ほしのくさり

第154話   五年の時間-01





 楽しい時間は、足の速いランナーのようだ。
 あっと言う間に、過ぎ去っていく。
 気付いたら、いつの間にか、メリーウェザ先生との会食は、三時間を超えていた。
 サーシャが小さなあくびをかみ殺したことで、ハルシャは随分時が経ったことに気付かされる。
 リュウジが頼んでくれたシララル酒は、やはり花の香りがして、とても美味しいお酒だった。
 けれど、前回飲み過ぎて泥酔し、ヨシノさんに迷惑をかけたことを、ハルシャは忘れていなかった。
 自重して、一杯だけに止める。
 リュウジは、さらに勧めてきたが、体調がすぐれないからとハルシャは丁重に断りを入れた。
 少し残念そうな顔をしていたが、リュウジは無理強いをしなかった。

 眠そうな妹に視線を向けながら、ハルシャは今夜のうちに、サーシャに話をしなくてはならないと、心に決めていた。
 明日になれば、部屋を引き払わなくてはならない。
 今晩の内に、彼女に納得してもらう必要があった。
「眠いか、サーシャ」
 小さく、ハルシャは妹に問いかける。
 瞬きをぎゅっとしてから、サーシャは懸命に目を開いて、頭をぶんぶんと振った。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
 笑顔で返す。
「おお、もうそろそろ、夜中だな」
 気付いて、メリーウェザ医師が声を上げる。
 リュウジが頼んでくれたシララル酒は、先生とリュウジのお腹に収まっている。
 お皿もほとんど空だ。
「楽しい食事だった」
 横に座るサーシャの頭をぐりぐり撫でながら、メリーウェザ医師が笑顔で言う。
「サーシャが無事で、本当に嬉しい。改めて、礼を言わせてくれないか、リュウジ、ヨシノ」
 もう、ヨシノさんを、メリーウェザ医師は呼び捨てにしていた。
「先生、酔っぱらっていますね」
 頭を脇息代わりにされながら、サーシャが低い声で呟いている。
「かもな。幸せな酔っ払いだよ」
 この上なく楽しそうに、メリーウェザ医師は笑いながら言った。



 会計は全て自分が持つ、そういう約束だったと言い張って、メリーウェザ医師が全額を支払ってくれた。
 リュウジはかなり気にしていたが、メリーウェザ先生は引かなかった。
 女性に恥をかかせるものじゃないよ、と言って、会計を済ませに行く。
 足元を心配してか、サーシャが律儀に彼女に付き添っていった。
 二人が消えた部屋に残っているのは、ハルシャとリュウジ、それにヨシノさんだけだった。
 自分の考えを伝える、良い機会だ。

「リュウジ」
「はい」
 シララル酒をあれほど飲んでも、顔色一つ変わっていないリュウジが、笑顔で返事する。
 対するハルシャは、すでに顔が真っ赤になっていた。
 瞬きをしてから、ハルシャは言葉を続けた。
「リュウジは、ホテルを考えてくれていたが――今晩は、サーシャと家に戻ろうと思う」

 瞬間、リュウジの顔から笑顔が、消えた。
「危険です」
 思わぬ真剣な声で彼が言う。
「もう、あなたはジェイ・ゼルの負債者ではない。彼の庇護を失ったも同然です。そんな状態で、オキュラ地域に戻すことは出来ません」
 意外すぎる言葉に、ハルシャは、一瞬、予定していたセリフが出なくなった。
「庇護?」
 問い返すハルシャに、ちょっとバツが悪そうに眉を寄せてから、
「あなた達が五年間、オキュラ地域で無事だったのは、ジェイ・ゼルが手を出すなと、周囲に警戒を発していたからのようです――廃材屋のリンダさんから、聞きました」
 と、低めた声で、リュウジが返す。
 初めて聞く情報に、ハルシャは、呆然としてしまう。
「ジェイ・ゼルが?」
 ただ、問い返すことしか、出来ない。
 こくんと、小さくリュウジが頷く。
「だから――もう、オキュラ地域は安全な場所ではありません。今晩は、僕たちと一緒に、『アルティア・ホテル』で泊まって下さい。お願いします、ハルシャ」
 じっと、ヨシノさんも自分を見ている。
 彼の黒い瞳が、リュウジの言う通りにして下さいと、願っているように自分を見る。
 ああ、そうか。
 リュウジに何かあると、ヨシノさんをはじめ、カラサワ・コンツェルンの人達は困るのだ。
 彼が次期総裁であることを、ハルシャは思い出す。
 それでも、最後の時間を、サーシャと五年間の思い出の詰まった部屋で、過ごしたかった。
 あの部屋で、彼女に今まで言えなかった事情を、説明したかった。

 ハルシャは唇を噛み締めてから、思い切ったように口を開く。
「リュウジは、ホテルへ戻ってくれ――私はサーシャと、オキュラ地域に帰るから」
 さっと、リュウジの顔色が変わった。
「なぜですか! どうして僕がハルシャ達と離れなくてはならないのですか」

 思いもかけない、強い言葉だった。
 言い放ってから、リュウジは低めた声で呟く。
「ハルシャが、オキュラ地域に行くというのなら、僕もそこへ戻ります」
 意地を張るような言葉だった。
「リュウジ」
 ハルシャは、思わぬ抵抗に、やや怯んでしまう。
 これほどまでに、自分たちと離れるのが嫌なのだと、改めて気付かされる。
「明日からは、リュウジたちと一緒に行動するから――」
 なだめる様に、ハルシャは語気を和らげて告げる。
「今晩だけだ。リュウジは大切な体だから、敢えて危険な目に遭うことはない」
「危険だと、自覚があるんですね、ハルシャ」
 反駁の激しさに、ハルシャは戸惑う。
「そんな危険な場所に、僕がハルシャ達を戻すとでも、思っているのですか」

 リュウジの眼が懇願するように自分を見つめてくる。
「ハルシャ。サーシャと二人だけで話をしたいというのなら、ホテルの部屋でしてください。僕は席を外します。
 お願いです。オキュラ地域はとても危険な場所です。あそこで五年間、ハルシャ達が暮らせた方が奇跡に近いのです」

 ヨシノさんが眉を寄せ、リュウジの動向を見守っている。
 彼は――主人の身が心配なのだと、ハルシャは考える。
 リュウジの言っていることは、解る。
 だが。
 あの部屋で、五年間を過ごした日々を、サーシャと振り返りたかった。
 きちんと整理をしないと、新しい一歩が、踏み出せないような気がする。
 どう伝えたら、リュウジは解ってくれるのだろうか。

「サーシャは、感受性の強い子だ。物事を理屈ではなく、情で感じ取る。
 彼女にとっては、どんなに危険な場所であっても、あの部屋が自分たちの家なのだ。
 それを、急に立ち退かなくてはならないと言うことを、きちんと説明してあげたい。あそこは、私だけの家ではなく、サーシャの家でもあるんだ。
 お願いだ、リュウジ。
 サーシャと話し合う時間が欲しい――彼女は、両親が爆死させられたことも、まだ、知らないんだ。私が、伝えることが、出来ていなかったから……」

 言葉が、途切れた。
 借金のことも、何も、サーシャには告げられていない。
 なのに、彼女は兄の言う通りに、懸命に貧しい中を暮らしてきていた。

「それに。たとえ借金を返したからと言っても、すぐに手の平を返すようなことを、ジェイ・ゼルはしないとおもう」
 メリーウェザ先生が、大切にしてくれていた、という言葉を、胸の奥に噛み締める。
「大丈夫だ。たった一晩だ――お願いだ、リュウジ。心配しないでくれ」

 急に、リュウジは眉を寄せた。
「ジェイ・ゼルを――今でも、信じているのですね」
 小さく。
 消えそうな声で、リュウジが呟く。
 聞き取れないほど、ささやかな声で。
 彼は辛そうに、言葉を滴らせる。

 ハルシャは、一瞬息を飲んでから、勇気を振り絞って、呟いた。
「リュウジ――。ジェイ・ゼルは、君が思うほど、ひどい人間ではない」
 一瞬、瞳を上げてから、リュウジは視線を落とした。
 彼は何も言わなかった。
 ハルシャも、彼の沈黙を前に、何も言えなくなる。
 本来は、迷いなく物事を進めていく人なのに、今のリュウジの心がとても不安定なのを、ハルシャは感じ取った。
「リュウジ……」
 口を開いた時、
「待たせたな!」
 と、上機嫌でメリーウェザ医師とサーシャが戻ってきた。
「遅くなってごめんなさい。先生が、別の部屋に入ろうとして、ちょっともめちゃって」

 唇を尖らせながら、サーシャが言う。
 会食に当たって、メリーウェザ先生は、個室を頼んでくれていた。
 ゆっくりできるから良いだろう、と満面の笑みで言っていたのだ。
 が。
 帰ってくるときに、どうやら、メリーウェザ医師は、部屋を間違えてしまったらしい。
「サーシャが違うと言っても、いいやここだ、と言い張って、別の人のお部屋に入ってしまって――」
 顔を真っ赤にしながら、サーシャが呟く。
「ごめんなさいをしていたら、遅くなってしまいました」
「私が悪かったよ、サーシャ」
 からからと、メリーウェザ医師が笑っている。
「個室は同じ扉だから、ちょっと間違ってしまったな。すまん、すまん」
 彼女は完璧に、酔っぱらっていた。

 もう、先生はっ! と、サーシャがたしなめている。
 呆気にとられるハルシャの横で、小さくリュウジが笑っていた。
「無事にお戻りになられて、良かったです」
「うん。サーシャの道案内に、素直に従っておけば良かったよ」
「だから言ったのに、先生は――!」
 まだ、ぷんぷんとサーシャは頬を膨らませて怒っている。
「あの女の人と男の人、とっても慌てていましたよ! 本当に、もう!」

 すまん、すまんと笑顔で謝るメリーウェザ医師と一緒に、帰り支度を整えて、ハルシャ達は店の玄関まで動いて行った。
 戸口を出たところで、不意にリュウジが
「実はサーシャ。このあとヨシノさんとご一緒する用事が出来てしまいました。もしかしたら朝まで戻れないかもしれません」
 と、口を開いた。
「ヨ、ヨシノさんと、ご用事なの?」
 サーシャがビックリしたように、リュウジを見上げて言う。
 ハルシャも、まさかリュウジからそう切り出してくるとは思わずに、驚きに目を開いて立ち尽くしていた。
「はい。マイルズ警部ともご一緒に、ちょっと、訪ねるところがあるのです。夜、何時になるか解らないので、皆さんがお泊りのホテルに、一緒に寄せて頂くことになりました。
 今晩一晩だけです」
 びっくりしたように、サーシャがリュウジとヨシノさんを見ている。
「ヨシノさんはあまり、長くラグレンにご滞在になれないようなので――すみません、サーシャ」
 ようやく事情を呑み込んだようで、サーシャはうなずいた。
「急ぎのご用事があるのね」
 大人びた声で言うサーシャに、リュウジは微笑みを与えて頭を揺らした。
「そうです。今晩だけです」
「なら、仕方がないね、解ったよ、リュウジ」
 微笑みを浮かべたままで、リュウジがハルシャへ視線を向けた。
「急な事で申し訳ありません、ハルシャ」
「リュウジ……」
 温かな笑みが、深まる。
「明日の朝、戻りますね。おやすみなさい、ハルシャ。サーシャ」
 そして、さっと、メリーウェザ医師へ顔を向ける。
「ごちそうさまでした。ドルディスタ・メリーウェザ。大変美味しかったです」
「いいってことさ。リュウジ」
 そして、彼女は、リュウジの傍らに佇むヨシノさんへ顔を向けた。
「リュウジが世話になるな、ヨシノ」
 また彼女は、ヨシノさんを呼び捨てにしていた。


 *


「リュウジが居ないと、何だか静かだね」

 部屋に二人で戻っても、何となく話をしそびれたまま、時が過ぎていく。
 お腹が満腹で、眠そうな妹のために、早々に布団を敷いたのだが、つい、習慣になっているのか、三枚並べて敷いていた。
 そのままでもいいよ、というサーシャの声に、二人だけの部屋に三枚床を延べて、眠りの準備を整えた。
 サーシャは家に戻って来たのが楽しかったのか、嬉しそうに布団に潜り込む。
 そっと、身を布団で包みながら、ハルシャは無言だった。
 話し出す、きっかけが掴めない。
 しばらくしてから、薄闇の中で、サーシャが小さく呟いた。

「リュウジがいるのが、当たり前になってしまっていたんだね、お兄ちゃん」
 布団から顔を出して、こちらを見つめながら、サーシャが小さく呟く。
 大きく息を吸ってから、ハルシャは心を決めると、口を開いた。
「実は、サーシャ」
 薄闇の中で、瞬きをする、妹の顔を見つめながら、ハルシャは言葉を続ける。
「今日、仕事を辞めてきた。この部屋に住めるのも、明日までだ」
 突然の言葉に、サーシャが目をまん丸にして、がばっと、身を起こした。
「ど、ど、どうして、お兄ちゃん!」
 驚愕に声を震わせながら、妹が必死に言う。
「どうしたの? ジェイ・ゼルさんと、喧嘩をしたの?」
 辞めさせられたと、解釈したらしい、サーシャはぎゅっと、布団を握りしめながら、
「サーシャのせいなの?」
 と、声を震わせる。
「サーシャ……」
 思いもかけない言葉に、ハルシャはかえって戸惑った。
 うるっと涙を滲ませながら、サーシャが懸命に自分を見つめてくる。

「サーシャが誘拐されて、ジェイ・ゼルさんにご迷惑をかけたから、お兄ちゃんは怒られてしまったの? それで、お仕事を辞めることになったの?」
 妹の怒涛の話の展開に、ハルシャは、対応しきれずに黙り込む。
「サーシャが、ジェイ・ゼルさんに、ごめんなさいをするよ! お兄ちゃんを辞めさせないで下さいって!
 ごめんね、お兄ちゃん、サーシャのせいだね」
 ぽろりと、涙がこぼれ落ちた。
「サーシャは、アルバイトをもう一個増やすよ。お兄ちゃんの分まで、頑張って働くから……」

 いとけない妹の姿に、ハルシャは身を起こすと、腕に小さな体を包んだ。
「そうじゃない。サーシャ。違うんだよ」
 ぎゅっと、サーシャが服を掴んでくる。
「サーシャの、せいではないの?」
 小さな問いかけに、ハルシャは首を振った。
「違う。そうではないんだ――」

 長い沈黙の後、ハルシャはようやく、口を開くことが出来た。
「ずっと黙ってきてすまなかった。サーシャ。ここオキュラ地域で暮らしているのには、理由があるんだ。
 兄さんには、借金があったんだ――お父さまが契約したもので――それを、返さなくてはならなかった」

 これまで、言えなかったことを、ぽつり、ぽつりとハルシャは話した。
 だが。
 ジェイ・ゼルが、その借金の返済相手だとは、伝えることが出来なかった。
 だから、ジェイ・ゼルさんの工場で働いて、その給料で借金の返済に宛てていたのだと、説明をする。
 ジェイ・ゼルの印象が悪くなることを、どうしても妹に言えなかった。
 彼女は、ジェイ・ゼルを、慕っているように思えたのだ。

「リュウジは、記憶を取り戻したんだ」
 説明の後、ハルシャは、絞り出すように、言葉を呟く。
 彼は実は、帝星のお金持ちで、借金を全額支払ってくれたので、もう、働かなくてもよくなったのだと、伝える。
 帝星に、父親が残してくれた遺産があり、それを教えてくれるために、リュウジはわざわざラグレンに来てくれた。
 だが、事故に遭って記憶を失っていたのだと。
 背負っていた借金も、父の遺産から支払える、全て上手くいったのだと、説明を続ける。
 抱き締めた腕の中で、サーシャは一生懸命に、兄の言葉を理解しようと、努力をしているようだった。

「仕事を辞めたのは、だから、悪いことじゃないんだ」
 ハルシャは、静かに妹を納得させるように言う。
「サーシャは、仕事がきついことを、心配してくれていただろう? これからは、もう少し楽な仕事を選んで、働くことが出来る。
 住む場所も、オキュラ地域でなく、安全な場所を選ぶことが出来るんだ」

 妹が腕の中から顔を上げてきた。
 ちょっと力を緩め、互いに向き合う距離を取る。

「サーシャが誘拐されたことは、何の関係もない――だから、安心してくれ」

 しばらく、サーシャは無言だった。
 一気に、情報を与えすぎただろうか。
 彼女はしばらく沈黙してから、口を開いた。

「じゃあ――リュウジとは、お別れなんだね」
 ぽつりと、サーシャが呟く。
 新しい涙が、目から湧き上がって来た。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。サーシャはちゃんと、さようならが出来るから」
 ぽろぽろと、涙が目からこぼれ落ちる。
「良かったね。リュウジは、本当の自分のお家に帰ることが出来るんだね。明日、リュウジが戻ってきたら、ちゃんとおめでとうって言うね。お兄ちゃん」

 笑おうと努力する妹の頭に、手を置く。
 記憶が戻ったら別離が待っていると言った、兄の言葉を、サーシャは胸に刻んでいたのだ。
 話したどんな言葉よりも、リュウジの記憶が回復したということが、サーシャを動揺させていた。
 こんなにも――この子は、リュウジを大切に思っていたのだと、気付かされる。
 悲しみを止めようと、ハルシャは言葉を続けていた。
「リュウジは、この後も一緒に住もうと、言ってくれている」
 弾かれたように、サーシャが顔を上げて、ハルシャを見つめる。
 躊躇った後、ようやく口を開く。
「ここには、明日までしか住めない。その後――リュウジの故郷の、帝星ディストニアに、一緒に行こうと言ってくれているんだ。
 そこで、家族として三人で過ごそうと」

 しばらく沈黙してから、サーシャは
「でも、お兄ちゃん。サーシャには、学校があるよ?」
 と、小首を傾げて問いかける。
「帝星にも学校があるんだ、サーシャ。そこへ転校してはどうかと、リュウジは言ってくれている」

 転校という言葉が、聞きなれないらしい。
 サーシャは再び黙り込んだ。

「アルバイトも、あるよ?」

 おずおずと、問いかける。

「帝星に行くなら、辞めさせて頂かなくては、ならない」

 その瞬間、がーんとサーシャは打ちのめされた様な顔になった。

「で、で、でも、お兄ちゃん。サーシャが辞めたら、大将たちが困るよ! お客さんにお料理を出すのが、足が悪くて余り出来ないからって……」
「そうだな」
 ハルシャは、サーシャの頭の上に手を乗せたまま、呟いた。
「なら、サーシャは、ラグレンに残る方がいいのかな」

 ラグレンに残る。
 という言い方を、サーシャはしばらく考えていた。
 瞬きの後、ハルシャは続ける。

「リュウジは、帝星に戻らなくてはならない。帝星には、彼を待つたくさんの人がいる。リュウジを、ラグレンに引き留めることは、出来ないんだよ」
 優しく、サーシャの髪を撫でる。
「ラグレンに残るのなら、リュウジとお別れしなくてはならない。
 どちらかなんだ、サーシャ」









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