ほしのくさり

話の小箱
~ラグレン拾遺~

マシュー・フェルズの会計日記 Ⅰ


はじめに

※ハルシャたちがラグレンにいた頃の小話集です。
※パロディ要素が強いです。軽い読み物としてお楽しみください。

今回は、勤勉なジェイ・ゼルの会計士、マシュー・フェルズの物語です。



※ジェイ・ゼルの勤勉な会計係のマシュー・フェルズが、どうやら日記をつけていたようです。
その一部を、ご紹介いたします。





〇日×日 
 今日も事務所に、ジェイ・ゼル様が爪を、やすりで磨く音が響いていた。
 ハルシャ・ヴィンドースに逢う予定の日なのだ。
 彼に逢う日はいつも、ジェイ・ゼル様はご自分で丁寧に爪を磨かれる。
 爪を整えるのなら、専門家に託せば良いように思うが、ジェイ・ゼル様はこだわりが強くていらっしゃるので、他人に任せられないようだ。
 丹念に先を触り、滑らかさを確認されている。
 この上なく真剣なので、誰も声がかけられない。
 静まり返った事務所に、シュッシュッとジェイ・ゼル様が爪を削る音だけが響いている。
 そして今日も、食事代プラス『エリュシオン』の使用料、三十ヴォゼルを越える金額が、ジェイ・ゼル様の個人資産から、消えていく。
 ハルシャ・ヴィンドースのために、それだけの金額を支払う価値があるのかと、常々思うが、ジェイ・ゼル様にとっては、価値があるらしい。
 見たところ、ハルシャ・ヴィンドースはあまりありがたがっていないようだが……ジェイ・ゼル様が時々、気の毒にも思える。


△月〇日
 今日のジェイ・ゼル様は、取り寄せたカタログを熱心にご覧になって、なかなか仕事をして下さらなかった。
 プロキオン星系の医療メーカーが最近開発した、ローション関係のカタログだ。ローションに治療効果が望めるらしい。ハルシャ・ヴィンドースの健康のことを、ジェイ・ゼル様は最重要視されているようだ。
 こういうのは、実際に試してみないと解らないね、マシューと、意見を求められたが、サンプル品でもないものを、正規の値段で十種類も取り寄せて、どうなさるのですか、と静かに申し上げるに留めておいた。
 そうか。とその後も色々考えていらっしゃるようだった。
 誰がジェイ・ゼル様にカタログを渡したのか、判明次第、締めておこうと思う。


□月◎日
 あり得ない金額の請求書が、来た。
 ジェイ・ゼル様が、半日も空気洗浄機付きの飛行車をチャーターなさったようだ。どのぐらいの余裕があるかな? とそれとなくジェイ・ゼル様が、打診されていたことを、苦々しく思い出す。どうしてあの時、素早く残高はほとんどありませんと、嘘をつかなかったのだろうと、悔いを覚えた。
 
 ネルソンに問いただしたところ、ハルシャ・ヴィンドースを連れて、外界で半日を過ごされたようだ。
 ハルシャ一人のためにこれだけの金額を……と、軽い目眩を覚えてしまった。
 しかし。
 ジェイ・ゼル様がその日から、とても朗らかに日々を過ごされるようになった。
 そのお顔を拝見していると、まあ、良いかと思ってしまう私は、甘い会計係だろうか。
 このチャーター代金を回収するためにも、ジェイ・ゼル様には、一層ご活躍いただかなくてはならない。
 けれど――
 ハルシャ・ヴィンドースと関わっている限り、ジェイ・ゼル様の個人資産が目減りしていく未来しか、予想できないのは、なぜだろう。
 会計係として、とても忌々しき事態だと、危機感を覚える。



……以上、『マシュー・フェルズの会計日記』よりの抜粋でした。
 マシュー・フェルズも、ジェイ・ゼルに振り回されて、色々苦労しているようです。お気の毒に。



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