きあがった本体を右手で受ける。
 片手で駆動部を切り、ハルシャは抱え上げた。
 輝く看板を見上げてから、ハルシャは着飾った紳士淑女が出入りする店へと、作業を終えたままの姿で臆することなく進んだ。

 入り口で、支配人が闖入者を止めようとした。
 ハルシャは、髭を尖らせた支配人を一睨みして、低く呟く。
「ジェイ・ゼルに呼ばれている」
 支配人は、ハルシャの顔に気付いたようだ。
「ヴィンドース様でしたか」
 礼を取りながら、とりつくろうように笑顔を浮かべる。
 ハルシャは態度を急変させた支配人を無視しながら、言葉を続けた。
「奴は、もう来ているか」
 ぞんざいなハルシャの言葉に、支配人が深くうなずいた。
「お待ちです。こちらへ。ご案内いたします」
 ボードを小脇に抱えたまま、ハルシャは優雅な人々の間を抜けていく。

 通されたのは、個室だった。
 入り口の左右には、武器を剥き出しにした護衛が二人立っている。
 男たちはハルシャの存在に気付かないように、視線すら向けてこない。
 そんな価値もないとでも言いたげな表情だった。
 銅像のように立つ二人の間を抜けると、ハルシャの前に扉が開かれた。
 開かれた扉の向こう、部屋に置かれた丸い机の正面に、ジェイ・ゼルは、穏やかに座っていた。
 ハルシャは無表情に、惑星トルディア一の高利貸し、闇の金を一手に握っている男を見た。
 歳は、三十代を少し超えたほどだが、金をかけているのか、若々しい。
 ハルシャを認めると、彼は静かに微笑んだ。
「随分待たせたな、ハルシャ」
 ハルシャは無言で歩を進め、ジェイ・ゼルの向かいに用意されている椅子を引くと、すとんとそこに座った。

「さっき、工場長から今日のことを聞かされた。そこから、真っ直ぐここに向かった」
 それだけを言うと、ハルシャは黙り込む。
「なるほど。作業が忙しかったのだね」
 ジェイ・ゼルの笑みが深まった。
「作業着を着替えないままここに来ているのを見ると、嘘をついているわけではなさそうだね」
 ハルシャは、ボードを横に立てかけておいた。
「待たせて悪かったな」
 一瞬、金に見える瞳を相手に向けながら、ハルシャは低く呟く。
「さっさと始めたらどうだ。食事でも、なんでも」
 ジェイ・ゼルは、目を細めて、静かに微笑む。
「相変わらず、気の荒い獣のようだな――五年経っても、君は少しも私に慣れないね」
 ハルシャは答えなかった。
 椅子に座って、きれいに背を伸ばしたまま、向かいに座る男を見つめる。
 ハルシャの燃える様な赤毛は、作業中の熱で発した汗でしっとりと湿っていた。ジェイ・ゼルはしばらく様子を見つめてから、入り口でハラハラしながら成り行きを見守っていた支配人に、
「給仕を始めてくれ」
 と、穏やかに声をかける。
「は、はい。かしこまりました、ジェイ・ゼル様」
 直角以上の角度で身を折ると、支配人は踵を返し慇懃な態度で扉を閉めて立ち去って行った。
 二人きりになった部屋の中で、ジェイ・ゼルは前に置かれたグラスを弄びながら、ハルシャへ視線を向ける。
「少し、痩せたのではないか。ハルシャ」
 問いに、ハルシャは答えなかった。
 何の感情も込めずに、前の男を見つめる。
「作業が過酷ではないのか? きちんと食事をしているのかね」
「どうでもいいだろう」
 ハルシャは吐き捨てるように、ジェイ・ゼルに言う。
「どうでもよくは、ないよ。ハルシャ」
 赤い液体が揺らぐグラスを手に取ると、彼は微笑みながら、口をつけた。
「君の身に何かあると、借金を返して頂けないからね」

 飲み干してから、微笑みながらグラスを置く。
「死んで楽になれると思ったら、大間違いだ。君が死ねば、妹に借金を払ってもらう――それは、解っているのだろう。ハルシャ」
 ハルシャは、表情を変えなかった。
 いつものことだ。
 こうやって、猫がネズミを嬲るように、ジェイ・ゼルは、ハルシャに言葉をかける。立場を思い知らせるように。
「君に、死んでもらっては困るのだよ」
 ハルシャは、視線を強めた。
「俺は死なない。あんたに、親父たちの借金を全額返金するまではな」
 ハルシャの燃える赤毛と、瞳の金を見つめながら、ジェイ・ゼルは微笑む。
「良い顔だ。ハルシャ・ヴィンドース」
 ヴィンドース家の誇りを思い出させるように、時折こうやって、わざとジェイ・ゼルはハルシャのフルネームを呼ぶ。
「料理をしっかり食べて、体力をつけてくれ。そんなに痩せた体では、抱いても甲斐がない」
 この後の行為をにおわせるジェイ・ゼルの挑発に、ハルシャは眉一つ動かさなかった。
 ふふと、彼は笑う。
「今日の料理が、君の口に合うと、嬉しいのだがね」
 満面の笑みを浮かべるジェイ・ゼルを、ハルシャは無言で見つめ続けていた。

 五年前――

 ハルシャは、ふっと、意識が遠い所へさまよい出そうになるのを、止められなかった。
 こんな立場になるなど、ハルシャは想像もしていなかった。
 何一つ憂うことなどなく、平和で穏やかな日常を過ごしていた。
 ハルシャの両親は、惑星トルディア内外に名をとどろかせる貿易商だった。
 惑星トルディア草創期からの名家に生まれ、都心に豪華な家を持ち、惑星ガイアや、帝星ディストニアの物品が家にあふれていた。
 坊ちゃんと、ハルシャは呼ばれて育ってきた。
 父の交易に同行して、宇宙を旅するのが何よりも楽しかった。
 いつしか、宇宙を自在に行き来すること――それが、ハルシャの夢になった。
 宇宙船乗りになる。
 臆面もなく夢を口にし、人々に賞賛されていた。
 それは当たり前に、叶えられるはずの夢だった。そのためだけに、ひたむきに努力を重ねていた遠い記憶が、ふと胸を去来した。

 最初の料理が運ばれてきて、ハルシャの追憶はそこで終わった。
「食事にしよう、ハルシャ」
 視線を伏せていたハルシャに、ジェイ・ゼルの声が響く。
 彼は、静かに準備に入っていた。
 優雅な部屋に似つかわしくない作業着のまま、ハルシャは運ばれてきた料理を、口にする。
 義務を果たすように、無言で料理を口元へと運んだ。
「惑星ガイアから直輸入したエンドウのスープです」
 誇らしげに、支配人が料理の名を告げる。
 何の感慨もなく、ハルシャは食事を続ける。
 ジェイ・ゼルは支配人と会話をしている。それをいいことに、ハルシャはさっさと割り当てられた料理を終えた。

 次々に、高価な生野菜のサラダや、仔牛のステーキが食卓を彩る。
 黙したまま、与えられた作業をこなすように、ハルシャは食べ続けた。
 その様子を、じっとジェイ・ゼルの隙の無い目が見つめていることを、ハルシャは誰よりも解っていた。

 一挙手一投足を、監視されている。

 まるで、ペットの食事の様子を見守る飼い主のようだ。食事の仕草から、ハルシャの体調や心の内まで見抜こうとするかのように、いつも鋭い視線が向けられている。
 一切を、ハルシャは無視した。
 黙々と、食事に没頭する。
 ジェイ・ゼルが用意してくれた食事は、美味しかった。
 だが。
 それだけだった。
 彼が、ハルシャに食べさせたいと思っているから、食べている。
 本来なら、こんな場所に一標準秒でも、いるのはごめんこうむりたかった。
 工場での作業に戻りたかった。
 納期が迫っていた。守らなければペナルティが課され、給料が削られる。
 それは、目の前の男へ支払う金額が減るということを、意味した。

 少しでも、借金を早く返却したい。そのためにハルシャはぎりぎりまで生活費を削っていた。
 妹への食事は気をつかったが、ハルシャは自分の身は構わなかった。
 生きていられれば、いい。
 奴隷のような生活の中で、働き続け借金を返し続ける――。
 何も、望まない。
 生きていればいい。そしてただ、負債を払い続ける。
 おそらくは、死ぬまで一生それは続く。

「君の食事の作法は、きれいだね」
 前のジェイ・ゼルが、長い沈黙の後、口を開いた。
「とても優雅で、美しい――身についた習慣というのは、中々離れがたいのだね」
 
 さらりと言ったジェイ・ゼルに、ハルシャは皿を投げつけたくなった。
 落ちぶれていても、食マナーが良いと、そう、彼は言っていた。
 ハルシャは片頬を歪め、
「両親の教育が良いものでね」
 と、短く答えて、食事に戻った。
 ふっと、ジェイ・ゼルが笑った。
「君を地獄のどん底に落とし込んだ両親だが、それでも、感謝を忘れていないようだね」
 優しい口調で嫌味を言いながら、ジェイ・ゼルは、赤い液体を口にする。
「良いことだ。ハルシャ・ヴィンドース」
 まただ。
 自分が何者なのかを思い知らせるように、彼はフルネームを呼ぶ。
 ハルシャは答えず、黙々と食事を続ける。
 赤い液体を揺らしながら、ジェイ・ゼルが、ハルシャを見つめる。
「今日は、飲まないのか? ハルシャ」
 ハルシャの前に満たされた赤い液体のことを指して、彼は言葉をこぼす。
「このあと戻って、しなくてはならない仕事がある」
 ハルシャは顔を上げずに、答えた。
「酔えば作業の手元が狂う。飲むことは出来ない」
 すぐに、ジェイ・ゼルの言葉が返ってこなかった。
 沈黙に違和感を覚る。顔を上げると、彼は、無言で赤い液体を揺らしていた。

「納期がある」
 静かな動作を見つめてから、説明が必要と感じ、ハルシャは言葉を続けた。
「破れば、ペナルティが課される。そうなれば、あんたに払う金額が減る。それではあんたも困るだろう。今日は飲めない」
 それが理由の全てだというように、言い終えてから、ハルシャは食事に戻った。
 長い沈黙の後、ジェイ・ゼルが呟いた。
「そうか」
 彼はグラスを手に取ると、そのまま赤い液体を呷り、一気に飲みほした。
 ことんとグラスが置かれた。
「なら、さっさと、食事を終えよう」

 きつい彼の言い方に、ハルシャは目を細めた。
 けれどあえて受け流し、与えられた食事を続ける。
 気持ちを切り替えたように、ジェイ・ゼルも食事に取り掛かった。
 それまでの、時間を楽しむような雰囲気が消え、実利的な趣を帯びる。
 砂を噛むような感触だった。
 ジェイ・ゼルがハルシャを食事に誘うのは、彼の栄養状態を考えてのことのようだった。だが、余計なお世話だった。パウチで全ての栄養素が含まれたものを飲むので、それだけで食事は事足りる。第一、時間の節約になる。
 借金を返済するために、ハルシャは寝る間も惜しんで仕事に明け暮れていた。
 こんな優雅な食事をとる余裕など、本来どこにもなかった。
 やっと、その思いがジェイ・ゼルに伝わったようだ。
 彼は無言で運ばれてきた料理を口に運び、ハルシャと同時に食べ終えた。
 口の端を軽く押さえて、彼は立ち上がった。
「行こう、ハルシャ」

 食事を終えた余韻を楽しむこともなく、胃袋を満たしたことだけの意味しか持たない、時間。
 ハルシャにとっては、ありがたいことだった。
 傍らのボードを取り上げると、ハルシャも同じく立ち上がった。
 軽い目眩が、一瞬襲う。
 根を詰めて、神経を使う作業をしていたせいだ。体が、悲鳴を上げながら、休養を求めていた。
 だが、ハルシャは自分の身のことを無視する。
 目の前の男に、自分の弱みを見せることなど許せない。
 平静を装うと、歩き始めたジェイ・ゼルの背に従って、豪華な個室を出て行く。
 慌てて表から支配人が走って来た。
「ジェイ・ゼル様、この度はご利用ありがとうございました」
「とても美味しい料理だった。料理長に礼を述べてくれ。いろいろ我儘を聞いてもらって、すまなかったと」
「光栄なことです。また、何でもお申し付けください」
 支配人と話をする一瞬だけ足を止めて、ジェイ・ゼルは歩き出した。
 勘定を払うことなく、店を後にする。


 店の前には、もうすでにジェイ・ゼルの黒い飛行車が停めてある。先に乗り込んだジェイ・ゼルの後につくように、ハルシャも開いた扉の中に、続いた。
 護衛の者が、飛行車の扉を閉じる。
「ネルソン、やってくれ」
 ジェイ・ゼルが運転手に声をかけた。
 二人が乗ったことを確認してから、運転手がふわりと車を浮かせる。
 その瞬間、ハルシャの肩に手が乗せられ、ジェイ・ゼルに引き寄せられた。
 まだ完全に座席に腰を下ろしていなかったハルシャの身が、ジェイ・ゼルの腕に包まれる。
 荒々しい力だった。
 逆らうことは容易い。
 だが、そうすると後で厄介な事態になると、五年の間にハルシャは学んでいた。
 なすがままに引き寄せられ、ジェイ・ゼルの胸に顔を押し付けられる。
 それ以上を、彼はしてこなかった。
 身を固くしたまま、ハルシャは腕の中に居た。
 ハルシャの髪に、ジェイ・ゼルの頬が触れる。
 彼は、無言だった。
 これから向かう場所に着くまで、彼はこうしてハルシャを腕の中に包んでいるつもりなのだろうか。
 呼吸を浅くして、ハルシャは親密な触れ合いに耐えた。
 気持ちを逸らせるように、これが終わった後の作業のことを思い描く。
 駆動部の部品の繋ぐ手順をざっと頭の中でさらう。β部の接合が甘いと後で厄介なことになる。作業順位としては先だが、明日に廻した方が良いだろう。どうせこの後、疲労するのは目に見えている。繊細な技術を要求される作業は、休憩後にする方が得策だった。そのほうが品質が保たれる。

「何を考えている」
 不意に、押し当てられた髪から、ジェイ・ゼルの声が響いた。
「作業のことだ」
 ハルシャは短く答えた。
 ふっと、ジェイ・ゼルが笑った。
「作業、か」
 ゆっくりと、頬が離れ、腕が解かれる。
「私とのことも、作業と、割り切っているのだろうな」
 囁きのような声に、ハルシャははっきりと言葉を返す。
「そうだ。借金返済のために必要不可欠な作業だ」

 淡々と述べられた言葉に、一瞬、ジェイ・ゼルの身がこわばった。
「そうか」
 身が離れる。
 ハルシャは、ジェイ・ゼルから、距離を取った。
 彼は、飛行車の外の風景へ目を向けたまま、呟いた。
「そうだな」

 その後、彼は無言だった。
 ハルシャも窓の外を見た。
 天の星々が、降り注いだような、明るいラグレンの街を見つめる。
 富で潤う、美しい街。
 かつて、自分たちもこの光の中に居た。

 飛行車が動きを緩め、ラグレンの中央に聳え立つ巨大な建物の内部へと吸い込まれていった。
 ラグレンで最も高級な宿泊施設『エリュシオン』の駐車場へ入ったのだ。
 光の筋に誘導され、ジェイ・ゼルの黒い飛行車は行儀よく『エリュシオン』の一角に停止する。
 扉が、ハルシャの目の前で開かれた。
「ようこそ、『エリュシオン』へ」
 にこやかに挨拶をしながら、制服をまとった従業員が飛行車の扉を保持している。
「ありがとう」
 帝国公用語できちんと挨拶をしてから、ハルシャはボードを手に、降り立った。
 白亜の巨大な建造物、それが『エリュシオン』だった。
 地上三百メートルの位置に、飛行車専用の駐車場があり、そこにハルシャは降り立ったのだ。
 光の道が、前に続いている。透明な扉の向こうが、惑星トルディアの最老舗『エリュシオン』の内部だった。
 ジェイ・ゼルは、いつもこのホテルを使った。
 続いて降り立ったジェイ・ゼルが、作業着のハルシャの肩を左手で包んだ。
 所有を示すように、微かに引き寄せられる。
 不快感に顔を歪めないように注意しながら、ハルシャはジェイ・ゼルと歩を揃えて歩き出す。
 ホテルの中から、黒服の男が慌てて駆け寄ってきた。
「お待ちしておりました、ジェイ・ゼル様」
 丁寧に挨拶をしてから、彼の前に鍵を差し出した。
 虹色の板のようなものだ。
 穏やかな笑みと共に、ジェイ・ゼルは鍵を受け取った。彼はハルシャの肩に手を回したまま、目的の場所に向けて動き出す。
 無駄な動きのない、ただ、目的を果たすためだけの行動。
 上階へ向かうチューブの中で、二人は無言だった。

 目的の場所へたどり着き、鍵を開ける時だけ、ジェイ・ゼルの手が、ハルシャの肩から外れた。
 しゅっと軽い音がして、扉が左右に開く。

 部屋は、『エリュシオン』の最上階だった。
 開いた扉の向こうの風景に、思わずハルシャは息を飲んだ。
 入った途端に、360度、見渡せるラグレンの街の光が目に入る。
 特別な仕様なのだろう。
 四方の壁が透明で、天井すら透明だった。
 ふわっと、体が上昇するような気になる。
 ぞわりと、ハルシャの中の血が騒いだ。
 まるで――宇宙にいるようだ。
 無言で、ジェイ・ゼルが部屋に入り、ハルシャも続いた。
 ことんと、入り口にボードを立てかける。
 視線だけで、辺りを探る。
 この部屋に入ったのは初めてだった。
 借りるのにどれだけの金額が必要なのか、ハルシャは考えないことにした。この部屋代を借金の返済に充てたいなどと、口が裂けても言ってはいけない。
 しかし。
 これほど透明ということは、中で何をしているのか、周りから丸見えになるのではないだろうか。
 もしかしたら、偏光性があり、内からは外が見えるが外からは見えないようになっているのかもしれない。
 高級な宿泊施設だ。それは考えられているだろう。宿泊者のプライバシーは守られるはずだ。
 部屋の真ん中には、円形のベッドがある。
 扉の内側に入り、ハルシャの後ろで、扉が閉められた。
 キンと、鍵が閉まる音がする。

 ハルシャは肩を包まれたまま、ベッドまで誘われた。
 そこまで行くと、強い力で押され、ベッドに放りだされる。
 予測をしていたハルシャは、上手く受け身を取り、円形のベッドの上で、身を弾ませた。
 表情を消したまま、ジェイ・ゼルは、ハルシャの前に立つ。
「時間がないのだろう、ハルシャ」
 傲然と顎を上げて、ベッドに横たわるハルシャを見る。
「なら、さっさと始めよう」




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