脱がせる。
ジェイ・ゼルの、服を?
柔らかな誘いの言葉に、ハルシャの鼓動が、一気に跳ね上がった。
戸惑いが、内側を駆け巡る。
あと少し、胸元を広げれば、柔らかい服は簡単に肩から滑り落ちるだろう。
それをハルシャの手でしてくれと、ジェイ・ゼルが言っている。
「……ジェイ・ゼル」
ためらいを含んだハルシャの声に、ジェイ・ゼルが、小さく笑う。
「君と愛し合うには、間を妨げる服が、邪魔だね」
灰色の眼を細めて、彼が呟く。
「さあ、ここにきて、私の服を脱がしておくれ。そうして、素肌を触れ合わせて――愛し合おう、ハルシャ」
深みのある声が、静寂の中に響いていた。
呟きながら、わずかに服をずらして、彼が
豊かな大胸筋は、半分ほど服に隠れている。
服の下にある、彼の胸の尖りを想像して、ハルシャは羞恥に顔を染めた。
ジェイ・ゼルが、自分を誘っている。
愛し合うために、ハルシャの手で服を脱がせてくれと――とんでもない破壊力を持つ言葉で、自分を誘惑する。
「ハルシャ――」
煙るような囁き声で、ジェイ・ゼルが招く。
「おいで」
甘やかな、呼び声だった。
優しい声に誘われて、無意識の内に体が動いていた。
引き寄せられるように、ベッドに立ち上がる。
一糸まとわぬ姿であるのも気にせずに、ハルシャは動いていった。
床に足を着き、彼までの数歩を歩く。
一足ごとに、なぜか、心臓の鼓動が高まっていく。
穏やかな視線をハルシャに向けて、ジェイ・ゼルは微笑みを浮かべて、自分を待っていた。
彼の側に立つと、体から発する彼の爽やかな香りに包まれるようだった。
「いい子だね」
わずかな距離を取って前に立つハルシャに、ジェイ・ゼルは優しく声をかける。
「君の手で、服を脱がせておくれ、ハルシャ」
以前、ジェイ・ゼルから服を脱がせたとき、色気がない仕草だと言われた。
言われた意味を、はっきりと悟る。
誘いかけるジェイ・ゼルの姿は、別次元だった。
婀娜めいた笑みを浮かべて、半眼でジェイ・ゼルが自分を見つめる。
「焦らずに、ゆっくりと――」
前に立つハルシャの耳に、口を寄せるようにして、ジェイ・ゼルが呟く。
「脱がせてくれないか、ハルシャ」
すぐ側にある、灰色の瞳を見つめる。
吸い込まれそうなほど、彼の目は澄んで煌めていた。
こくんと、頷いてから、ハルシャはジェイ・ゼルの服に手を触れた。
くすっと、小さくジェイ・ゼルが笑う
「ハルシャ。こういうとき触れるのは、服ではないよ」
少し驚いたのかもしれない。ハルシャは、目を
彼は笑みを浮かべたまま、ハルシャの手を取ると、服から離し、その下の肌に指先を触れさせた。
「肌の上に指を滑らせて、服をゆっくりと、開いていくのだよ」
紛れもない驚きを浮かべて、ハルシャはジェイ・ゼルを見上げる。
服と肌の間に手を入れて、押し開くようにして、服を脱がせろと彼は言っている。
指先が、ジェイ・ゼルの肌のぬくもりを拾う。
このまま指先を滑らせることを想像して、ハルシャは顔が真っ赤になった。
単純に服を身から剥がせばいいと思っていたが、やはり、ジェイ・ゼルのレベルは違う。まさか肌に触れながら、服を取り去らなくてはならないとは……。
ジェイ・ゼルがまなじりを下げて笑った。
「想像したのかな? 今、とても色気のある顔をしているよ、ハルシャ」
見つめるハルシャへ、艶やかな視線を向けながら、彼が囁く。
「ゆっくり」
ジェイ・ゼルが呪文のように、耳元に言葉を滴らせる。
「時間を楽しむように、ゆっくりと、手を動かすんだよ、ハルシャ――」
バクバクと高まる心臓の音を聞きながら、ハルシャはもう片方の手も、彼の肌に触れさせた。
服の間に指先を入れて、ジェイ・ゼルを見上げる。
これで良いのか? と問いかけるハルシャの眼差しに、彼は背中を押すように、微笑みながら頷いた。
視線を前に戻して、指先に神経を集中しながら、言われた通りに静かに左右に開いていく。
指先にジェイ・ゼルの熱を感じる。
手の甲に、さらさらと滑らかな服の生地が触れていた。
心臓が、内側から叩きつけるように、鳴っていた。
昔。
誕生日のプレゼントをもらった時に、何が中に入っているのか、ワクワクしながら包みを開いた時のようだ。
手の動きと共に、しなやかな生地に覆われる、ジェイ・ゼルの無駄のない身体が次第に姿を現わす。
ドキン、ドキンと、脈打つ自分の音が、聞こえる。
豊かに張ったジェイ・ゼルの大胸筋が生地の下からのぞいている。
次第に面積を増す彼の裸体に、ハルシャの中に、熱いものがこみあげてきた。
喉が、妙に渇いてきた。
サラサラと、生地が擦れる優しい音が聞こえる。
ゆっくりと手を押し開くと、服の下から、それまで隠されていた彼の胸の尖りが姿を現わした。
ドキンと、音が聞こえる。
かつてない、感覚が、内側から湧き上がって、身を焼いた。
彼が、欲しかった。
肌に触れたかった。
彼が快楽に頬を赤らめるさまを、見たかった。
下半身に、熱が集まってくる。
今までにない衝動に、ますます顔が赤らんでいく。
頭から、湯気が出そうだ。
ドキンドキンと、内側の脈を感じながら、裸体から逃げるように、ハルシャは、ジェイ・ゼルの顔に、視線を向けた。
さらに、心臓が、鳴る。
潤んだ灰色の瞳が、自分のどんな些細な変化も見逃さないように、ひたむきに見つめていた。
眼差しで、愛撫をされているようだった。
視線が、触れ合う。
彼が、微笑んだ。
「上手だね、ハルシャ。ほら、もう、あと少しだよ」
ハルシャの指が、ジェイ・ゼルの肩に触れる。
するりと肩を滑り、服が床に柔らかく舞い落ちた。
その瞬間、ハルシャの目の前に、ジェイ・ゼルの透明感のある上半身が全て、露わになった。
体中が脈打つようだった。
ジェイ・ゼルが、微笑む。
「下も、脱がせてくれないか、ハルシャ」
ドキドキしながら視線を下げて、彼の服に手をかける。
「ゆっくり、ゆっくりとだよ、ハルシャ」
ジェイ・ゼルの言葉に従うように、ごくりと唾を飲み込んでから、ハルシャは下穿きに手を添えて静かに下ろす。
ただ、服を脱がせているだけなのに、どうして気絶しそうなほど、自分は心臓を躍らせているのだろう。
いぶかしがりながら、彼の昂ぶりが、服の中から現れることに、頬を染める。
もしかしたら、これが、本当の彼の姿なのだろうか。
皆が求めて止まない『
身体の奥が、じんと痺れるようだった。
彼が、欲しくてしかたがない。
無意識に、自分自身が昂ぶっていくのが、抑えられなかった。
足首まで服を押し下げると、優雅な動作で、ジェイ・ゼルが片方ずつ、足を抜いてくれる。
ようやく役目を終えて、ハルシャは身を伸ばした。
顔を上げると、嫌でもジェイ・ゼルのきれいな裸体が目につく。
かつて、色気がない脱ぎ方だと、言われた。
その通りだと、妙に納得する。
彼が服を脱ぐ姿は、とてつもなく色っぽかった。
後頭部を殴られたように、今も、頭の芯がぼうっとしている。
無意識に、ジェイ・ゼルの姿を見つめていたのかもしれない。
「ハルシャ」
柔らかい言葉が、彼の口からこぼれる。
「ありがとう。君のお陰で、私も準備が出来たよ」
嫣然と、ジェイ・ゼルが微笑んでいる。
灰色の瞳に、心が絡めとられたように、視線が外せなくなる。
ゆっくりと腕が動き、ジェイ・ゼルが素肌のまま、ハルシャを腕に包んだ。
互いの熱が、痛いほどだった。
「ハルシャ……これから、身を繋げて、愛し合おう」
見上げた眼差しをジェイ・ゼルが受け止めてから、静かに身を屈めて唇を覆った。
深い情愛に満ちた口づけに、さらにぼうっと、意識がさらわれていく。
ジェイ・ゼルによって、内側に熱い炎が灯されたようだった。
彼が、欲しくてしかたがなかった。
焦がれるような切望が耐えられないほどだ。
少し背伸びをしながら、懸命に合わせた唇を求める。
しばらくハルシャに応えてから、ジェイ・ゼルが動いた。
唇を合わせたままで、身を抱えるようにして抱き上げられる。
強い力で身を運ばれ、気付いた時には、先ほどまで後孔に愛撫を受けていたベッドに、横たえられていた。
彼に身を覆われながら、熱を浴び続ける。
喉の渇きに似た情欲が、身の内から湧き上がってきた。
「――ジェ……ジェイ・ゼル」
追い詰められたような声で、彼を呼んでしまう。
ジェイ・ゼルは気づいてくれたようだ。
「もう、我慢できないのかな? ハルシャ」
優しい問いかけに、羞恥を忘れて、ハルシャは懸命に首を揺らした。
「ジェイ・ゼルが、欲しい。お願いだ」
懇願に、髪をそっと撫でてから、ジェイ・ゼルが耳元に呟いた。
「わかったよ、ハルシャ」
身を起こして、彼が行動に移った。
熱に熟れたような目で、ハルシャはジェイ・ゼルを追った。
しなやかな動きで、ベッドに転がしていたぬめりのある液の容器を手に取ると、彼はハルシャの腰の下に再びクッションを入れ、膝を立てさせた。
ぬめりを手に取ると、自身に施している。
ドキドキと、ハルシャの中に、期待が高まっていく。
視線に気付いたのか、彼は顔を向けると、優しく微笑んだ。
五年前に時を戻して――
ジェイ・ゼルは、優しい手つきで、丁寧にほぐしてくれた後孔を、もう一度確認している。決して痛みを与えないという誓いを守るように、再度指を入れて、ほぐしていた。
行為を受け入れながらも、切望が胸を焼く。
飢えたように、ハルシャは彼が欲しかった。
「ジェ……ジェイ・ゼル」
挿れてくれ、と懇願を込めて、彼の名を呼ぶ。
「もう少し、待ってくれないか」
冷静な声で彼が答えた。
「いい子だね、ハルシャ。あとちょっと、辛抱しようか」
わざとではないかと思えるほど、彼の動きは緩慢だった。
下半身に熱が集まってくる。
耐えがたいほどだった。
「ハルシャは、かわいいな」
立ち上がり始めたものを見て、ジェイ・ゼルが優しい声で呟く。
「素直で、真っ直ぐで、何の裏もない――」
ちゅっと、立てたハルシャの右膝の丸みに、ジェイ・ゼルが唇をつけた。
「そのままの君で居られるように、私が君を守るから」
左の膝にも、優しく唇が触れる。
「誰にも君を、傷つけさせないよ」
誓うような言葉を呟いてから、ジェイ・ゼルが指を抜いた。
視線を向けると、彼は右手に自身を保持して、ハルシャの足の間に動いていた。
瞳を上げて、彼が微笑む。
「君の中に、これから、
視線を絡めたままで、ジェイ・ゼルは自身をハルシャのすぼまりにそっと、押し当てた。
彼の熱に、体中が痺れそうだったった。
「ジェイ・ゼル――」
熟れたような、熱い言葉がハルシャの中から溢れる。
「ハルシャ。いい子だね」
名を呼びながら、見つめながら、ジェイ・ゼルが自分の中を、広げるように入ってくる。
ハルシャは、声を虚空に放っていた。
待ち望んだ熱と質量に、全身が震える。
ジェイ・ゼルは、先を挿れただけで、一度動きを止めた。
「大丈夫か、ハルシャ」
痛みはないかと、ジェイ・ゼルが問いかける。
ハルシャは、夢中で大丈夫だと頭を揺らした。
彼は、五年前にしたかったように、穏やかに自分の中に入ってきている。
過去の罪を償うように、優しくハルシャの身を扱う。
先がハルシャの中に落ち着くのを待ってから、緩やかに、少し動く。
あい路を少しずつ押し開くように、進んでは、動きを止め、ハルシャに大きさを馴染ませている。
これが、五年前に彼が自分に対して、本当はしてあげたかった行為なのだ。
動きをコントロールするのは、ジェイ・ゼルでも、辛いのだろう。
額に汗を浮かせながら、それでも、彼は静かに時間をかけて、自分の中に這入ってくる。
「ハルシャ」
優しく、名を呼びながら、視線を与えながら――これは、互いを知るための行為なのだと言い聞かせるように、優しく、優しく自身を沈める。
深い愛情と信頼の上に成り立つ、情愛のこもった行為。
そうだ、これは――愛の一つの表現方法なのだ。
人は、肉体を持って生まれてくる。
きっとそれは、誰かと繋がるために必要だから、与えられたものなのだろう。
互いの熱を、与え合うことで、命は孤独を癒すのかもしれない。
別離の寂寥が、彼の熱に解けていく。
「ジェイ・ゼル」
名を呼ぶと、彼が目を細めた。
瞬間、激しくなりそうな動きを見事に自制し、彼は緩やかに自身をハルシャの中に収める。
やがて、全てをハルシャの中に入れてから、ジェイ・ゼルが大きく息を吐いた。
にこっと、笑みがこぼれる。
「君の中に、私が全て入ったよ」
目を細めて、彼が問いかける。
「……痛くなかったか? ハルシャ」
五年間、彼が抱えていた心の傷が、見える。
「痛くない。ジェイ・ゼル。あなたが、優しくしてくれたから――少しも、痛くなかった」
懸命に告げるハルシャの言葉に、心から嬉しそうに、ジェイ・ゼルが笑った。
「それは良かった。君を、傷つけずにすんで……」
途切れた言葉の後、苦しげに、ジェイ・ゼルが眉を寄せた。
「許してくれ、ハルシャ。五年前、こうやって君を抱いて上げればよかった。
なのに私は、無垢な君を、傷つけてしまった。……どうして、自分を抑えられなかったのだろう。なぜ、私は……」
後悔を滴らせる言葉が、胸を抉る。
「もう、いいんだ。ジェイ・ゼル」
彼を見上げて、ハルシャは呟く。
「今は、五年前だよ、ジェイ・ゼル。あなたは優しく私を抱いてくれた」
胸の中に、愛しさが込み上げてきて、ハルシャは両手をジェイ・ゼルに差し出した。
「この行為が、情愛に満ちたものだと、その身で教えてくれた――もう、後悔しないでくれ。
お願いだ」
広げた腕の中に、ジェイ・ゼルが身を預けてくれる。
ハルシャは、彼の背中を抱きしめた。
「あなたは、体を通じて愛し合うことを、最初から伝えようとしていたんだね。五年前には解らなかったことが、今、はっきりと理解出来る。
ここから、もう一度始めよう」
彼の熱を腕に包みながら、ハルシャは彼の耳元に呟いた。
「愛している。ジェイ・ゼル」
ふっと、彼の身体から、強張りが消えた。
片腕で身を支えて、彼が少し体を起こしてハルシャを見つめる。
灰色の瞳が、魂の底をのぞき込むように、ひたむきに自分を見つめていた。
彼は、静かに微笑んだ。
言葉もなく、唇が触れ合う。
唇を合わせたままで、彼がゆっくりと動き始めた。
緩慢な動きに合わせるように、ハルシャも、腰を動かして彼を受け入れる。
一瞬、ジェイ・ゼルは驚いたようだが、次第に動きのリズムに意識を向け、穏やかに二人で一つの行為を行い続ける。
息を合わせ、互いを高め合う。
次第に、動きが大きく、激しくなっていく。
唇を外すと、ジェイ・ゼルは上からハルシャを見つめながら、力強い動きで、自身を打ち込んでいった。
待ち望んでいた熱と動きに、ハルシャは熱く喘いだ。
「――ジェイ・ゼル!」
耐えきれずに叫んだ時、目を細めて、ジェイ・ゼルが静かな声で呟いた。
「ジェイド、だ」
動きを止めずに、彼が言う。
はっと、ハルシャは意識をジェイ・ゼルに向けた。
彼は、傷ついたような笑みを浮かべながら、ハルシャに語り掛ける。
「私の本当の名前は、『ジェイド』だ」
動きが激しくなる。
視線を絡めたまま、彼は続けた。
「今だけは、その名で呼んでくれないか、ハルシャ」
ジェイド――
快楽に色を変えた、鮮やかな彼の緑の瞳が、視界に広がる。
惑星ガイアで産出される、極めて貴重な宝玉。
「――ジェイド」
告げてくれた本当の名を、ハルシャは大切に口にした。
声に反応したのか、びくっと、ハルシャの中のジェイ・ゼルが大きく震えた。質量が、増したような気がする。
彼は、傷ついた心を、剥き出しにしたように、ひどく無防備な表情になり、ハルシャを見つめた。
そうだ。
以前に、ジェイ・ゼルの緑の瞳は、翡翠のようだと言った時、彼は悲しみのような、喜びのような、複雑な表情を浮かべた。
この上なく希少な宝玉と同じ名を、彼は持っていたのだ。
無意識に言い当てたハルシャに真実を告げることが出来ず、彼はただ、微笑んだのかもしれない。
「ジェイド」
宝物のように、再び彼の名を口にした。
くっと、一瞬表情を歪めると、彼は身を倒して、ハルシャを腕に包んだ。
深くつながったまま、ジェイ・ゼルが強い力で、身を抱き起こす。
上半身が浮き、ジェイ・ゼルの膝の上に抱え上げられていた。
向き合って抱き合う形になる。
起こされた瞬間、自分自身の重さで、彼が深く入り込む。
衝撃に、きつく目を閉じ、ハルシャは叫んでいた。
ジェイ・ゼルの膝の上に跨り、身を震わせる。
震える体を、彼が、腕に抱きしめた。
「ハルシャ」
切ないほどの響きを込めて、彼が名を呼ぶ。
衝撃から立ち直り、目を開くと、彼が自分を見つめていた。
傷ついた心を隠しもせずに、ひたむきに自分へ眼差しを注ぐ。
唇を噛み締めると、ハルシャはジェイ・ゼルの首に腕を回し、身を寄せて、抱き締めた。
「ジェイド」
固く抱き締め合ったまま、ジェイ・ゼルが動き出した。
揺り上げられる。
彼を深く奥に飲み込む衝撃に耐えながら、ハルシャは首に回した手を、緩めなかった。
先ほどまでの、労わるような緩慢な動きが嘘であったように、激しくジェイ・ゼルがハルシャを翻弄する。
彼を求めて止まない渇望が、次第に下腹部からあふれてきた。
絶え間なく刺激を与えられる後孔が、ひくひくと、震える。
「ぁぁあっ、んっ」
声が、無意識に口から溢れだした。
「んっ、んあっ」
揺すられるリズムに合わせて、淫靡な声が出始めた。
ひたむきな彼の動きに、愛しさが込み上げて、ハルシャはジェイ・ゼルの髪に指を絡めて、愛撫をする。
「――ジェイド」
うわごとのように、何度も、彼の本当の名前を口にした。
その度に、彼の動きが鋭くなる。
前から両方の尻のふくらみを抱えられ、激しく上下を繰り返す。
擦れ合う肌と肌が、熱を帯びてきた。
彼が欲しい。
彼をもっと、感じたい。
もっと、もっと、深く、強く――
彼と一つになりたい。
渇望に急き立てられるように、ジェイ・ゼルに合わせて、ハルシャも自分の身を動かした。
激しく、身が触れ合う。
容赦のない動きに互いに翻弄されながら、抱き締め合った腕は離さずに、一つに繋がりあう。
「ハルシャ」
動きを緩めずに、ジェイ・ゼルが呟く。
「愛している、ハルシャ。君を、君だけを――」
こぼれた、彼の本心に、ハルシャの中が甘く震えた。
急激に、昇りつめていく。
「ああっ!」
激しく打ち込まれる動きに、声を絞り、ハルシャはジェイ・ゼルをきつく抱きしめた。
内側に溜まり続けた熱が、ぶるぶると身を震わせる。
奔流に抗うように、ハルシャは、必死に言葉を呟いた。
「私も、愛している、ジェイド」
腕を絡めて、耳元に呟く。
言った瞬間、体に衝撃のような快楽が駆け抜けた。
高く叫んで、ハルシャは頂点を迎えていた。
合わせた肌に、高まりを吐き出し、痺れるような快感に身を任せた。
ジェイ・ゼルの肩に頭を預けたまま、身がびくっ、びくっと痙攣する。
「ハルシャ」
呟きと共に激しいひと突きで、ジェイ・ゼルが奥に押し入る。
と同時に、彼も熱い昂ぶりを、放っていた。
激しい快楽に捕らわれたまま、二人は固く互いを抱きしめあった。
肌を合わせ、心を絡め合って。
まるで、二人で一つの生命体であるかのように。
全身に、汗が浮いていた。
互いの荒い呼吸を聞き合い、ただ、沈黙を続ける。
かつてないほど、激しく求めあった。
疲労と、充足感で、ハルシャは意識が飛びそうだった。
弛緩する体をジェイ・ゼルに預けて、一瞬、うとうとと、まどろみに入りそうになる。
長い静寂の後、汗を滲ませるハルシャの髪が、さらりと撫でられた。
「ジェイドは」
静かな声が、耳朶に触れた。
「生まれた時につけられた名だ。惑星アマンダで……ずっと、私はその名で呼ばれていた」
漂いそうな意識を覚醒させ、ハルシャはジェイ・ゼルの膝の上で、少し身を起こした。
彼の顔を見る。
自分を見つめる彼の瞳は、鮮やかな緑に変わっていた。
深く、透明な、緑。
希少な宝玉と同じ色だった。
ハルシャの眼差しから、目の色が変じていることに気付いたのだろう、ジェイ・ゼルが小さく笑った。
「緑色の
瞬きをして、彼は静かに言った。
「忌まわしい記憶そのものの名前を、もう二度と口にするつもりはなかった。緑の眼は、私にとって呪いにほかならなかったからね」
心が吸い込まれるような緑の瞳を、一心にハルシャは見つめ続ける。
そんな様子に、ジェイ・ゼルは笑みを深めた。
「けれど、君はこの眼を、きれいだと言ってくれた。永遠に見つめていたいと――」
抱き締めていた手が離れ、そっとハルシャの頬に触れた。
「君が喜んでくれるのなら、緑に変わるこの瞳も、悪くないかもしれない」
緑の眼を細めて、彼は笑った。
「やっと、そう、思えるようになったんだよ。ハルシャ。君のお陰だ」
まだ痛みを滲ませながら、それでも彼は幸せそうに笑う。
胸が締め付けられるほどに、彼が愛しかった。
「ジェイド」
彼が忌まわしいものとして、過去に封印した名を、宝物のように、ハルシャは呼んだ。
「きれいだよ、あなたの緑の瞳は――目にするだけで、心が震える。透明で深みのある、翡翠の緑だ」
我知らず、ハルシャの目に涙があふれた。
「大好きだよ、永遠にみつめていたいほどに。この瞳が私は大好きだ。お願いだ、もう、嫌わないでくれ。世界でこれほど美しいものがあるのかと思うほどに、あなたの瞳は、美しい」
涙をこぼしながら、ハルシャは微笑んだ。
「――私の、宝物だ」
ジェイ・ゼルの瞳が揺れた。
無言でしばらくハルシャを見つめてから、彼は静かに腕に包んだ。
「君は、私の全てだよ。ハルシャ」
小さな呟きと共に、唇が覆われる。
先ほどまでの行為の激しさは消え去り、ただ、穏やかな愛撫のように口づけを交わす。
「もう一度、君と愛し合いたい」
囁きを耳に与えて、ジェイ・ゼルは腕に包んだまま身を倒し、ハルシャをベッドの上に横たえた。
深く透明な緑の瞳にハルシャを映したまま、彼は穏やかに動き出した。
そして。
もう一度深く、ゆっくりと愛し合った後、ハルシャはジェイ・ゼルの腕の中で、眠りに落ち込んでいった。
側に居るよ、と言いながら、ジェイ・ゼルが手を繋いでくれる。
すがるように両手で握りめて、ハルシャは目を閉じた。
号泣した疲労と愛し合った後の倦怠が、急速に眠りに引き込んでいく。
おやすみ、ハルシャ。
いい夢を。
その呟きと、優しく額に触れる唇が、ハルシャが最後に覚えていることだった。