ほしのくさり

余話 ~天からこぼれた物語~

One Day Ⅱ
-ジェイ・ゼルのある一日-




 最近、心覚えのようにジェイ・ゼルは詩を書いていた。

 自分の半生を書くのと同時に、服務中に許された時間の中で、詩も綴っていた。
 ハルシャにこの前見せたところ、とても喜んでくれたのだ。
 彼を想いながら、書き連ねたものだった。
 ハルシャは、偉大なる科学者にして童心の詩人、ファルアス・ヴィンドースの直系の子孫だった。
 気質を少なからず受け取っているのだろう。
 ハルシャはとても感受性が豊かだった。
 言葉に出来ないだけで、彼は美しいものに感動する、豊かな感性を備えている。
 ジェイ・ゼルはそのことを知っていた。

 側に居て、表情や仕草からしか読み取れないが、彼は自然現象に対していつも感動と畏怖を抱いている。
 無邪気な子どもが、憧れを持って世界を見つめるように――
 瑞々しい感受性がハルシャの中には、いつまでも枯れることなく湧き出している。
 彼の側で世界を眺めていると、明るく美しいものに見えてくるから不思議だ。
 惑星トルディアで、一緒に眺めた紫の森のことを、思い出す。
 肺を焼く有毒な大気の真っただ中にいるというのに――ハルシャの側で見る紫の森は、たとえようもなく美しかった。
 あの時。
 彼の傍らで、ずっと一緒に世界を眺めていたいと、心から願った。
 共に暮らすことを禁じられていたというのに。
 それでも、彼と人生を歩んでいきたいと、切望した。
 願いは叶ったのだと、再び思う。

 小一時間ほど詩を綴り、ジェイ・ゼルは居間に移動した。
 リュウジから贈られたハンマー式のピアノを開き、ハルシャが喜んでいた曲を練習する。
 指があまり動かない。
 惑星アマンダに居た頃から比べると、随分腕が落ちている。ここまでほとんど弾いてこなかったツケが来ているようだ。
 『愛玩人形ラヴリー・ドール』は、様々な技能を仕込まれる。どんな要求も満足させらるように、一流の教授陣がついて、最高の教育を受ける。早熟に作られているのだろう。たった七歳で、自分たちは宇宙船の運転技術まで覚えていた。
 楽器を弾きこなすというのも、その技能の一つだった。
 自分たちは双子として作られたので、妹のエメラーダと合奏できるように教育を受けてきた。結局――ナダル・ダハットはそのような文化的な遊戯を全く理解せず、一度もピアノを弾いたことはなかった。
 再び確信する。
 自分たちは、所有に相応しくない者に、身を拘束されていたのだと。

 指を傷めない程度で練習を終え、ジェイ・ゼルは厨房に戻って、バラの様子を見た。
 しっかりと水を吸い上げて、花首がしゃんとしている。
 これなら大丈夫だろうと判断を付け、花瓶に活けた。

 白磁の花瓶に、淡いピンクの花弁がよく映えて、とても美しい。

 満足すると、そっと食卓へと運ぶ。
 机の端に置き、しばらくその風情を楽しむ。
 たくさんの花と一緒に売られている時は、何だか遠慮をしているような雰囲気があったが、花瓶に活けられた今は、花が堂々としているように見える。
 まるで、ジェイ・ゼルに選ばれたことを、誇るようだ。
 くすっと、笑う。
「きれいだよ、とてもね。君を見て、ハルシャが喜んでくれると嬉しいな」
 花に対して褒め言葉を呟き、そっと花弁を撫でる。
 繊細な五弁の花が、触れた指先の動きに、静かに震えた。

 ジェイ・ゼルは指を離すと、再び私室へと向かった。
 昔の持ち主の画家がアトリエにしているだけあって、この部屋はとても明るい。
 椅子を引き寄せて窓が見える場所に据えると、ジェイ・ゼルは最近始めた、棒針編みを取り出した。
 ゆったりと椅子に座り、左右の手にした棒を動かして、毛糸を編んでいく。
 作っているのは、マフラーだった。
 完成すれば、ハルシャに贈るつもりだった。
 飽きがこないように、複雑な模様を編みこんで作っている。
 根を詰めてするとすぐに肩が張るが、出来上がっていく様が楽しくて、ついつい長時間続けてしまう。
 何よりも――
 完成品を渡した時の、ハルシャの喜ぶ顔が見たかった。

 夕食の準備を始める時間を、細い金属の装置にあらかじめ仕込んでいた。
 時刻になったのだ。
 震えて教えてくれる。
 ジェイ・ゼルは装置を止めると、編みかけの物を籠にまとめて入れて、棚に入れる。完成まで、ハルシャに秘密にしていたいので、見つからない場所にそっと隠しておく。

 そのまま厨房に向かい、料理の下準備を始めた。
 午後六時に、ハルシャから今から帰るとの帰宅連絡が入った。
 彼はマメで、必ず帰る前には連絡をしてくれる。予定の時間が遅くなる時も、忘れずに変更を告げてくれるのだ。
 ハルシャは、誠実で相手のことを思い遣る優しさがあった。
「連絡をありがとう」
 微笑みを浮かべながら、ジェイ・ゼルは彼からの通話を受ける。
「今日はキノコのパスタだよ。そう、好きだと前に言っていたね」
 ハルシャの声に喜びが滲む。
『ありがとう、ジェイ・ゼル。とても楽しみだ』
 通話装置越しの素直な言葉に思わず笑みが深まる。
「気を付けて戻っておいで」

 いつもの会話を交わして、通話を切る。
 もうすぐ彼の顔を見ることが出来る。
 喜びが胸の中に湧き上がってくる。

 連絡を受けてから一時間後。
 予定通りにハルシャが戻ってきた。
「ただいま、ジェイ・ゼル」
 彼は外から冷気を連れてきていた。
 だんだん、冬に向けて空気が冷えてきているようだ。
「寒くなかったかい?」
 問いかけると、ハルシャは笑顔で首を振る。
「大丈夫だ。きちんと上着を着ていたから」
 その上着を脱ぎながら、彼は微笑んだ。
「とてもいい香りだ、ジェイ・ゼル。メニューを聞いて、待ちきれなかった」
 いそいそと側に寄り、自分の手元を覗き込む。
 ハルシャは、一緒に厨房に立つのが、とても好きだった。
 興味深げに、フライパンの中にあるキノコの様子をみている。
 無邪気に料理を喜んでいた。
 隙のある様子をしていると、離れていた時の寂寥が湧き上がり、唇を覆いたくなる。
 キノコを炒めていた手を止めて、頬に触れる。
 ひんやりとしていた。
 やはり、空気が相当冷えているのだ。
「頬が冷たいね」
 呟くと、手の平で温もりを与えるように、包む。
 応えようとして顔を向けたハルシャの唇を、顔を寄せてそっと覆った。
 唇も冷えていた。
 熱を注ぐように、彼の唇をゆっくりとあえる。
 小さな呻きが上がった。
 ふと。
 今朝の、はにかんだ笑みを思い出す。
 昨日慈しんだので、次は三日後。
 彼の身に負担をかけないように、ジェイ・ゼルは鉄の自制心で己を御していた。
 これ以上深入りすると、今夜もまた彼を愛したくなってしまう。
 彼の頬が温もりを帯びたことを確かめてから、そっと唇を外した。
「パスタを湯がいたら出来上がるよ。もう少し待っていてくれるかな、ハルシャ」
 頬を赤らめて、彼が自分を見返す。
「解った」

 その後も料理を続ける自分の側に、ハルシャは佇んで料理のアシスタントをしてくれる。彼は有能だった。
 茹で上がったパスタをキノコのソースに絡め、温めておいた皿に盛ると、一刻を惜しんで食卓に着く。
 熱々を食べてほしかった。
 簡単な肉料理とサラダは、既に机に置いてある。
 席に座ろうとして、ハルシャは机の上のバラに気付いた。
「新しい花だ、ジェイ・ゼル」
 驚いたように彼は言った。
 笑いがこぼれる。
 以前、コスモスをガーベラと言った時には、思わず固まってしまったことを思い出す。あまりにも衝撃だったのだ。
 ハルシャは植物の区別が付かないようだった。

「良く気づいたね。これはバラだよ」
「バラ!」
 心底驚いたように、ハルシャが裏返った声で言う。
「だ、だがジェイ・ゼル。バラはこんなのではないのか?」
 手を細めて重ね合わせて、花弁が多いことを懸命に表現している。
「そうだね。普通のバラは花弁が多いけれど、一重のものもあるんだよ。バラの原種には五弁の花弁のものが多いからね。原種の形質にちかいのかもしれないね」
「そうなのか」
 感心してハルシャは花を見ている。
 ふと、香りに気付いたようだ。花に顔を近づけて、深く息を吸ってから不意に笑顔になる。
「ジェイ・ゼル。とても良い香りがする」
 弾んだ声で彼は言った。
 予想した通りの反応だった。
「ちょっとスパイシーだね。一般的なバラの香りとは違うかもしれない」
「でも、良い香りだ」
 嬉しそうにハルシャが言う。
「とても優しい香りだな、ジェイ・ゼル」

 贈られる人も、贈ってもらうバラも幸せだと彼女は言った。
 だが、一番幸せなのは。
 この笑顔を見ることが出来る、自分だった。

「喜んでもらえて、嬉しいよ、ハルシャ」
 椅子を引きながらジェイ・ゼルは静かに続けた。
「食事にしようか、ハルシャ。せっかくのパスタが冷めてしまうよ」

 向かい合って机に座り、丁寧に感謝の言葉をハルシャが述べてから、一緒に食べ始めた。
「とても美味しい、ジェイ・ゼル」
 満面の笑みを浮かべて、ハルシャが賛美を送ってくれる。
「唐辛子のぴりっとしたのと、キノコの風味がとても良く合っている。いくらでも食べられそうだ」
「それは良かった」
 想像していた以上の笑顔を見つめて、静かな幸福感が胸の中を満たす。
「以前市場に行ったときに紹介した、メリガンさんを覚えているかな? ほら、トマトとナスを買った――」
 話の口を切ると、ああ、とハルシャがうなずいた。
「憶えている。素敵な方だった」
「そこで買ったキノコだよ。メリガンさんはキノコに詳しいらしくてね」
 へえと、ハルシャが感心している。
 その様子に、くすっと笑ってしまう。
「またハルシャと一緒においでと、仰っていたよ。おまけをしてあげるからね、と」
「いいのか?」
「なにがだい? ハルシャ」
「おまけをしたら、メリガンさんの損にならないのか?」
 そんなところに、気を遣ってしまうようだ。
「ハルシャは優しいね」
 心の底から呟く。
「でも、大丈夫だよ。彼女たちは商売人だからね。決して損にならないところを、きちんと塩梅しているからね」
「そうなのか?」
「そうだよ――たとえば、彼女たちが扱うのは青果だからね。売れ残るよりかは、売り切った方がいい。少し残りそうだと思うものを『おまけ』としてつけてあげれば、こちらは売れ残らず処分しなくてすむし、相手はおまけをしてもらって気持ちが良いだろう。この店は気前がいいとなると、またそこで買おうと思うのが人情だ。そうするとリピート率が高くなって、結果としては物が良く売れるようになる」
 ジェイ・ゼルが説明したことに、ハルシャは目をパチクリとしていた。
「損をして得を取れ、とも言われるけれどね。短期ではなく、長期で物事を考えると、おまけをつけるのは、結果として損にはならないわけだね」
「そうなのか?」
「そうだね。私もやはり、メリガンさんの所で買おうと思ってしまうからね。もちろん、彼女の店の野菜が上質なのが一番の理由だけれどもね」

 ふうんと、ハルシャがうなずいている。

「ハルシャは」
 その様子を見ながら、ジェイ・ゼルは愛しげに呟いた。
「いつも損得抜きで、相手のために精一杯を尽くそうとするからね。メリガンさんのことも心配になったんだね」

 褒め言葉に、ハルシャが頬を赤らめる。

「――私は、不器用で、色々なことを上手く計算が出来ないから……」
 恥ずかしげに、彼が呟いた。
「計算しなくていいよ、ハルシャ」
 パスタをフォークに絡めながら言う。
「それが君の良いところだ。側に居て、とても安心できる」

 ハルシャは真っ赤になったまま、一生懸命にパスタを食べはじめた。
 彼は本当に照れ屋だ。
 いとけなさに、笑みがあふれる。

「良い食べっぷりだね。気に入ってもらえて嬉しいよ。作った甲斐があったな」
 笑みを浮かべたまま、ジェイ・ゼルは呟く。
 ハルシャはただ、うんうんと頷いていた。
 食事をする穏やかな沈黙の中に、優しいバラの香りが漂っている。
 幸せだと、ジェイ・ゼルは内側に呟いていた。


 *


 ベッドに入る段になって、
「横になってくれ、ジェイ・ゼル」
 と突然ハルシャが言い出した。
 かすかに戸惑う。
「どうしたのかな、ハルシャ」
「ちょっと試したいことがある。背中を向けて横になってくれないか、ジェイ・ゼル」

 風呂にもうすでに入り、あとは眠るだけの段取りだった。
 ジェイ・ゼルはしばらく動けなかった。
 三日に一度、ハルシャを慈しんでいる。
 だが。
 本当なら、毎日彼を抱きたいのが本音だった。
 ただ。
 彼の身体を慮って、間隔を開けているに過ぎない。
 下手にハルシャに刺激されれば、問答無用で抱いてしまうかもしれない。

「教えてくれないかな、ハルシャ。何を試したいのかな?」
 煙幕を張るように、彼に問いかける。
 ハルシャは、ちょっと下唇を噛み締めた。
「――ジェイ・ゼルに、マッサージをしたい」
 驚きに微かに目が開く。
「私に?」
 唇を再び噛んで、ハルシャはこくんとうなずいた。
「最近、ジェイ・ゼルは肩が辛そうだ。よく無意識に肩をもんでいる」

 編み物のせいだ。
 根を詰めてしすぎたのかもしれない。

「大丈夫だよ、ハルシャ」
 笑って危惧を解こうとしても、彼は引かなかった。
 とても辛そうだ。
 と心配しきっている。
「ジェイ・ゼルの肌にも大丈夫なオイルを見つけてきた。これで背中をマッサージするから、横になっていてくれるだけでいい」

 懸命に言い張る言葉に、折れる形でジェイ・ゼルはベッドに裸身を横たえた。
 まずい。
 嫌な予感しかしない。
 通常の人類が感じる以上に、自分は肌の触れ合いで相手を欲してしまう。

「完全天然素材の、乳幼児の肌でも大丈夫なオイルなのだが――少し、試しにつけさせてくれ」
 ちょんと、手首にオイルがつけられる。
 大丈夫そうだ。
 そう告げると、ハルシャは満面の笑みになった。
 オイルはバラの香りがした。
 優しい香りだった。
 手の平で温めてくれたのだろう。温もりのあるオイルが、背中にそっと乗せられた。
「痛みや、不快感があったら言ってくれ。止めるから」
 口を耳元に寄せて、ハルシャが呟く。
「私のために、わざわざ探してくれたのかな?」
 肌が敏感に作られているために、ジェイ・ゼルは天然の素材でないと受け付けない。それを知っているハルシャは、皮膚に負担をかけないものを選んでくれたようだ。
「そういう方面に詳しい人がいて、教えてもらったんだ」
 ちょっと照れたように彼は言う。
 背中を向けているので表情は解らないが、恐らく頬が赤らんでいるのだろう。

 オイルを馴染ませるように、そっとハルシャの手の平が背中を滑る。
 心地よかった。
 微かな喜びの吐息がもれる。
 絶妙な力加減で、ハルシャはジェイ・ゼルの背中の凝りをほぐしていく。
 血行が良くなっていったのだろう。じんわりと背中が温かい。

「大丈夫か?」
 心配げにハルシャが尋ねる。
「痛くないか?」
「大丈夫だよ、とても気持ちがいい」
 そう言うと、ハルシャが良かった、と口の中で呟いている。
 
 ハルシャの手が優しく肌を撫でる。
 首筋から肩に、そして肩甲骨にと手が滑る。
 不思議なことに、情欲が兆すよりも、穏やかな安心感が胸の中に広がっていった。
 ほんの少し、微睡に引き込まれていく。
 うとうととしかけたようだ。
 声をかけようとしたハルシャが、少しためらった。
 黙って彼は柔らかな布で、背中に塗ったオイルを拭っている。
 その穏やかな手つきを、ぼんやりした意識の中で感じる。
 やがて作業を終えたハルシャは、部屋の明かりを落として、そっと自分の傍らに身を横たえた。
 半分眠ったような状態で、彼の静かな動きを感じ取る。
 ハルシャは自分が寝ていると思っているようだ。
 腕を動かして、自分たちの上に布団をかけている。きちんとジェイ・ゼルに上掛けがかかっているのか、伸びあがって確かめていた。
 整えおえてからもそもそと動いて、自分に身を寄せてきた。
「おやすみなさい、ジェイ・ゼル」
 小さく呟いて、眠りに入ったようだ。
 しばらくしてから、穏やかな寝息が耳に触れ出した。
 腹ばいになったまま、ジェイ・ゼルはわずかに瞼を開いた。
 目を閉じるハルシャの顔が傍らにあった。
 腕を動かし、彼の髪を撫でる。
 彼はとても寝つきがいいので、もう眠り込んでいた。
 筋肉をほぐしてくれた後の、気だるい心地良さが身を覆う。
 ハルシャは自分を楽にしようと、心を砕いてくれたのだ。
 痛みを与えないように、丁寧にほぐしていた手の動きを思い出す。
「ありがとう、ハルシャ」
 小さく呟き、髪を手で撫でる。
 寝顔を見つめていると、ふと、どうしてあのバラに心惹かれたのか、その理由が解ったような気がした。
 
 一重のシンプルなあのバラは――
 どことなく、ハルシャを想わせた。

 飾りのない素朴な花びらを、懸命に開いて咲いている。
 他のバラのような豪華さはないが、それでも凛とした風情はやはりバラだった。
 そして、内側から優しい香りを滲ませる。
 過酷な環境の中で、懸命に生きていたかつてのハルシャのことを思い出す。
 運命に痛めつけられながらでも、彼は気高く優しかった。
 彼を守りたいと思った。
 世界の全てから――この身を盾にしても、守り抜きたいと願い続けていた。
 優しく髪を撫でる。
 過去が去来し、ジェイ・ゼルは微かに目を細めた。

 柔らかな花弁の、素朴なバラの花。
 香りをかいで無邪気に笑っていた姿が視界をよぎる。
 温かなものが胸に溢れた。
 腕で守るようにハルシャを包む。
 しばらく寝顔を見守ってから、ジェイ・ゼルは目を閉じた。

 また、朝が来れば、一日が始まる。
 同じような日々を繰り返して、年月を重ねていく。
 けれど。
 ハルシャと暮らすその一日一日が……
 いつも新しい驚きと喜びに満ちていることを――
 ジェイ・ゼルは知っていた。

「おやすみ、ハルシャ。良い夢を」

 呟きを夜に融かすと、ジェイ・ゼルもまた深い眠りの中へいざなわれていった。




(了)




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