こんな性急なジェイ・ゼルなど、見たことがなかった。
待てないという言葉通りに、再び熱で覆われ、翻弄される。
嵐のようだ。
唇を合わせた快楽に酔っている間に、いつの間にか自分の下穿きが、取り去られていた。すうっと、冷たい風を感じたときには、もう、服が床に落ちている。
潤みを帯びた目で、見上げたハルシャに、ジェイ・ゼルは優しく笑みをこぼす。
「きれいだよ、ハルシャ」
何かを返す前に、唇が再び覆われた。陶然とする中で、ハルシャの下の敏感な場所に、ジェイ・ゼルの細く長い指が優しく触れはじめた。
「んっ、ああっ」
もう熱を帯びていた先端は、濡れていた。そのぬめりを指に絡めると、ジェイ・ゼルは、そっと指を滑らせて、後孔に触れた。
はっと、ハルシャは目を開く。
まだ、準備など、なにも出来ていない。
その動揺を見てとったのか、ジェイ・ゼルが口を離して呟いた。
「大丈夫だよ、ハルシャ。指を一本入れるだけだ」
額に、唇が触れる。
「お願いだ、ハルシャ」
灰色の瞳が、すぐ近くで自分を見つめる。
目を細めて、彼は呟く。
「君を愛させてくれ――」
ぼんやりと見上げるハルシャに、微笑みを与えてから、ジェイ・ゼルの指がそっと、後孔に侵入してきた。
あまりぬめりの施されていない指の存在を、ひどく生々しく感じる。
びくっと身が反応した。
「可愛い反応だね」
ジェイ・ゼルが耳元で呟いた。
「準備をしなくても、君のここはきれいだよ、ハルシャ」
指をそっと入れながら、ジェイ・ゼルが呟いた。
「大丈夫だからね」
唇が、再び触れ合う。
優しく数度出入りしてから、目的を持った動きで、ジェイ・ゼルの指が、ハルシャの中を探る。
ぐっと、中が押された。
瞬間、ハルシャは叫んでいた。
強すぎる刺激に、がくがくと震える。
触れられると痛みのような刺激を覚える場所に、ジェイ・ゼルが直接触れていた。
「ああっ!」
もう一度、指が触る。
ハルシャの反応を見ながら、ジェイ・ゼルがゆっくりと身を起こした。
彼が遠ざかっていくのすら、知覚出来ないほど、内側の感覚に翻弄される。
静かに、敏感な場所を、ジェイ・ゼルの指が摺りあげる。前に押し込むように、時に、叩くように。
そのたびに、ハルシャは声を上げた。
「ここばかりだと、辛いからね」
ジェイ・ゼルは言いながら、そっとハルシャの昂ぶりを、空いている左手で捉えた。
「こちらも、刺激してあげようね」
竿を軽く握った手を、ジェイ・ゼルが柔らかく上下させはじめた。
びくっ、びくっと、身が痙攣するように、反応を示す。
「あ……ああっ……」
吐息のような声が、口から無意識に漏れ始めた。
「可愛いよ、ハルシャ」
声に、ハルシャは朦朧としながら、ジェイ・ゼルへ顔を向ける。
彼はいつの間にか椅子を引き寄せて、腰を下ろしていた。
そして、机に横たえたハルシャの両足を、肩に担いでいる。
自分の足の間に座を占めて、真剣な眼差しを注ぎながら、決して焦ることなく、ハルシャを高めていた。
意識を指先に向けているのか、微かに首を傾けながら、じっとハルシャの局部を見つめている。
凝視されている、彼に。
目にした事実に、顔が、赤らんでいく。
きゅっと身がしまり、ジェイ・ゼルの指を締めつけた。
反応に気付いたのか、ふっと、ジェイ・ゼルが視線を上げた。
眼差しが、出会う。
「気持ちがいいか、ハルシャ?」
指の動きを止めずに、ジェイ・ゼルが問いかける。
とてつもなく、豪華な部屋の、本来は食事に使われる瀟洒な机の上で。
あられもない姿で、自分は愛撫を受けている。
なんという、背徳的な行為だろう。
局部を相手にさらして、無防備に指を受け入れながら、それでも自分は感じていた。
これが
ジェイ・ゼルの愛し方なのだ。
互いの体を通じて快楽を分け合うことが。
彼の愛し方を、これまで知らなかった。
愛されていることにすら、気付かなかった。
「気持ちがいい。ジェイ・ゼル」
声が、潤む。
「ジェイ・ゼルも、気持ちがいいか?」
どうして、甘えるような声になるのだろう。
問いかけに、彼は微かに眉を寄せた。
「そうだよ、ハルシャ。君が私で快楽を得てくれている姿が――どうしようもなく、私を駆り立てる。見せてくれ、ハルシャ。私によって、君が乱れるさまを」
言葉が、滴る。
「私に――私だけに」
激情を秘めた瞳が、静かに自分に据えられてている。
人は、快楽を得るように作られている。
同じ『エリュシオン』の別の部屋で、薄闇の中に響いていた彼の言葉が、耳にこだまする。
私たちは、祖先の尊い資質を受け継いでいる。
銀河に散らばった今でもなお、原始と同じ行為を、続けるために。
太古の人類も、こうやって愛する者の手に高められて、快楽を得ていたのだろうか。
違う個として生まれたものが、求めあい、一つの存在となるために。
結びつきをより強固にしようと、身の内に、快楽の遺伝子が寄り添ってきたのかもしれない。
命を、未来に伝えていくために。
はるかな歴史の中で、ガイアに生まれた、最初の人類の事を、ハルシャは、ふと思った。
暗い洞窟の中で――彼らが愛し合ったからこそ、人類は栄えてきた。
彼らが伝えた快楽が、今も厳然として、命の中にある。
だとしたら。
この身がジェイ・ゼルを求めることも、許されるのだろうか。
たとえ、命を生まない交わりであったとしても。
これほどまでに、彼を求め、一つになろうとすることを――
宇宙は、許してくれるのだろうか。
「あああっ!」
不意に襲った快楽に身を反らして、ハルシャは叫んでいた。
温かなものが、ハルシャの敏感な昂ぶりの先端を包んでいる。
はっと、意識をジェイ・ゼルに向ける。
彼は、口にハルシャを含んで、静かに舌先で弄していた。
そんな。
洗ってもいないのに。
困惑から上げようとした声は、嬌声へと変じた。
舌で彼が強く、刺激を与えてくる。
揺さぶられる。
内側から決して強くない力で、刺激され続ける場所と、柔らかく昂ぶりを捌く手の動きと、亀頭に絡むジェイ・ゼルの舌の滑らかさと。
心を開いて受け入れた刺激が、どうしようもなく、ハルシャを高めて行く。
手に触れるものを、ハルシャはきつく掴んだ。
ジェイ・ゼルの服だ。
下に敷いた彼の服から、爽やかな馴染んだ香りが匂い立つ。
身を、包まれているようだった。
「あっ、あっ……あっ」
ジェイ・ゼルの指の動きに、短く息をもらしながら、ハルシャは声を上げ続けた。
柔らかい刺激が、蓄積するように、次第に身の内に熱として溜まっていく。
下腹部が、ぼんやりと温かい。
あの感覚だ。
一度乳首だけで達した時の、脱力するほどの快楽。
それが再び、身の内から湧き上がってこようとしている。
「あっ、くっ、ああっ」
首を振り、身をよじりながら、ハルシャは高められていく刺激に耐えた。
豪華な部屋の中に、自分の声が響いていた。
綾織りの純白のテーブルクロスの上に、ジェイ・ゼルの服に守られ身を横たえながら、自分は快楽に叫んでいる。
けれど、これまでのような羞恥を感じなかった。
ジェイ・ゼルの行為を、身体中で受けとめようとしているせいだろうか。
彼が、与えたいものを、受け取りたい。
けれど。
刺激が強すぎる。
「あああっ、ジェイ・ゼル!」
快楽に身悶えながら、ハルシャは内側からの声を放っていた。
「お、おかしくなりそうだ……」
小刻みに身が震える。
「大丈夫だよ、ハルシャ」
口を離して、ジェイ・ゼルが呟く。
「君はとてもきれいだ。快楽に頬を染めて、身をよじる様は――」
言葉の間も、指の動きが止まらない。敏感な場所を、擦り続ける。
短く声を放ちながら、それでもジェイ・ゼルへ視線を向ける。
熱を帯びた灰色の瞳が、自分を見つめる。
「ここには、私と君しかいない」
呟きながら、ジェイ・ゼルが微笑む。
「安心して、乱れていいんだよ。ハルシャ」
どうにかなって良いんだよ、とかつて呟かれた言葉が蘇る。
指の刺激が、不意に強くなった。
悲鳴のように叫んで、ハルシャは首をのけぞらせた。
再びジェイ・ゼルが、柔らかく局部の先を口に含む。
「はあっ、んああっ」
首筋をさらしたまま、ハルシャは刺激に声を上げる。
内側から、波のようなものが、襲いかかって来た。
瞬間、歯を食いしばって、ハルシャは衝動に耐えた。
ほどなく、ふっと、刺激が消える。
短い息を吸い込みながら、先ほどのは、何だったのだろう、と、ぼんやりする頭でハルシャは考えていた。
今まで感じたことのない種類のものだった。
身体の水分が、波になって打ち寄せたようだった。
刺激が薄れたことに身の力を抜いたとき、再び同じような衝撃が、内側から湧き上がって来た。
それも、盛り上がりを見せながら、ふっと消えた。
それから幾度か、波状に刺激が襲いかかる。
次第に大きく、間隔が短くなっていく。
息が、出来ない。
ジェイ・ゼルの動きが止まらない。
再び大きな波が、身の中から打ち寄せてきた。
それは、次第に内側を侵食するように広がり――唐突に、ハルシャを絶頂へと誘った。
幾度か高められ、引いた熱が、信じられないほどの激しさで、怒涛のように、押し寄せて来た。
飲み込まれる。
思った瞬間、意識がさらわれるほどの快楽が、突き抜けた。
絶叫していた
背中を反らして、そのまま身体を強張らせる。
瞬間。
敏感になりすぎた頂きから、ハルシャは精を放っていた。
頭が、真っ白になる。
ふっと気付いた時には、ジェイ・ゼルが天板に身体をぶつけないように、腕で抱きしめてくれているのがわかった。
びくっと、身が痙攣する。
彼は――昂ぶりを口に含んだまま、吐いたハルシャの精を、飲み下していた。
搾る様に、軽く吸われる。
「あっ」
小さく、声が漏れた。
舌が、敏感になった場所を舐めとる。
「ああっ!」
それだけで、ハルシャは虚空に再び叫んでいた。
びくびくと痙攣する身体が、ジェイ・ゼルの腕に包まれていた。
「ふうっ、ううっ……うう」
まなじりから、涙が滑り落ちた。
強すぎる刺激と、心をさらした不安定さに、抑えきれない涙が、あふれてくる。
幼い子どものように、息をするたびに、しゃくりあげていた。
足を肩から外すと、ジェイ・ゼルが身を乗り出すようにして、ハルシャの側へ顔を寄せる。
「きれいだよ、ハルシャ」
「うっ、ふうっ」
応えようとした声が、泣いた後のものに変わる。
ゆっくりと身を倒して、ジェイ・ゼルが涙を舐めとった。
「ハルシャ」
呼びかけに、きつく服を握りしめていた手を離して、ハルシャはジェイ・ゼルに腕を差し伸べた。
微笑むと、ジェイ・ゼルが頭の後ろに手をあてがい、そっと身を起こしてくれる。
机の端に腰をかけ、上半身を立てた状態で、ハルシャはジェイ・ゼルの腕に包まれていた。
「ハルシャ――」
呟いてから、ジェイ・ゼルが唇を覆った。
触れあった場所は、白濁した液と、涙の混じった味がした。
彼に、溶け込んでいくような気がする。
腕を首に絡めて、ハルシャは目を閉じた。
瞼を閉じたために、頬に流れ落ちた涙を、優しくジェイ・ゼルが指先でぬぐってくれていた。
手が髪に滑り、あやすように、ジェイ・ゼルが撫でる。
彼の手に、ハルシャは身を委ねた。
長く穏やかに、二人は唇を合わせ続けた。
魂と魂を、絡み合わせるように。
*
「なぜ、ハルシャ・ヴィンドースを取り逃がしたのだ!」
怒号が、ラグレン自由政府の執務室に響いた。
「彼らが作成していた駆動機関部に、違法性がみられなかったからです」
怒りに顔を赤らめるレズリー・ケイマンへ、ラグレン警察署長は言葉を返した。
淡々とした口調だった。
平然とした様子に、苛々と机の上を指で叩きながら
「間違いなく、例の設計図を渡したんだろうな」
と、ラグレン政府の最高責任者は言葉をこぼした。
「はい、間違いなく」
くそっと、レズリー・ケイマン
「ハルシャ・ヴィンドースが気付いて、すり替えたのだろう。どうして、そう言って引っ張らなかった」
まだ怒りを収めずに、執政官が言う。
ラグレン警察署長は、微かに目を細めた。
「汎銀河帝国警察機構の警部が、協力を申し出て来ました」
すっと、レズリー・ケイマンが、怒りを消して、ラグレン警察署長へ、顔を向ける。
「どういうことだ」
「ディー・マイルズという警部です。
別件で調査を行っていたところ、スクナ人を使用している駆動機関部の噂を聞いたとかで、お節介にもこちらの調査に喰いこんできました」
しばらく沈黙した後、ケイマンは口を開いた。
「で?」
「結果、帝星へ直接通信を入れ、彼らの駆動機関部は、一切スクナ人に関わっていないと、証明いたしました」
レズリー・ケイマンの目つきが鋭くなった。
「何でそんなことを、させたんだ」
小さくうなずいてから、ラグレン警察署長のウィルダイン・ハーベルは、彼のもっともな意見に、言葉を返した。
「予定では、汎銀河帝国警察機構の協力によって、ハルシャ・ウィンドースの有罪を、より強固に立証できるはずでした。間違いなく、彼らは違法な駆動機関部を、手がけていると――」
きゅっと、金色のレズリーの眉が上がった。
静かな口調で、ハーベル警察署長は続けた。
「ですが、末端で捜査に当たったものは、彼らが手掛けていた設計図が、我々が渡したものかどうか、確認する能力を欠いていたようです。
そのために、かえって彼らの無実を証明することとなり、ハルシャ・ヴィンドースを、釈放せざるを得ませんでした」
レズリー・ケイマンは、目を細めた。
「なぜ、汎銀河帝国警察機構の警部が、この件に関わってきたのだ」
「ハルシャ・ヴィンドースの同僚のオオタキ・リュウジという人物と、知り合いだったようです」
ハーベル警察署長の声は、揺るがなかった。
「汎銀河帝国警察機構の捜査員は、相当の切れ者ぞろいです。
我々が、強固にハルシャ・ヴィンドースの有罪を主張すれば、どうしてそこまでと、逆に疑いを抱かれかねません。
今回は、引くことにした、というのが、正直なところです」
沈黙した後、レズリー・ケイマンは口を開いた。
「ヴィンドースという名を持つだけで、あの赤毛の青年はみなの注目を集める」
苦いものを吐き捨てるように、彼は呟いた。
「非常に、目障りだ」
レズリーの言葉に、ラグレン警察署長は、瞬きをした。
「あまり、あの警部に深入りをされると、こちらの腹を逆に探られます。
警部たちが仕事を終えて、惑星トルディアを去るまで、ハルシャ・ヴィンドースには、手を出さない方が、賢明かと」
狸オヤジと陰で呼んでいるラグレン警察署長の言葉に、レズリーは沈黙を続けた。
「ハルシャ・ヴィンドースは、成人した」
ぽつんと、彼は呟いた。
「本来なら、イズル・ザヒルの手元に置いて、永久にラグレンから消えていたはずだ」
眼を細めて、彼は呟く。
「いまだに、ヴィンドース家を信奉する者は多い。ハルシャ・ヴィンドースがラグレンにいるかぎり、彼に援助の手を差し伸べようという輩が出てくるかもしれない。厄介だ」
苦いものを吐き捨てるように、レズリー・ケイマンは呟く。
「非常に、厄介なことだ」
呟きに、警察署長が微笑む。
「落ちぶれたヴィンドース家のみじめな暮らしを、皆に見せつけるだけでも、ここに残していた価値はあるのではないですか」
ふんと、レズリーは鼻で笑った。
「同情票を得ているという、考え方もある」
長い沈黙の後、レズリー・ケイマンは決断したように話しだした。
「いいだろう。帝星の警部が去るまで、ハルシャ・ヴィンドースについては、保留にしよう。彼らが去った時、改めて警察へ引っ張れ」
薄青い瞳で、レズリーは警察署長を見た。
「今度は、しくじるな」
手にしていた帽子をかぶりながら、ウィルダイン・ハーベル警察署長は、虚空へ視線を向けた。
「もちろん、そのつもりです。ケイマン
※やっと、仲直りイチャイチャです。
ハルシャを傷つけたことで、猛反省しているジェイ・ゼルは、自主規制中ですので、自身の快楽は求めなかったようです。(な、なので、この方向に……)
……華奢な机の脚が折れはしないかと、ハラハラしましたが、無事に耐えられたようです。良かったです。(なにせ、高価な調度品ですからね!)