ほしのくさり

第136話  唯一の愛の示し方-02





 こんな性急なジェイ・ゼルなど、見たことがなかった。
 待てないという言葉通りに、再び熱で覆われ、翻弄される。
 嵐のようだ。
 唇を合わせた快楽に酔っている間に、いつの間にか自分の下穿きが、取り去られていた。すうっと、冷たい風を感じたときには、もう、服が床に落ちている。
 潤みを帯びた目で、見上げたハルシャに、ジェイ・ゼルは優しく笑みをこぼす。
「きれいだよ、ハルシャ」

 何かを返す前に、唇が再び覆われた。陶然とする中で、ハルシャの下の敏感な場所に、ジェイ・ゼルの細く長い指が優しく触れはじめた。
「んっ、ああっ」
 もう熱を帯びていた先端は、濡れていた。そのぬめりを指に絡めると、ジェイ・ゼルは、そっと指を滑らせて、後孔に触れた。
 はっと、ハルシャは目を開く。
 まだ、準備など、なにも出来ていない。
 その動揺を見てとったのか、ジェイ・ゼルが口を離して呟いた。
「大丈夫だよ、ハルシャ。指を一本入れるだけだ」
 額に、唇が触れる。
「お願いだ、ハルシャ」
 灰色の瞳が、すぐ近くで自分を見つめる。
 目を細めて、彼は呟く。
「君を愛させてくれ――」

 ぼんやりと見上げるハルシャに、微笑みを与えてから、ジェイ・ゼルの指がそっと、後孔に侵入してきた。
 あまりぬめりの施されていない指の存在を、ひどく生々しく感じる。
 びくっと身が反応した。
「可愛い反応だね」
 ジェイ・ゼルが耳元で呟いた。
「準備をしなくても、君のここはきれいだよ、ハルシャ」
 指をそっと入れながら、ジェイ・ゼルが呟いた。
「大丈夫だからね」

 唇が、再び触れ合う。
 優しく数度出入りしてから、目的を持った動きで、ジェイ・ゼルの指が、ハルシャの中を探る。
 ぐっと、中が押された。
 瞬間、ハルシャは叫んでいた。
 強すぎる刺激に、がくがくと震える。
 触れられると痛みのような刺激を覚える場所に、ジェイ・ゼルが直接触れていた。

「ああっ!」
 もう一度、指が触る。
 ハルシャの反応を見ながら、ジェイ・ゼルがゆっくりと身を起こした。
 彼が遠ざかっていくのすら、知覚出来ないほど、内側の感覚に翻弄される。
 静かに、敏感な場所を、ジェイ・ゼルの指が摺りあげる。前に押し込むように、時に、叩くように。
 そのたびに、ハルシャは声を上げた。

「ここばかりだと、辛いからね」
 ジェイ・ゼルは言いながら、そっとハルシャの昂ぶりを、空いている左手で捉えた。
「こちらも、刺激してあげようね」
 竿を軽く握った手を、ジェイ・ゼルが柔らかく上下させはじめた。
 びくっ、びくっと、身が痙攣するように、反応を示す。
「あ……ああっ……」
 吐息のような声が、口から無意識に漏れ始めた。
「可愛いよ、ハルシャ」
 声に、ハルシャは朦朧としながら、ジェイ・ゼルへ顔を向ける。

 彼はいつの間にか椅子を引き寄せて、腰を下ろしていた。
 そして、机に横たえたハルシャの両足を、肩に担いでいる。
 自分の足の間に座を占めて、真剣な眼差しを注ぎながら、決して焦ることなく、ハルシャを高めていた。
 意識を指先に向けているのか、微かに首を傾けながら、じっとハルシャの局部を見つめている。
 凝視されている、彼に。
 目にした事実に、顔が、赤らんでいく。
 きゅっと身がしまり、ジェイ・ゼルの指を締めつけた。
 反応に気付いたのか、ふっと、ジェイ・ゼルが視線を上げた。
 眼差しが、出会う。
「気持ちがいいか、ハルシャ?」
 指の動きを止めずに、ジェイ・ゼルが問いかける。

 とてつもなく、豪華な部屋の、本来は食事に使われる瀟洒な机の上で。
 あられもない姿で、自分は愛撫を受けている。
 なんという、背徳的な行為だろう。
 局部を相手にさらして、無防備に指を受け入れながら、それでも自分は感じていた。
 これが
 ジェイ・ゼルの愛し方なのだ。
 互いの体を通じて快楽を分け合うことが。
 彼の愛し方を、これまで知らなかった。
 愛されていることにすら、気付かなかった。

「気持ちがいい。ジェイ・ゼル」
 声が、潤む。
「ジェイ・ゼルも、気持ちがいいか?」
 どうして、甘えるような声になるのだろう。
 問いかけに、彼は微かに眉を寄せた。
「そうだよ、ハルシャ。君が私で快楽を得てくれている姿が――どうしようもなく、私を駆り立てる。見せてくれ、ハルシャ。私によって、君が乱れるさまを」
 言葉が、滴る。
「私に――私だけに」
 激情を秘めた瞳が、静かに自分に据えられてている。


 人は、快楽を得るように作られている。


 同じ『エリュシオン』の別の部屋で、薄闇の中に響いていた彼の言葉が、耳にこだまする。


 私たちは、祖先の尊い資質を受け継いでいる。
 銀河に散らばった今でもなお、原始と同じ行為を、続けるために。


 太古の人類も、こうやって愛する者の手に高められて、快楽を得ていたのだろうか。
 違う個として生まれたものが、求めあい、一つの存在となるために。
 結びつきをより強固にしようと、身の内に、快楽の遺伝子が寄り添ってきたのかもしれない。
 命を、未来に伝えていくために。
 はるかな歴史の中で、ガイアに生まれた、最初の人類の事を、ハルシャは、ふと思った。
 暗い洞窟の中で――彼らが愛し合ったからこそ、人類は栄えてきた。
 彼らが伝えた快楽が、今も厳然として、命の中にある。
 だとしたら。
 この身がジェイ・ゼルを求めることも、許されるのだろうか。
 たとえ、命を生まない交わりであったとしても。
 これほどまでに、彼を求め、一つになろうとすることを――
 宇宙は、許してくれるのだろうか。

「あああっ!」
 不意に襲った快楽に身を反らして、ハルシャは叫んでいた。
 温かなものが、ハルシャの敏感な昂ぶりの先端を包んでいる。
 はっと、意識をジェイ・ゼルに向ける。
 彼は、口にハルシャを含んで、静かに舌先で弄していた。

 そんな。
 洗ってもいないのに。

 困惑から上げようとした声は、嬌声へと変じた。
 舌で彼が強く、刺激を与えてくる。
 揺さぶられる。
 内側から決して強くない力で、刺激され続ける場所と、柔らかく昂ぶりを捌く手の動きと、亀頭に絡むジェイ・ゼルの舌の滑らかさと。
 心を開いて受け入れた刺激が、どうしようもなく、ハルシャを高めて行く。
 手に触れるものを、ハルシャはきつく掴んだ。
 ジェイ・ゼルの服だ。
 下に敷いた彼の服から、爽やかな馴染んだ香りが匂い立つ。
 身を、包まれているようだった。

「あっ、あっ……あっ」

 ジェイ・ゼルの指の動きに、短く息をもらしながら、ハルシャは声を上げ続けた。
 柔らかい刺激が、蓄積するように、次第に身の内に熱として溜まっていく。
 下腹部が、ぼんやりと温かい。
 あの感覚だ。
 一度乳首だけで達した時の、脱力するほどの快楽。
 それが再び、身の内から湧き上がってこようとしている。
「あっ、くっ、ああっ」
 首を振り、身をよじりながら、ハルシャは高められていく刺激に耐えた。

 豪華な部屋の中に、自分の声が響いていた。
 綾織りの純白のテーブルクロスの上に、ジェイ・ゼルの服に守られ身を横たえながら、自分は快楽に叫んでいる。
 けれど、これまでのような羞恥を感じなかった。
 ジェイ・ゼルの行為を、身体中で受けとめようとしているせいだろうか。
 彼が、与えたいものを、受け取りたい。
 けれど。
 刺激が強すぎる。

「あああっ、ジェイ・ゼル!」
 快楽に身悶えながら、ハルシャは内側からの声を放っていた。
「お、おかしくなりそうだ……」
 小刻みに身が震える。
「大丈夫だよ、ハルシャ」
 口を離して、ジェイ・ゼルが呟く。
「君はとてもきれいだ。快楽に頬を染めて、身をよじる様は――」
 言葉の間も、指の動きが止まらない。敏感な場所を、擦り続ける。
 短く声を放ちながら、それでもジェイ・ゼルへ視線を向ける。
 熱を帯びた灰色の瞳が、自分を見つめる。
「ここには、私と君しかいない」
 呟きながら、ジェイ・ゼルが微笑む。
「安心して、乱れていいんだよ。ハルシャ」


 どうにかなって良いんだよ、とかつて呟かれた言葉が蘇る。 
 指の刺激が、不意に強くなった。
 悲鳴のように叫んで、ハルシャは首をのけぞらせた。
 再びジェイ・ゼルが、柔らかく局部の先を口に含む。
「はあっ、んああっ」
 首筋をさらしたまま、ハルシャは刺激に声を上げる。
 内側から、波のようなものが、襲いかかって来た。
 瞬間、歯を食いしばって、ハルシャは衝動に耐えた。
 ほどなく、ふっと、刺激が消える。
 短い息を吸い込みながら、先ほどのは、何だったのだろう、と、ぼんやりする頭でハルシャは考えていた。
 今まで感じたことのない種類のものだった。
 身体の水分が、波になって打ち寄せたようだった。
 刺激が薄れたことに身の力を抜いたとき、再び同じような衝撃が、内側から湧き上がって来た。
 それも、盛り上がりを見せながら、ふっと消えた。
 それから幾度か、波状に刺激が襲いかかる。
 次第に大きく、間隔が短くなっていく。
 息が、出来ない。
 ジェイ・ゼルの動きが止まらない。
 再び大きな波が、身の中から打ち寄せてきた。
 それは、次第に内側を侵食するように広がり――唐突に、ハルシャを絶頂へと誘った。
 幾度か高められ、引いた熱が、信じられないほどの激しさで、怒涛のように、押し寄せて来た。
 飲み込まれる。
 思った瞬間、意識がさらわれるほどの快楽が、突き抜けた。

 絶叫していた
 背中を反らして、そのまま身体を強張らせる。
 瞬間。
 敏感になりすぎた頂きから、ハルシャは精を放っていた。
 頭が、真っ白になる。

 ふっと気付いた時には、ジェイ・ゼルが天板に身体をぶつけないように、腕で抱きしめてくれているのがわかった。
 びくっと、身が痙攣する。
 彼は――昂ぶりを口に含んだまま、吐いたハルシャの精を、飲み下していた。
 搾る様に、軽く吸われる。
「あっ」
 小さく、声が漏れた。
 舌が、敏感になった場所を舐めとる。
「ああっ!」
 それだけで、ハルシャは虚空に再び叫んでいた。
 びくびくと痙攣する身体が、ジェイ・ゼルの腕に包まれていた。

「ふうっ、ううっ……うう」
 まなじりから、涙が滑り落ちた。
 強すぎる刺激と、心をさらした不安定さに、抑えきれない涙が、あふれてくる。
 幼い子どものように、息をするたびに、しゃくりあげていた。
 足を肩から外すと、ジェイ・ゼルが身を乗り出すようにして、ハルシャの側へ顔を寄せる。
「きれいだよ、ハルシャ」
「うっ、ふうっ」
 応えようとした声が、泣いた後のものに変わる。
 ゆっくりと身を倒して、ジェイ・ゼルが涙を舐めとった。
「ハルシャ」
 呼びかけに、きつく服を握りしめていた手を離して、ハルシャはジェイ・ゼルに腕を差し伸べた。
 微笑むと、ジェイ・ゼルが頭の後ろに手をあてがい、そっと身を起こしてくれる。
 机の端に腰をかけ、上半身を立てた状態で、ハルシャはジェイ・ゼルの腕に包まれていた。
「ハルシャ――」
 呟いてから、ジェイ・ゼルが唇を覆った。
 触れあった場所は、白濁した液と、涙の混じった味がした。
 彼に、溶け込んでいくような気がする。
 腕を首に絡めて、ハルシャは目を閉じた。
 瞼を閉じたために、頬に流れ落ちた涙を、優しくジェイ・ゼルが指先でぬぐってくれていた。
 手が髪に滑り、あやすように、ジェイ・ゼルが撫でる。
 彼の手に、ハルシャは身を委ねた。

 長く穏やかに、二人は唇を合わせ続けた。
 魂と魂を、絡み合わせるように。



 *



「なぜ、ハルシャ・ヴィンドースを取り逃がしたのだ!」
 怒号が、ラグレン自由政府の執務室に響いた。

「彼らが作成していた駆動機関部に、違法性がみられなかったからです」
 怒りに顔を赤らめるレズリー・ケイマンへ、ラグレン警察署長は言葉を返した。
 淡々とした口調だった。

 平然とした様子に、苛々と机の上を指で叩きながら
「間違いなく、例の設計図を渡したんだろうな」
 と、ラグレン政府の最高責任者は言葉をこぼした。
「はい、間違いなく」
 くそっと、レズリー・ケイマン執政官コンスルは、小さく毒づいた。
「ハルシャ・ヴィンドースが気付いて、すり替えたのだろう。どうして、そう言って引っ張らなかった」
 まだ怒りを収めずに、執政官が言う。
 ラグレン警察署長は、微かに目を細めた。
「汎銀河帝国警察機構の警部が、協力を申し出て来ました」

 すっと、レズリー・ケイマンが、怒りを消して、ラグレン警察署長へ、顔を向ける。
「どういうことだ」
「ディー・マイルズという警部です。
 別件で調査を行っていたところ、スクナ人を使用している駆動機関部の噂を聞いたとかで、お節介にもこちらの調査に喰いこんできました」
 しばらく沈黙した後、ケイマンは口を開いた。
「で?」
「結果、帝星へ直接通信を入れ、彼らの駆動機関部は、一切スクナ人に関わっていないと、証明いたしました」
 レズリー・ケイマンの目つきが鋭くなった。
「何でそんなことを、させたんだ」
 小さくうなずいてから、ラグレン警察署長のウィルダイン・ハーベルは、彼のもっともな意見に、言葉を返した。
「予定では、汎銀河帝国警察機構の協力によって、ハルシャ・ウィンドースの有罪を、より強固に立証できるはずでした。間違いなく、彼らは違法な駆動機関部を、手がけていると――」
 きゅっと、金色のレズリーの眉が上がった。
 静かな口調で、ハーベル警察署長は続けた。
「ですが、末端で捜査に当たったものは、彼らが手掛けていた設計図が、我々が渡したものかどうか、確認する能力を欠いていたようです。
 そのために、かえって彼らの無実を証明することとなり、ハルシャ・ヴィンドースを、釈放せざるを得ませんでした」

 レズリー・ケイマンは、目を細めた。

「なぜ、汎銀河帝国警察機構の警部が、この件に関わってきたのだ」
「ハルシャ・ヴィンドースの同僚のオオタキ・リュウジという人物と、知り合いだったようです」
 ハーベル警察署長の声は、揺るがなかった。
「汎銀河帝国警察機構の捜査員は、相当の切れ者ぞろいです。
 我々が、強固にハルシャ・ヴィンドースの有罪を主張すれば、どうしてそこまでと、逆に疑いを抱かれかねません。
 今回は、引くことにした、というのが、正直なところです」

 沈黙した後、レズリー・ケイマンは口を開いた。

「ヴィンドースという名を持つだけで、あの赤毛の青年はみなの注目を集める」
 苦いものを吐き捨てるように、彼は呟いた。
「非常に、目障りだ」

 レズリーの言葉に、ラグレン警察署長は、瞬きをした。
「あまり、あの警部に深入りをされると、こちらの腹を逆に探られます。
 警部たちが仕事を終えて、惑星トルディアを去るまで、ハルシャ・ヴィンドースには、手を出さない方が、賢明かと」

 狸オヤジと陰で呼んでいるラグレン警察署長の言葉に、レズリーは沈黙を続けた。

「ハルシャ・ヴィンドースは、成人した」
 ぽつんと、彼は呟いた。
「本来なら、イズル・ザヒルの手元に置いて、永久にラグレンから消えていたはずだ」
 眼を細めて、彼は呟く。
「いまだに、ヴィンドース家を信奉する者は多い。ハルシャ・ヴィンドースがラグレンにいるかぎり、彼に援助の手を差し伸べようという輩が出てくるかもしれない。厄介だ」
 苦いものを吐き捨てるように、レズリー・ケイマンは呟く。
「非常に、厄介なことだ」

 呟きに、警察署長が微笑む。
「落ちぶれたヴィンドース家のみじめな暮らしを、皆に見せつけるだけでも、ここに残していた価値はあるのではないですか」

 ふんと、レズリーは鼻で笑った。

「同情票を得ているという、考え方もある」

 長い沈黙の後、レズリー・ケイマンは決断したように話しだした。

「いいだろう。帝星の警部が去るまで、ハルシャ・ヴィンドースについては、保留にしよう。彼らが去った時、改めて警察へ引っ張れ」
 薄青い瞳で、レズリーは警察署長を見た。
「今度は、しくじるな」

 手にしていた帽子をかぶりながら、ウィルダイン・ハーベル警察署長は、虚空へ視線を向けた。

「もちろん、そのつもりです。ケイマン執政官コンスル





※やっと、仲直りイチャイチャです。
 ハルシャを傷つけたことで、猛反省しているジェイ・ゼルは、自主規制中ですので、自身の快楽は求めなかったようです。(な、なので、この方向に……)
 ……華奢な机の脚が折れはしないかと、ハラハラしましたが、無事に耐えられたようです。良かったです。(なにせ、高価な調度品ですからね!)




 








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