ジェイ・ゼルは、ハルシャの側から動き、机の近くに寄る。
そこから、画面に映るギランジュの瞳の中の人物を見つめた。
認めた途端、不意に表情が引き締まった。
「シヴォルト、か」
囁くような声で、ジェイ・ゼルは呻きを漏らした。
大きくうなずいてから、リュウジが画面を元に戻して、映る椅子を指で示す。
「はい。今回の一連の出来事は、シヴォルトが裏で糸を引いていると考えれば、全ての辻褄があいます。この椅子を見て下さい」
ジェイ・ゼルの視線を、サーシャが横たわる椅子に導く。
「ハルシャと画像を見ていて、サーシャが寝かされている椅子のメーカーが、アジャスパ・ヴェルド社であることに気付きました。
個人用の宇宙船には、商品を卸さない会社です。
ですが、ハルシャの勤務している工場には、アジャスパ・ヴェルド社の中古の製品が、参考とするために倉庫にストックされていました。
シヴォルトはそれを知っています」
画面をのぞき込むジェイ・ゼルへ、リュウジは顔を向けた。
「工場の倉庫に、もし椅子が見当たらないとしたら、シヴォルトが運び出して、このために使っている可能性があります」
リュウジの言葉に、ジェイ・ゼルが目を細めた。
「今、それを調べるのは簡単だが、下手に動くとシヴォルトに気付かれるな。
あの工場の職員は、シヴォルトに手懐けられている」
「おっしゃる通りです。今、工場へ行くとしたら、僕とハルシャが残業ために戻った、と相手に思わせるのが無難でしょう」
ジェイ・ゼルが、灰色の瞳だけを、リュウジに向けた。
リュウジも、視線を向ける。
「ジェイ・ゼル」
静かなリュウジの声が、部屋の中に響いた。
「ハルシャから聞きました。あなたが見ていた僕たちの画像――それを渡してきたのは、シヴォルトではありませんか?」
空気が突然、緊迫感を含んだ。
無言でリュウジの顔を見守ってから、ジェイ・ゼルが口を開く。
「そうだ」
リュウジの推測の通りだった。
しゅっと、短くリュウジが息を吐いてから、口を開く。
「だとしたら、あなたは、シヴォルトに操作されたのです」
深く静かな響きでリュウジが呟く。非難も憐れみも何も籠っていない、淡々とした声だった。
「彼によってハルシャを憎むように、仕向けられたのです」
一瞬、ジェイ・ゼルの視線が、ハルシャへ向かった。
すぐに、瞳をリュウジに戻す。
リュウジは静かに続けた。
「サーシャを誘拐し、引き換えにハルシャの身柄を要求する――あなた方の関係を良く知っていないと思いつかない計画です。
計画を立てる段階から、シヴォルトは深くかかわっていたのでしょう。
ギランジュ・ロアはシヴォルトの協力を得て、今回の事件を起こしたのです。むしろ、シヴォルトの助けがなければ為しえなかった、と言い換えてもいいかもしれません」
真っ直ぐに、藍色の瞳が、ジェイ・ゼルを見つめる。
「ハルシャに対してあなたに疑念を抱かせ、そのタイミングでサーシャを奪い交換条件としてハルシャを渡させる。
非常によく、あなたの心理状況を考えた作戦です。
詳細は解りませんが、シヴォルトの目的はおそらく、あなたとハルシャの間を引き裂くことでしょう」
不意に顔を強張らせると、リュウジは語調を強めて言った。
「ジェイ・ゼル。醜悪なシヴォルトの思惑に乗せられて、もうこれ以上、ハルシャを傷つけないでください」
必死な想いが伝わる、言葉だった。
「ハルシャは、記憶を失った見ず知らずの僕を、安全な生活が出来るように、手厚く保護してくれました。
シヴォルトに何を言われたかは知りませんが、ハルシャは僕を、サーシャと同じように家族として扱ってくれています。
あなたが誤解するようなことは、何もないのです」
言葉を切ってから、リュウジは相手の表情を見守っていた。
わずかに眉を寄せて、ジェイ・ゼルは見返している。
ひどく柔らかい心の場所に、斬り込まれたような表情だった。
しばらくジェイ・ゼルを見つめてから、リュウジが微笑んだ。
「それでも――僕がハルシャの側に居たら、気に入りませんか」
ジェイ・ゼルは口を開かなかった。
ふっと語調を和らげて、リュウジは続ける。
「ハルシャから、借金のことも聞きました。あなたとの契約のことも」
側で聞いていたハルシャは、かあっと頬が赤くなっていくのを止められなかった。
リュウジが、そんなハルシャを見てから、顔をジェイ・ゼルに戻した。
「ハルシャは、誠実で優しい人です。その人柄を深く理解していたら――シヴォルトの悪意に踊らされることなどなかったと、僕は思うのですが。
いかがですか、ジェイ・ゼル」
なぜか、闘いを挑むような口調だった。
リュウジの藍色の瞳が、真っ直ぐにジェイ・ゼルをねめつけるように見る。
「お願いです。ジェイ・ゼル。もう二度とハルシャを傷つけないでください」
感情をわざと押し込めたような、低い声で、リュウジが呟く。
ジェイ・ゼルは、無言だった。
メリーウェザ医師は、リュウジが激怒していたと教えてくれていた。
もしかしたら今も、彼は腹の底にジェイ・ゼルへの怒りを抱えているのだろうか。
自分に対しては穏やかな口調でしか話さないリュウジの、尖りのある言葉が胸を打った。
「リュウジ」
ジェイ・ゼルを追いつめるリュウジの肩に、思わず動いてハルシャは触れた。
「もう、いい……」
ハルシャの呟きに、顔を巡らせて彼が見上げてくる。
藍色の瞳の奥に、激しい炎のようなものが揺らめいていた。
やはり、彼は激怒しているのだ。
「大丈夫だ、リュウジ。私なら……」
炎を鎮めようと、懸命にハルシャは言葉をかけた。
無言で見返してから、ふっとリュウジは画面に顔を戻した。
「ハルシャ」
穏やかな口調に戻り、彼が自分に言葉をかける。
「今回のことにシヴォルトが関わっているとすれば、ラグレンの中で彼が関係している施設を探す方が早いと思います。自宅や、あれば別荘、もしくは短期間借りることが出来る施設――」
リュウジは会話の流れを変える。
個人的なことから、急務であるサーシャを救うためのものへと。
ようやく、ジェイ・ゼルが動いた。
傍らの椅子を引き寄せて、リュウジの側にジェイ・ゼルは腰を下ろした。
「君の提案によって、バルキサス宇宙空港で十標準時以降の出発を予定している宇宙船を探させた」
机に肘をつき、長い脚を優雅に組んで、ジェイ・ゼルがリュウジへ視線を送る。
「ご名答だ、リュウジ。十二標準時後、惑星トルディアを離陸する宇宙船の中に、ギランジュが保有している
今は宇宙空港のDエリアで待機中だそうだ。荷物の積み込みの様子もない。
部下に動向を見張らせているが、必要があれば、強制的に中に押し入ることも出来る。どうする」
ジェイ・ゼルの言葉に、しばらく考えてから
「必要ないでしょう。今は、まだ」
と、小さくリュウジが呟いた。
「それより、シヴォルトがギランジュをかくまいそうな場所を、探し出すのが先決だと思います。
あまり街中ではなく、女の子を運び込んでも誰も気づかない場所。
映像では、かなり天井が高いです。
宇宙船のような内部構造を持ち、通信設備がある場所――」
「調べてみよう。シヴォルトが関わっていた倉庫が、ラグレン郊外にいくつかある」
ジェイ・ゼルの答える言葉に、リュウジが首を揺らした。
「倉庫というのは、可能性が高いかもしれません。ギランジュの声が妙に響いているのが気になりました。倉庫のようながらんとした場所なら、声があんなふうに響くことも考えられます」
明瞭なリュウジの意見に、ジェイ・ゼルが言葉を返した。
「すまないが、リュウジ。床の様子や、画像のどこかしらに場所を特定する手がかりがあるかもしれない。もう少し詳細に見てくれないか。
それとあの画像をマシューたちにも見てもらいたい。瞳を拡大して、そのまま停止しておいてくれ」
ジェイ・ゼルは服から通話装置を取り出すと、手早く番号を押した。
「ああ、マシュー。こっちへ来てくれないか。見せたいものがある。そうだな、レイノルズも連れてきてくれ。
来るときに、私の保有する倉庫の場所が解るものを持ってきてくれるか。
ああ、地図が入っているのが良い。頼むよ」
マシュー・フェルズと、レイノルズ・ダガンの二人を呼んだようだ。
二人は、ジェイ・ゼルの信頼する部下たちだった。
「ついでに、倉庫の地図も持ってきてもらうことにした」
通話装置を切りながら、ジェイ・ゼルが静かに言う。
リュウジは、考え込んでいた。
「サーシャが消えてから、二時間ほどで、ギランジュは連絡を入れてきました……」
思索を巡らせながら、呟く。
「サジタウル・ゲートは、抜けるまでに一時間ほどかかります。一番近隣の惑星トルディアの都市はここからどの位ですか?」
ラグレン以外の都市を、リュウジは聞いている。
ジェイ・ゼルがゆったりとした姿勢のまま、答える。
「一番近いのは、都市アゼリアだ。ここからだと、一時間ほどになる」
「都市アゼリアにも、ゲートがありますよね? だとすれば、サーシャをさらってから、サジタウル・ゲートを抜け、さらに一時間かけて都市アゼリアに入り、そこから潜伏場所に行く、と考えれば、三時間ほど必要になります」
リュウジは、顔を上げて、ジェイ・ゼルを見た。
「総合して考えると、やはり、ギランジュ・ロアとシヴォルトは、ラグレン近郊に潜んでいるとするのが妥当だと考えられます。
恐らく、都心から一時間ほどの、近隣に住居がない場所に。突発的ではなく、周到に潜伏場所を用意していたのでしょう。
あなたが見た僕たちの画像は、二日前に撮影されたものです。
画像を用意してから、サーシャをさらうタイミングを考えて、シヴォルトはあなたに渡したと考えられます」
ふっと、ジェイ・ゼルが視線を落とした。
シヴォルトに踊らされたという事実を、静かに胸の中で反芻するように。
彼は、沈黙を続ける。
リュウジはじっと、ジェイ・ゼルの顔を見守っていた。
「人の悪意は底知れないものです――悪魔を身に潜めているかと思えるほど、人はひどく残酷にもなれるのですよ、ジェイ・ゼル」
ハルシャに聞かせた言葉を、再びリュウジが口にしている。
「その悪意から、サーシャとハルシャを守って下さい――二人を大切だと思うのなら」
切実な声で、リュウジが呟く。
「彼らは庇護する両親を失い、どこに頼ることも出来ないのです。厳しいオキュラ地域に暮らし、たった二人で支え合いながら生きているのです」
しんと静まり返った部屋に、ノックの音が響いた。
マシューたちだ。
「入ってきてくれ、マシュー」
リュウジから目を逸らさないままに、ジェイ・ゼルが口を開く。
「失礼します」
マシューたちが部屋に入ってきて、ジェイ・ゼルの説明を受けてから、リュウジの側で画像をのぞき込む。
ひそめた感嘆の声を上げながら、二人は瞳に映る人物が、シヴォルトだと認めた。
「下手に動くと、シヴォルトに悟られる。絶対に彼らに悟られるな」
言ってから、ジェイ・ゼルは指示を与えた。
「今、時刻は午後五時過ぎ。ギランジュは十標準時後の連絡を求めてきた。ラグレン時間だと、日付を越えて午前二時ぐらいになる。
これから、シヴォルトが潜みそうな場所を探して人を配置する。
シヴォルトの自宅――まず、彼が自宅にいるかどうかを確認してくれ。ただし、気付かれるな。
それと、今マシューが持ってきてくれた倉庫をしらみつぶしに当たって行こう。
奴らは恐らく、気を失ったサーシャを運ぶために飛行車を使っているだろう。
普段は無人の倉庫に、飛行車が置いてあれば極めて疑いが深くなる。
ただし、こちらが探っていることを探らせるな。
シヴォルトたちの所在が確認できたら、救出の方法を考えよう」
ジェイ・ゼルの指示に、マシューたちがうなずいた。
リュウジは彼らに、対ショック用の椅子の話もして、もし、アジャスパ・ヴェルド社の製品が保管されている倉庫があれば、特に注意をしてくれと依頼をしていた。
同じ部屋の中で、ジェイ・ゼルはマシューたちと倉庫の確認を行い、派遣する部下たちを決めていた。
三次元映像で浮かぶ倉庫の見取り図を見て、詳細に話をしている。
ハルシャは、リュウジの横で、床の模様や周囲の様子を仔細に見ていく。
「床も、宇宙船らしき素材を使っていますね――恐らく、引いてから椅子をセットしたのでしょう。シヴォルトたちは用意周到ですね」
小さく、リュウジが呟く。
気付いたことを、ジェイ・ゼルを呼んで彼は告げる。
傍らでのぞき込みながら、ジェイ・ゼルが頭を揺らした。
「この画像だけでは、解らないということだな。ありがとう、リュウジ。
今、マシューたちとも話していたのだが、ギランジュは、私たちの他にも、ラグレンで宇宙船の部品の取引先がある。そこの工場と倉庫も視野に入れて、探ってみるよ」
画面を見つめたまま、ジェイ・ゼルが呟く。
「そこが、アジャスパ・ヴェルド社の椅子を、保管している可能性もあるからな」
すっと、リュウジとジェイ・ゼルが視線を交わした。
互いの力量を知り、同じ目的に向かって協力を始めたような雰囲気が、束の間二人の間に流れた。
口角を少し上げると、ジェイ・ゼルはリュウジの側を離れて、自分の部下の元へ行く。
最終確認を終えたのか、ジェイ・ゼルは立ち上がった。
「事務室に戻って、部下に指示を与えてくる。君たちはここにいてくれたらいい。また何かわかったら、伝えに来る」
てきぱきとした言葉を口にしてから、ジェイ・ゼルがマシューたちを引き連れて、部屋を出ようとした。
「すみません、ジェイ・ゼル」
突然、リュウジが口を開いた。
進みかけた足を止めて、ジェイ・ゼルが振り向く。
「どうした、リュウジ。何か言い忘れたことでもあるのか?」
「いえ――あの。僕の知り合いに、協力を求めてもいいでしょうか」
わずかに、ジェイ・ゼルが眉を上げた。
「どんな人物だ。メリーウェザ医師か?」
リュウジが小さく首を振った。
「都心ラグレンに長期滞在をしている帝星からの旅行者で――ヨシノさんといいます」
上がっていたジェイ・ゼルの眉が、静かに寄せられた。
「帝星からの旅行者に、どうして協力を求める必要があるんだ、リュウジ?」
疑念を含んだ言葉で、やんわりとジェイ・ゼルが問い返す。
言葉を選びながら、リュウジが彼の疑念に答える。
「駆動機関部に興味があるということで、偶然お会いしたのですが、実は、ヨシノさんは帝星で、セキュリティ関係のお仕事をされているそうなのです。
要人の警備や、時には誘拐された人物の救出も行うと、お話のついでにうかがったことがあります」
もしかしたら。
ハルシャは、話を聞きながら、駆動機関部に興味を持った人物とは、リュウジが廃材屋に案内した人だろうかと思いを巡らせる。
その時に、彼はファグラーダ酒で泥酔し、手の傷もあってひどく発熱した。
ヨシノ、というのだ。
ハルシャが思いに沈むのをよそにして、リュウジが話を続ける。
「もし、ジェイ・ゼルが嫌でなければ、今回のサーシャの救出に、彼の意見が採用出来れば、ありがたいのではないかと思ったのですか」
いかがですか? と問いかける眼差しを、リュウジがジェイ・ゼルに向ける。
ジェイ・ゼルは、考え込んでいた。
「君が」
沈思黙考してから、口を開く。
「彼の協力を仰ぐ必要があると思うのなら、連絡を入れればいい。君の考えを尊重しよう」
ほっと、リュウジが肩の力を抜いた。
「ありがとうございます、ジェイ・ゼル」
思った以上に、リュウジは安心したようだ。顔が明るくなった。
「通話装置をお借りしても良いですか。ヨシノさんから伺っている番号にかけて、お話をしてみます」
ジェイ・ゼルがうなずく。
「マシュー」
指示を与える。
自分たちが使っていた電脳には、どうやら通話装置が入っていたらしい。
マシューが近づき、画像を一時小さくしてから、通話装置を立ち上げた。
「これを、お使いください」
「ありがとうございます、マシューさん」
ハルシャは気付く。
マシュー・フェルズに対しては、さん付で名を呼ぶのに、リュウジはジェイ・ゼルを呼び捨てにしている。
意外だ。
機嫌よくジェイ・ゼルたちを部屋から送り出してから、リュウジは通話装置に向かった。
「今からヨシノさんに連絡を入れますが、ハルシャも側にいて下さい。サーシャの兄から直接説明してもらった方が、ヨシノさんの協力が得やすいかもしれません。ご安心ください、僕もちゃんと口添えしますから」
と、ジェイ・ゼルが使っていた椅子を、さらに自分に引き寄せて、ハルシャに座らせた。
「ええっと」
言いながら、リュウジは番号を空で押していく。
彼の数字の暗記能力は、凄まじかった。十一桁の数字を、難なく押していく。
ぼやっと、画像が揺れてから、画面に黒髪の青年が映し出された。
隙のない雰囲気を湛えた人だった。
「こんにちは、ヨシノさん。リュウジです」
打ち解けた口調で、リュウジが言う。
黒い髪の、細面の青年が、リュウジに気付いて静かに頭を揺らす。
『こんにちは、リュウジくん』
深く静かな声だった。
「今、お時間を頂いても良いですか、ヨシノさん」
『いいよ。今は宿泊施設に戻ってきているところだから――何かな?』
「それは良かったです。実は――」
リュウジが、丁寧に言葉を尽くしながら、ハルシャの妹が、誘拐されたことを話し、ヨシノさんがセキュリティ関係のお仕事をされているというので、ぜひご意見とご協力を仰ぎたいと、連絡を入れた説明をする。
『それは、大変だね』
ヨシノさんが、同情を込めた瞳でハルシャを見る。
『ちょうどいい、と言っては不謹慎かもしれないが、実は帝星から数日前来た知り合いが、今ここに居る。彼の協力も得られれば、より安全に君の妹さんを救出できるかもしれない』
彼は振り向くと、部屋のどこかにいるらしい人物を、画面の前に呼んだ。
警部、という言葉が響く。
ん―、どうした。
という言葉と共に、姿を見せた人物に、ハルシャの心臓が大きく跳ね上がった。
それは、夜明けの中で出会った、帝星からやって来たディー・マイルズと名乗る人物だった。
彼は、リュウジを探している。
記憶を失っているリュウジを求めてやってきた、彼に――リュウジの存在が知られてしまう。
あまりに不意打ちの出来事だった。
リュウジを失う衝撃に、ハルシャは息すら出来なかった。