請け合う言葉に、ハルシャはかすかに首を傾げた。
その隙を狙うように、ジェイ・ゼルの指先が、忘れた刺激を胸の尖りに与えてくる。
あっと、ハルシャは再び声を上げてしまった。
頬を染めて、唇を噛み締めるハルシャを見つめてから、
「すぐに楽にしてあげるよ、ハルシャ――私に任せてご覧」
と、ひどく重い声で呟いた。
与えられる刺激に、次第に思考が鈍っていく。
「わ、解った。ジェイ・ゼル――お願いできるだろうか」
苦しさから脱したくて、半ば無意識に呟いた言葉に、ジェイ・ゼルが顔を寄せて、唇を覆った。
望んだ言葉を呟いたハルシャの唇を、褒めるような動きだった。
ゆっくりと唇を離しながら、彼が呟いた。
「そうしたら、ハルシャ。私に背中を預けて、膝の上に座ってくれるかな」
ためらいはあったが、楽にして欲しい一念で、ハルシャは胡坐をかいたジェイ・ゼルの膝の上に背中を預けて座っていた。
身をもたれさせる。
森に背を向けて、コスモス畑に顔を向けて――
後ろから手を回して、抱きすくめるようにして、ジェイ・ゼルが胸の尖りをゆっくりと指先で刺激をしている。
声が漏れそうになる。
まろやかに指先を動かしながら、ジェイ・ゼルが
「あまり大きな声を出したら、誰かが来たときに……私たちが、ここで何をしているか、バレてしまうかもしれないね。ハルシャ」
と、耳元に口を寄せて呟いた。
はっと、ハルシャは口をつぐむ。
瞬間、ジェイ・ゼルが指の力を強くした。
「ああっ!」
と、ハルシャは声を思わず上げてしまった。
彼に行為の最中は、心のままに叫ぶように慣らされているからだ。その癖が、つい出てしまう。
くすっと、小さくジェイ・ゼルが笑う。
「ハルシャは、積極的だね」
「ち、違う」
「ここで私たちが愛し合っていることを――他の人に知られても、いいのだね」
指がきゅっと、乳首を摘まみ上げた。
「ああああっ!」
反射的に叫ぶ。
「私は、それでいいよ。ハルシャ」
優しい呟きが、後ろから聞こえる。
「とても誇らしいことだからね。君を愛することは」
ハルシャはぎゅっと唇を噛み締めて、口の上を自分の手で覆った。
どんな刺激にも声を出すまいと、必死に防御する。
「そうだね。そうすれば、不慮の事態が起こっても、大丈夫かもしれないね」
ジェイ・ゼルが感心したように言う。
つまんでいた指が緩み、再び尖った上を、優しく指先が円を描くように丸く動く。絶え間なく与えられる刺激に、下腹部が重く甘くなっていく。
下に、触って欲しくて、腰が揺れる。
身を捩りながら、ジェイ・ゼルに与えられる刺激に、耐え続ける。
ジェイ・ゼルは服の上から、執拗に乳首を責め続けていた。
自分の口を手で塞いでいるのに、喘ぎがそこから漏れてきてしまう。
身を反らして、苦痛のような甘い責め苦に痺れる熱を逃がす。
「もし」
不意に、ジェイ・ゼルの言葉が耳元に、落とされた。
「誰かが来たら、どうしようね、ハルシャ」
誰かに、自分の姿を見られる。
様子を思い描いただけで、身がぴくっと、震えた。
「今、想像しているのだね、ハルシャ」
思考を読み切ったように、ジェイ・ゼルが呟く。
「君は優秀だね。きちんと想像できるようになったのだね」
賞賛のこもった声で、彼は続ける。
「それなら、想像してみようか、ハルシャ――」
重く耳元で言葉を滴らせながら、ジェイ・ゼルは続けた。
「今、人が森の中を歩いてきている。木漏れ日の中を歩いて、もうすぐ森の切れ目に出る」
言葉が本当になりそうで、ハルシャは慌てて先ほど自分たちが出て来た小径へ視線を向ける。
くすっと、ジェイ・ゼルが笑う。
「もしもの話だからね。本当ではないから安心していいよ」
そういわれても、誰かが来るのではないかと、ジェイ・ゼルの真実味のある言葉に思ってしまう。
かりっと、刺激が鋭くなった。
指の腹で撫でていたのが、爪への刺激に変わったのだ。
びくっと、身が反る。
「もし人が来たら――まず、コスモスを見るだろうね。ほら、ハルシャ……この目の前にあるコスモスだよ」
言われて、ハルシャは視線を前に向ける。
風に、ピンクの花が揺れている。
美しさに目を奪われていても、身に与えられる刺激が、確実に熱を積み上げていく。
こんなに美しい風景の中で、自分は胸を愛撫されて、あられもない痴態を演じている。
その背徳感が、奇妙な熱を身の内に呼び起こす。
「コスモスを見て、きっと丘に登るだろうね。その丘から見下ろした時――」
ゆっくりと、指先が胸の尖りの横を刺激する。
「もしかしたら、ハルシャのこの姿に、気付かれてしまうかもしれないね。
私の指で敏感な乳首を愛撫されて、感じている姿を――頬を染めて、喘いでいる様を」
びくっと、身が震える。
「想像したんだね、ハルシャ」
ジェイ・ゼルの声が耳朶に触れる。
それすら、刺激として体が拾い上げる。
急速に、重たい快楽が下腹部に溜まっていく。
腕に力が入らなくなってきて、ハルシャの口元から手が外れた。
抑えようのない喘ぎが口からあふれる。
「まあるく刺激をすると、君の乳首は、もっと触って欲しそうに震えるよ」
あられもない言葉に、身を捩って快楽に耐える。
ふっと息が後ろから耳朶に触れた。
「もう、服の上からだけでは、満足できないのかな。
直接触ってあげようね」
するすると服の下から手が滑り込み、尖りに直接指先が触れる。
瞬間、ハルシャは叫んでいた。
右と左と。異なる種類の刺激が与えらる。
右は優しく撫でるが、左は摘まみ上げられる。
同時に与えられる二つの刺激の違いが、まるで脳を混乱させるように、急速に快楽へと叩き込んでいく。
「ああああぁっ!」
叫ぶハルシャの耳に、ジェイ・ゼルが呟く。
「こんなに乳首で感じている君を、見たらどんな風に思われるだろうね」
羞恥が、かえって自分を追い込んでいく。
「みんなに見られながら、乳首で達してしまったら――どうしようね、ハルシャ。想像してご覧。ほら、皆が君の可愛い様子を見ているよ――こんなにも敏感な乳首で、快楽を得ている様を……」
誰かが、自分を見ている。
想像した瞬間、羞恥が激しく身を流すように、快楽が走り抜けた。
嫌だ、恥ずかしい。
と思うのと同時に、人目にさらされながら快楽を得ていることが――
矛盾をはらみながら、絶頂へとハルシャを突き上げていった。
虚空に叫びながら、ハルシャは中だけで絶頂を迎えていた。
がくがくとする身に、まだ刺激が与えられる。
ジェイ・ゼルは、中で達しているときには、畳みかけるように刺激を与えてくる。重ねられる絶頂は次第に重く、激しく、深くなる。
以前に乳首で達した時よりも短い間隔で、二度目の重い快楽が襲った。
いつもと違う環境のためだろうか。
身を捩るほど激しく、突き抜けるような絶頂だった。
あまりの激しさに、身を反らして、ジェイ・ゼルの肩に後頭部を預ける。
思わず、目尻に涙が滲む。
短い息を吐くハルシャの様子に気付くと、ジェイ・ゼルは手を止めた。
「強すぎたか? ハルシャ」
言いながら身を動かして、顔をのぞき込む。
目に浮かぶ涙を見ると、ジェイ・ゼルが眉を寄せた。
「――恥ずかしかったのか、ハルシャ?」
解らなかった。
ジェイ・ゼルは、こんな追い込むようなことを、いつもは言わない。
なのに、今日は違った。
荒い息を吐くことしかできない。
ますます眉を寄せて、ジェイ・ゼルが呟いた。
「早く達させてあげようと思って、煽りすぎてしまったのだね。すまない、ハルシャ」
早く、達するために?
言葉が言えないままに、ハルシャは眉を寄せて目で問いかける。
「ハルシャは恥ずかしがり屋だからね、誰かに見られるかもしれないと思うと、余計に追い詰められて、早く絶頂を迎えることが出来ると思ったのだよ。
万が一にも――」
そっと後ろからジェイ・ゼルが抱きしめた。
「君のこんなに乱れる姿を、他人には見せたくないからね。誰かが来る前に、早く楽にしてあげようと思ったのが、裏目に出てしまったね」
浅い息しか出来ずに、ハルシャは涙を溜めた目で、ジェイ・ゼルを見つめる。
彼は困ったように笑うと、後ろからハルシャの膝に手を差し入れて、横向けに身を動かした。
横抱きにして、腕に包むと髪に頬を押し当てた。
「恥ずかしかったのだね。すまなかった、ハルシャ」
短い呼吸を繰り返して、ハルシャはまだ身の奥にある快楽に、酔っていた。
詫びを呟くジェイ・ゼルの頬に手を触れると、体を伸ばすようにして彼の唇を求めた。
気付いたジェイ・ゼルが、優しく覆ってくれる。
詫びるような、穏やかな口づけだった。
「少しは、楽になったかな?」
唇を触れ合わせた後、ジェイ・ゼルが問いかける。
ハルシャは、何とかうなずいた。
確かに、体は楽になったが、それに代わるほどの虚脱感が身を覆う。
言葉を失くしてぐったりするハルシャを、ジェイ・ゼルは丁寧に敷物に横たわらせた。
ジェイ・ゼルの太腿を枕がわりにして、ハルシャは敷物に寝そべっていた。
「少し、こうして休もうか。時間はたっぷりあるから、安心しておくれ、ハルシャ」
太腿に預けた頭を撫でながら、ジェイ・ゼルが呟く。
絶頂の後弛緩する体を、ひんやりとするシートに横たえ、ハルシャは眼を閉じた。
鳥の鳴き声がする。
穏やかに髪が撫でられていて、微睡がふわりと身を覆う。
風が大地を渡る音と、鳥の声と。
自然が奏でる音だけが響いている。
目を閉じて、うとうととするハルシャの耳に、ジェイ・ゼルの声が聞こえた。
「ラグレンにいたとき」
空耳かと思えるほど微かな声だった。まるで独り言のように、虚空に消える。
「君とこんな風に関わりたかった」
ぽつんと、言葉が滴る。
ハルシャは目を開いて、ジェイ・ゼルへ視線を向けた。
彼は、コスモスが広がる大地を見つめていた。
「君を慈しみ、嫌なことなど一つもさせずに……私の傍で、笑っていてほしいと、心から願っていた」
横たわり見上げるジェイ・ゼルは、ひどく傷ついた人のように思えた。
「叶えられない夢だと思っていたが――」
言葉が途切れ、ジェイ・ゼルが視線を降ろしてハルシャを認める。
彼は優しく微笑んだ。
「今こうして、君とコスモスを眺めていられる。それが、嬉しくて仕方がないのだよ、ハルシャ」
楔を胸の内に打ち込まれたような気がした。
ジェイ・ゼルは。
借金を自分から取り立てながら、本当は深く傷ついていたのだ。
彼は『ダイモン』の命令で、ハルシャに厳しい生活を強い、借金を返済させていた。けれど、それは彼が望んだことではなかったのだ、と。
こぼれ落ちた言葉から、深くはっきりと悟る。
彼はずっと――自分とこうして暮らしたかったのだ。
お互いをいたわり合い、愛し慈しみ、互いの幸せだけを祈りながら、日々を重ねる。
それがラグレンでのジェイ・ゼルの夢だったのだ。
ふっと、彼が笑う。
「夢は、叶えられるものなのだね」
こぼれ落ちた言葉の優しさに、ハルシャの胸の奥が甘く痺れていく。
「別れていても、君が手紙を書いてくれたから、少しも辛くなかったよ。いつも最後に、必ず迎えに行くと書き添えてくれていたね。それがどれだけ私を支えていてくれたか、言葉に出来ないほどだよ。ハルシャ」
落とした視線に自分を捉えて、ジェイ・ゼルが髪を優しく撫でる。
「七年間、君を毎日想っていた。誰にはばかることもなく、君を胸の中に抱き締めていた。
だから――」
微笑みが、こぼれる。
「少しも苦労などしていないよ。君を想える、極上の時間を過ごしたのだからね」
ジェイ・ゼルは。
七年の服役生活で、体調を崩していた。
惑星ガイアでの逗留が長くなったのは、彼がずっと微熱を発して、食欲が極端に落ちていたからだった。
少しも辛くなかった。平気だったよと、いう言葉の裏で、彼の身体は無理な生活に痛めつけられていた。
それでも。
ジェイ・ゼルは一言も、不平や不満を口にしなかった。
七年で刑を済ませてもらうのは破格の温情だと、警察機構への感謝を口にする。
ジェイ・ゼルは、そういう人だった。
どんなに苦しくても、辛くても、相手のためにその思いを飲み込んで、微笑みに変える。
その優しさに包まれて、自分は生きて来た。
ラグレンで……一番辛かったのは、ジェイ・ゼルだ。
五年間、彼の愛撫を拒み続けた自分を、彼は決して見捨てなかった。
そして、今も昔も――
同じ眼差しを注いでくれている。
出会った時から、少しも変わらぬ愛情を、自分は身に浴びていた。
「ジェイ・ゼル――」
それ以上の言葉が出ない。
ふっと彼は笑って、ハルシャの髪に指先を滑らせる。
「本当はね、君と一緒に暮らすのが夢だった。その夢も叶えることも出来たからね」
再び、ジェイ・ゼルが視線をコスモス畑へ向ける。
「これ以上を望んだら、ばちが当たるね」
微笑みながら言葉が滴る。
愛しさが胸を締め付けた。
ふと、自分が枕にしている足の間の存在に気付く。
ハルシャは腕で身を支えて、体を浮かせた。
そっと、手で彼の足の間のものを撫でる。
はっと、ジェイ・ゼルがコスモス畑から慌てて顔をハルシャの手のところへ戻した。
「……ハルシャ」
戸惑ったような声が聞こえる。
ハルシャは、横たわったまま、顔だけ上げてジェイ・ゼルを見上げた。
「ここが、大きくなっている。ジェイ・ゼル」
先ほど彼に言われたように、ハルシャは事実を指摘してみた。
困ったように、彼が微笑む。
「気付かれてしまったね」
笑いながら、ジェイ・ゼルはハルシャの髪を撫でる。
「君があまりにも可愛かったからね、つい、君が欲しくなってしまったのだろうね。でも、大丈夫だよ。もう少ししたら、落ち着くからね」
ハルシャは、足の間に顔を戻す。
そうだろうか。
存在をとても主張しているように見える。
再び顔を上げて、ジェイ・ゼルへ
「だが、苦しそうだ」
と、危惧を滲ませた言葉を呟く。
ジェイ・ゼルは小さく首を振った。
「大丈夫だよ。そういう訓練を私は重ねてきているからね」
彼の言い方に、心に刺さるものがあった。
恐らく。
惑星アマンダで、彼は厳しい訓練を積まされたのだろう。
さらりと、過酷な過去を、彼は言葉に乗せる。
「――私に」
ハルシャは、見上げたまま懸命に言葉を続けていた。
「ジェイ・ゼルを楽にさせてほしい。いいだろうか」
言葉の意味が、ぴんと来ないように、ジェイ・ゼルはしばらく沈黙していた。
顔を真っ赤にしながら、ハルシャは小声で付け加える。
「こっ、口淫で……その、ら、楽に――」
言ってから、燃えるように顔が赤くなる。
ジェイ・ゼルが困ったように、再び笑った。
「気持ちはとても嬉しいけれどね、ハルシャ。それこそ、人が来たらどうしたらいいんだろうね。ハルシャは恥ずかしいだろう?」
「だ、大丈夫だ」
彼が愛しくて、言葉を絞っていた。
「ジェイ・ゼルを、愛するのは、恥ずかしいことではない。むしろ、誇らしいことだ」
さっき、ジェイ・ゼルが言ってくれたことを、そのまま返す。
彼の顔から、笑みが消えた。
ジェイ・ゼルは真剣になると、普段は浮かべる余裕の笑みを消す。
「――ハルシャ」
「ひ、人が来る前に、終われば良いのだろう。大丈夫だ、ジェイ・ゼル」
そっと、昂ぶりに服越しに触れる。
「とても辛そうだ。ジェイ・ゼル」
顔を上げて、彼を見つめる。
「先程楽にしてくれたように、私もジェイ・ゼルを楽にしてあげたい。だめだろうか」
「――風呂で清めていない。ハルシャには辛いだろう」
それが理由の全てであるように、ジェイ・ゼルがやっと笑顔になって言う。
「君のその気持ちだけで十分だよ。ありがとう」
以前に、ジェイ・ゼルは自分を口に含んでくれた。
憶えている。
ラグレンで、この上なく高級な『エリュシオン』の一室で――取り調べを終えた自分の昂ぶりを、何の迷いもなく口に含み愛撫してくれた。
その優しさと愛情の深さが、今も心に残っている。
「大丈夫だ、ジェイ・ゼル。どんなあなたでも、私は受け入れられる」
ハルシャは、身を起こすと、彼が胡坐をかく足の間に顔を埋めた。
「っ。ハルシャ」
切羽詰まった、ジェイ・ゼルの声がする。
それを聞き流して、ハルシャは彼の前を解放した。
僅かに肩がジェイ・ゼルによって、止めるように押されたが、無視した。
昂ぶりが、服からこぼれおちた。
丁寧に服から出すと、見慣れたジェイ・ゼルの形が太陽の光の下に現れる。
「――ハルシャ。もう」
彼の言葉を、再び無視する。
血管が浮くそれは、ひどく怒張していた。
自分に愛撫を加えながら、彼は自分の昂ぶりと闘っていてくれていたのだと、気付く。
愛しさに突き動かされながら、ハルシャは迷いなく昂ぶりを口に含んだ。
「あっ、ハルシャ」
喘ぎがジェイ・ゼルの口からあがる。
馴染んだ彼の形に、ハルシャは丁寧に舌を絡めた。先のまろみに舌を這わせて、一番先の細い割れ目に、尖らせた舌を差し入れる。
びくっと、ジェイ・ゼルの身体が震えた。
「ああ、ハルシャ」
甘い熟れたような言葉を呟いて、ジェイ・ゼルが右手を、顔を埋めるハルシャの髪に挿し入れた。
優しく、愛撫のように撫でられる。
視線を上げると、ジェイ・ゼルは自分へ眼差しを向けていた。
彼の昂ぶりを口に含むハルシャを、深く愛しげに、彼が見つめている。
ハルシャが口淫を苦手としていると知っているジェイ・ゼルは、帝星で暮らしだしてから、一度もハルシャにさせたことはなかった。
けれど、それは自分を思い遣ってのことなのだと、はっきりと悟る。
口淫をするハルシャを彼は、慈しみに満ちた眼差しで包んでいた。
懸命に口に含むことに、心を震わせるように。
どくっと、自分自身の中に、重く熱いものが駆け巡る。
彼の一部が、とても大切なものに思える。
ハルシャは眼差しを触れ合わせたまま、舌でジェイ・ゼルの形をなぞる。
教えられたとおりに、昂ぶりの裏側の三角の形に丁寧に舌を絡める。
その度に、彼の頬がぴくっと、痙攣し得ている快楽を教えてくれる。
舌を伸ばして、何度も何度も、彼が一番敏感な部分を舐め上げた。
ジェイ・ゼルが、あえやかな吐息をついた。
感じてくれている。
それだけで、ハルシャは脳が痺れそうな快楽が身を駆け巡った。
もっと。
感じて欲しい。
込み上げる切望に、ハルシャは、夢中で彼の昂ぶりを口で愛し続けた。
彼の口から、押し殺した快楽の息が漏れる。
髪を撫でる手つきが、とても優しかった。
亀頭に舌を絡め続けていたが、ハルシャは手法を変える。
口全体を筒にして、ゆっくりと出し入れする。
動きに反応するジェイ・ゼルの表情を見守りながら、胡坐を組む彼の内太腿を、空いている手で静かに撫でた。
以前、口に含んで足を撫でられた時に、とても気持ちが良かったのだ。
ハルシャは、学習したことをジェイ・ゼルに施してみた。
反応が、変わった。
形のいい眉が寄せられ、苦痛に耐えるような表情になる。
くっと、荒い息が彼の口から絞り出すように、出る。
ジェイ・ゼルが。感じてくれている――
自分の愛撫で。
ぞわぞわと、言い表しがたい快感が、背筋を這い上った。
灰色の瞳を見つめたまま、ハルシャは動きを激しくした。
ますますジェイ・ゼルの眉が寄せられる。
口がわずかに開き、そこから熱い息があふれている。
せわしない息遣いを聞きながら、自分の内側が、どくどくと脈打っている。
舌を大きく広げて、口で彼を愛撫する。
喉の奥までしっかりと、彼を受け入れて頭を動かし続ける。
「ああっ、ハルシャ……」
苦しげな息と共に言葉が溢れ、びくびくっと、口の中で彼が痙攣する。
もう、達する。
感じ取ったハルシャは、喉の力を抜き、深く彼を口の中に受け入れた。
「うっ、くっ」
小さな呻きと共に、わずかに身を捩りながら、ジェイ・ゼルの身体が震えた。
瞬間。
熱いものが喉の奥に、ほとばしる。
ハルシャは迷いなく、それを飲み下した。
痙攣しながら注がれる熱いものを、吸い取るように喉に受ける。
びくっ、びくっと、ジェイ・ゼルの身体が震えていた。
彼の吐精が終わっても、ハルシャは丁寧に昂ぶりに舌を這わした。
射精後で敏感になっている部分を、そっと優しく吸う。
快楽に耐えるように、ジェイ・ゼルが息を乱した。
彼の全てが愛しかった。
快楽の飛沫さえ、以前のような不快感を覚えない。
以前。
彼が甘いと言った言葉が、なんとなく納得できる。
愛しい白濁した液は、甘く優しい味がした。
無心に舐めとるハルシャの髪を、静かにジェイ・ゼルが撫でている。
「――苦手だろうに……」
まだ快楽の余韻に浸る声で、ジェイ・ゼルが呟いた。
「精を飲むことはなかったのに」
優しい声だった。
ハルシャは、しっかりと彼を舐め上げ、口を離すと顔をジェイ・ゼルに向けた。
「ジェイ・ゼルだから」
白濁した液を飲み下した口で、ハルシャは想いを伝える。
「出来るんだ。あなたのものは、嫌じゃない」
視線を落として、彼のものを、服の中に収める。
もうこれで、誰が来ても大丈夫だ。
ほっとしながら、顔を再び上げて、ジェイ・ゼルへ笑顔をむける。
「楽になったか? ジェイ・ゼル」
彼はふっと笑った。
「身体は楽になったよ、でも」
ゆったりと腕を回して、ハルシャは抱き寄せられていた。
「君と愛し合いたくて、仕方がなくなってしまった――」
近いところで、彼が呟く。
目を細めて笑うと、彼は静かに唇を触れ合わせた。
白濁した液を吸った口を、優しく舌先を割り入れて味わう。
長く静かに、ジェイ・ゼルは唇でハルシャに愛撫を施す。
脳が痺れて、何も考えられなくなるほど、長い時間、ジェイ・ゼルはそうやって触れ合う場所から、愛の深さを伝えてくれた。
ただ口づけを交わすだけで、これほど心が満たされるなど、思ってもみなかった。ハルシャは夢中で彼の動きに応え続けた。
時間の感覚が消え去る。
ざわめきが聞こえる。
コスモスが、風に踊る。
美しい大地の中に二人で身を寄せ合い――
純朴に、真摯に。
ひたむきに、互いを求め合う
ラグレンで出会い、今、こうやって唇を合わせていることを――
奇跡と呼ぶのだと、ハルシャは想った。
ゆったりと唇を触れ合わせた後で、ジェイ・ゼルが顔を離した。
ひどく穏やかな微笑みを浮かべてハルシャを見つめる。
「せっかくコスモス畑に来たのだから、もう少し楽しんでと思ったが……帰ろうか、ハルシャ。私たちの家へ」
私たちの家、という言葉をうっとりするほど優しい発音でジェイ・ゼルが呟く。
「きみとゆっくりと愛しあいたい……ベッドの上で」
ハルシャも知っていた。
ジェイ・ゼルが心からの素直な要望を述べるのは、ただ、ハルシャにだけだった。
わがままを言ってくれるのは嬉しいと、彼が述べたとおりだ。
ジェイ・ゼルが心の内をさらしてくれるのは自分だけだと思うと、胸が震える。
「解った、ジェイ・ゼル。帰ろう。シルガネン湖のほとりの私たちの家へ」
二人で一緒に戻る場所がある。
そのことが嬉しかった。
ジェイ・ゼルが愛しそうに微笑む。
こつんと額を押し付けて、彼は呟いた。
「また、コスモス畑を眺めにこよう。ホットサンドウィッチをお弁当にして」
「今度は私も作るのを手伝う」
「それは嬉しいね」
顔を寄せ合い、囁き合う。
「コスモスを見ながら君の手から食べさせてもらうホットサンドウィッチは、極上の味わいだからね」
「解った。約束だね、ジェイ・ゼル」
長く見つめ合った後、再び唇が優しく触れ合っていた。
さわさわと風にコスモスが揺れる。
丘に登った時、花で埋め尽くされた宇宙を二人で旅をしているようだった。
切ないほどの幸福が胸を締め付ける。
繋いだ手を離さずに、どこまでも歩いていきたい。
ハルシャは交わす熱の中で、ただひたむきに願っていた。
(了)